宇宙(そら)の子
少し後。宿に戻ったカルドラとアイーシャはサニアを交え近くの飯屋へ赴いていた。
そして料理を待っている間、カルドラの前には"例の珍味"が置かれていた。
「お昼に居なかったので取っておきましたよ♪」
「あ、あぁ…。ありがとう…、サニア」
一応普通の可食部を調理した料理も隣にあるのが救いだが、ギルドの職員がコメントを控えるこの"珍味"を食べるのはすごく怖い。
「…2人は食べたんだよな? どうだった?」
2人に感想を聞いて、少しでも情報を集めたいカルドラ。
「まさに"珍味"って感じでした♪」
「私はおいしくいただきました!」
サニアの言葉がすごく怖い。そしてアイーシャに聞いたのは間違いだったと思った。
「カルさん、早く食べないと注文した料理が来ちゃいますよ?」
サニアに急かされる。
少し上を向いて目を瞑り、覚悟を決めた。
ぱく
「(………もぐ………もぐ………もぐ………)」
何とも言えない顔で咀嚼するカルドラ。
それを楽しそうに眺める2人。
「どうですか?」
アイーシャがわくわくした様子で尋ねる。
「…………ごくんっ。………酒豪が好きそうな味だなと思った」
ねっとりとこりこりが両立した謎の食感と、噛めば噛むほど広がる謎の風味。不味くはないが、美味くも無い。たぶん子どもには受け入れられない"大人の味"というやつだろう。
カルドラの反応を楽しそうに眺める2人。カルドラには彼女たちの感情を読み取ることができない。
とりあえずその珍味を素早く食べ終え、普通の可食部を調理した料理を食べる。
こちらはさすが料理上手のサニアが作っただけあって素晴らしい味だった。先ほどの何とも言えない"珍味"を上書きするようにじっくり味わって完食した。
「ご馳走様サニア。おいしかったよ」
「お粗末様です♪」
嬉しそうに食器をポケットにしまうサニア。
彼女は料理を作るだけじゃなくそれを食べて貰うのも好きだ。大満足である。
そしてクオーツサラマンダーの試食に一区切りついたところで、カルドラが本日味わった驚愕体験の共有を始める。
「さて、2人とも。今日一日ソラと行動を共にして、驚愕の事実が判明したのでそれの共有をしたい」
カルドラの言葉にアイーシャとサニアが顔を見合わせる。
「ソラちゃんの行動が変だった理由がわかったんですか?」
「……一応、わかった。落ち着いて聞いてくれ。今日おれはソラに道案内されて鉱山に行ったんだ。そこに、でっかいドラゴンがいた。ソラは日中そのドラゴンの所で遊んでたらしい」
「………え???」
「ド、ドラゴン…ですか…?」
目を丸くする2人。無理もない。こんな町の近くにドラゴンがいるなど誰が信じられようか。
「き、危険はなかったんですか…?」
心配した様子でサニアが尋ねる。
あの愉快な性格の巨大なドラゴンを思い浮かべながら答える。
「危険はなかった。すごい重圧だったけど…。あのドラゴンは思念を飛ばして話ができるみたいでさ。いろいろ話してきたよ。一応これからも危険はないと思う。あのドラゴン、『人族の営みの観察』が趣味なんだとさ。そのためにわざわざ"認識阻害の結界魔法"まで作ったらしい」
「観察が…趣味…」
「認識阻害の…結界魔法…?」
2人とも理解が追い付かないようだ。気持ちはわかる。カルドラ自身も理解を捨てて事実をただ受け入れているだけに過ぎないのだ。
「ソラちゃんが…、カルさんをそこに連れてったんですよね? なんでわざわざ…」
アイーシャが混乱しつつ聞いてきた。きっとその答えを言ったら余計混乱するだろうが、ありのままを伝える。
「ソラがそのドラゴンをおれに紹介したかったらしい。理由はそれだけなんだと…」
「し、紹介したかった…だけ…?」
カルドラがそれを聞いた時と全く同じ反応をするアイーシャ。気持ちは良くわかる。
「サニア。そのドラゴンがおれにはよくわからないことを言ってたんだ。ちょっと知識を借りたい」
「え? えーと、私にわかるかどうか…」
困惑するサニア。しかしカルドラには他に当てがない。
「あのドラゴンはソラを『そらの子』、自分を『ほしの子』って言ってた。その前の話で『母なるほし』って言葉が出てたから龍脈関連の話だと思うんだが…、どう思う?」
「ほし…。"星"ではないのですか?」
サニアが確認する。カルドラは自身の知識と符合させながら答える。
「星って夜空に見える点点だろ? なんでそれが母なんだ?」
「あぁ…なるほど。そうですよね。一般的な知識じゃないですものね…」
「…? あのドラゴンも『古代の知識か…』みたいなこと言ってて、最終的に『気にするな』って言われちゃってさ。こっちは訳がわからない」
サニアが唇に人差し指を当ててう~ん…と唸っている。どう説明するか悩んでいるようだ。
アイーシャは驚愕の表情で固まっている。彼女はさっきの話が理解できたらしい。1人置いて行かれてる感覚になり少し寂しいカルドラ。
そしてサニアが口を開く。
「難しい学問の話になってしまうので、ものすごく簡単に説明しますね。夜空に見える点点、あれは一つ一つがとても大きな球体なんです。私たちが想像もできないような遠い所にあるので点点に見えるだけなんです。"太陽"や"月"も星なんですよ?」
「ん…、がんばって聞く…」
カルドラが真剣な表情で固まっている。そんな彼にサニアは少しほっこりするが、真面目に説明を続ける。
「そして私たちが今立っている大地、これも"星"です」
「…ん。…ん???」
混乱し始めたカルドラ。サニアは人差し指に魔力を集め、魔法陣を書く要領でテーブルに絵を描き始める。
「この〇が星だと思ってください。私たちはその上で暮らしています。そしてこの〇の中にも私たちの身体と同じように魔力が流れています。それが龍脈です。ドラゴンは龍脈から生まれる。つまり龍脈の魔力の持ち主である星が母というわけです」
「……………か、関係性はわかった。つまり星は"やばいくらいでかい"ってことだな?」
「その認識で大丈夫です」
なんとかついて行くカルドラ。そして最初の疑問に立ち返った。
「『そらの子』の"そら"って何を指してるんだ? あのドラゴンはソラのことを『世界より壮大だ』って言ってたけど…」
「…………おそらくですが、宇宙のことを言っているのではないかと…」
「うちゅう???」
サニアが真剣な表情でテーブルの絵を指す。
「私たちが暮らすこの〇、そして月やほかの星たち、それらが在るこの空間全てが、"宇宙"です」
「…………ソラは…宇宙で生まれた?」
「話を聞いた上での推測ですが、おそらくそうなのでしょう」
「……………」
言葉が出ない。重い沈黙が3人を包む。
いつも無邪気に自分たちの周りで遊んでいるソラが、実はとんでもない存在なのだという事実が、彼らから言葉を奪い取ってしまった。




