出力検証(腕相撲)
そして朝食を終えた2人はカルドラの部屋へ移動した。
備え付けの簡易テーブルを部屋の中央へ持ってきて準備完了である。
「じゃあ初めは開放無しの身体強化からいくぞ。そこから開放無し身体強化+特殊体質での強化、次に5層開放の身体強化、そして5層開放の身体強化+特殊体質での強化って順に強くしていく。ちなみに開放無しの身体強化が常人換算で出力3割だ」
「わかりました。こちらでもある程度計算してみます。では…」
そう言うとサニアが身体強化を発動、シュバァっと身体から魔力が迸る。素の筋肉量が少ないため外見では変化がわからないが、きっと今のサニアは男と格闘戦ができるほど力強いはずだ。
「…よし、始めよう。銅貨を投げる。落ちたら開始だ」
「了解です」
そしてカルドラも身体強化を発動しテーブルに肘を置く。促されるようにサニアもテーブルに肘を置き、カルドラと手を組む。
不思議な緊張感が部屋を支配する。その緊張感を感じながら、カルドラが銅貨を指で弾く。2人は空中の銅貨は見ず、音に集中する。
そして…。
チャリン
ぐんっ!
始まると同時にサニアが押していく。あっという間に…。
とんっ
サニアがカルドラの手の甲をテーブルに付けた。
「…今のが常人の3割ですね。覚えました」
サニアが頷く。
「じゃあ次は特殊体質を使うぞ。これの強さは体格の良い男が身体強化を使ったのと同じくらいだ」
「……だいぶ飛びますね。人が普段セーブしている力ってすごいんですね」
これは前にアイーシャを助けるために腕相撲した時と同じ状態だ。あの時は腕を壊しながらギリギリで勝利した。カルドラ自身もあれは無茶だったと思っている。勝てて本当に良かった。
「壊れたら元も子のないからな。人の身体はほんとに良くできてるよ。…じゃ、始めよう」
「はい」
そして先ほどと同じように手を組み、銅貨を弾く。
チャリン
ぐっ!
(!!! びくともしない…!)
さっきと同じように挑んだサニアだったが今度は全く歯が立たない。まるで壁を押しているような手応えだった。
「…押すぞ」
「!」
カルドラはそう言うと少しずつサニアの手を押していく。そしてやさしく手の甲を付けた。
「すごいですね…。壁を押してるみたいでした…。これでまだ魔法陣は開放してないんですよね? 4層開放に慎重になるのも納得です」
「あぁ。魔法陣の開放は無し、特殊体質で筋力を引き出した状態だ。今のは全力の7割くらいの力で押し返した。つまりサニアは、身体強化を使った体格の良い男の7割の力があるってことだな」
「ふふ、あまりうれしくないですね♪」
「はは、ごめん」
軽く笑い合い、高まった緊張を少しほぐす。
そしてこの検証の本題部分に足を踏み入れる。
「よし。じゃあ5層開放状態で身体強化を使う。大雑把でもいいからこの状態の常人換算は把握しておきたい」
そしてカルドラが5層を開放し、身体強化を発動する。
身体からぶわぁっと魔力が迸り、筋肉がぐっと膨張する。しかしその見た目以上に、身体から発せられる"威圧感"が先ほどとは比べ物にならない。
サニアの額に汗が滲む。何度かこの状態のカルドラが戦っているのを見ているが、正面に立つとこれほどまでにすごい存在感なのかと思った。
びりびり感じるその"圧"に飲まれないように、言葉を発する。
「わかりました。いきましょう」
そしてまた簡易テーブル越しに手を組む2人。カルドラが銅貨を弾く。
チャリン
ぐっ!
(…だめ! 相手にならない…!)
必死に押そうとするサニアだったがカルドラの手は微動だにしない。
対するカルドラは真剣な表情で力加減を確かめているようだ。
そして…。
「…押すぞ」
「…っ」
ぐぐ~っとカルドラがサニアの手を倒していき、やさしく手の甲を付けた。
「……私じゃこれ以上の検証は無理みたいですね」
少し悔しそうにするサニア。カルドラは少し自分の手を眺め、そしてサニアに声を掛ける。
「いや、すごく助かったよ。おかげで今の状態の常人換算がだいたい掴めた。たぶん常人の身体強化の1.2~1.3倍くらいの出力が出てるな。これを特殊体質で限界まで筋力を引き出したなら"あの威力"も有り得るのかもな…」
「1.3倍…。解放されている魔力量から考えるととんでもない高効率で魔法が発動してますね。もし私が同じ魔力量で魔法を使ってもそうはなりません」
カルドラがいろいろ納得しているとサニアが難しい話をし出す。その手の話はカルドラにはよくわからない。
「効率云々はよくわからないけど、悪いことではないんだろ?」
「はい。とても良いことです。羨ましいくらい」
笑顔のサニア。その表情を見てカルドラも表情が緩む。
「さて、検証はここまでにしよう。これ以上やるとサニアが怪我しちゃうからな。付き合ってくれてありがとな」
「少しでも役に立てたのなら何よりです。私の力の度合いもわかりましたしね♪」
「はは、悪かったって」
サニアに検証を付き合ってくれたお礼を言い、冗談も交えまた笑い合う。




