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双棍のトラベラー  作者: コルミ
町での生活 2
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無防備?

 夜の町。晩の食事を終えた家々が団欒の時を過ごす。

 そんな安らぎの空気が流れる町の兵舎近くの広場で、1人の青年は剣を振る。

 兵舎に戻る兵士たちがちらちら視線を送る中、静かに集中し、彼は剣と対話する。


「お、あの兄ちゃん今日も来てるんだな」

「あぁ、あの剣かなり重そうだからな。早く使いこなせるようになりたいんだろ」

「初々しいねぇ。………おれも久々にやるか」

「はは! 感化されてるじゃねぇか! じゃあおれも付き合うよ」

「ははは! おまえもじゃねぇか!」


 歩く兵士の中からそんな会話が聞こえてくる。

 遠くにいる彼にその会話は届かないが、彼のひたむきに剣を振る姿は、兵士たちの心に僅かな熱を伝えていた。


(……よし。だいぶ動けるようになってきた)


 そんな彼、カルドラは、昨日に続く素振りで確かな手ごたえを感じていた。


(棍棒やショートソードみたいな練度にはまだまだ届かない。でも、確実に良くなってる)


 彼の本来の武器は棍棒とショートソード。それらは今、強度を上げるために鍛冶屋で強化してもらっている。

 その間に何かあっても戦えるように彼が手に取ったのが、今振っている漆黒のロングソード。

 いつもと違う武器種、さらに鋼より重い素材で作られた特殊なそれを使いこなすべく、ひたすらに剣を振る。


「ふーーーっ」


 昨日とは違い、今はスタミナ検証はしていないため適度に休憩を挟む。

 身体を動かし、休みながら頭で整理、そして身体を動かす…。今日はそんな感じで素振りをしていた。


(………あれ?)


 息を整えながら動きを頭で反芻していると、広場にちらほらと兵士が来ていることに気が付いた。

 武器を振る者、型を繰り返す者、中にはゆったりとではあるが模擬戦をしている者もいる。


(すごいな、この町の兵士は。ああやってリラックスして復習することで、確実に技術を身に付けていくのか…)


 兵士たちの行動が自分の影響だということなど露知(つゆし)らず、素直に感嘆するカルドラ。


(よし。おれも胸を借りるつもりでがんばりますか!)


 そして彼は気合を入れ直し、兵士たちに交じり素振りを再開する。

 それからしばらく、夜の公園には剣を振る音が響くのだった。




 次の日の昼前。

 カルドラ、アイーシャ、サニアの3人は町周辺の森を探索していた。

 前日に受けた依頼のターゲットであるクオーツサラマンダーを探すためだ。

 聞き忘れた情報も森に入る前にギルドで確認済みだ。サニアの懸念通り、やはりクオーツサラマンダーはウォーター・レイという魔法を使えるらしい。

 致命傷になるような威力ではないようだが、それで動きを牽制され噛みつかれでもしたら非常に危険だ。

 対象の皮素材が必要な依頼のため、弱らせようとむやみに攻撃するわけにもいかない。

 どう立ち回るべきか、3人は歩きながら話し合う。


「おそらく私は攻撃に参加できません。ダメージを与える方法が"目を潰す"ことに限定されてますから、私の魔法では範囲が広すぎて体表を傷つけてしまいます。代わりに対象の周りを走り回ってアイスウォールで囲ってみます。少しは動きの牽制になるかと」

「攻撃はおれに任せてくれ。そのウォーター・レイって魔法の攻撃範囲がどんなもんか見極め次第この剣で突きを狙う」

「私は今回はプロテクションじゃなくて"リフレクション"を使いますね。魔法だけを反射する防壁なので2人の動きを邪魔しないで済みます」


 アイーシャが口にした初めて聞く名前の魔法にカルドラが首を傾げる。


「そのリフレクション?ってやつでアイーシャの守りは十分なのか?」

「はい。昨日見た感じ、あのトカゲちゃんは近づかない限り積極的に攻撃してこないと思いまして。水魔法の反射なら体表を傷つけることもないし、たまには攻撃にも参加したいじゃないですか♪」


 ちょっと楽しそうに話すアイーシャ。

 サニアも頷き賛同する。


「良いと思います。ウォーター・レイを反射されれば対象も驚いて隙ができるはず。カルさんの攻撃チャンスが増えます」


 カルドラも頷き納得する。


「よし。それじゃあ皆そんな感じでやってみよう。昨日のでっかい猫みたいに横やりもあるかもしれないから、戦闘中も周辺の注意も怠らないようにしような」

「了解です!」「わかりました」


 作戦も決まりそのまま探索を続行する3人。

 ちなみにソラは町で待機してもらっている。ドラゴンであるソラが一緒だと周辺の動物たちが委縮して対象が逃げてしまうかもしれないからだ。

 こういう普通の生き物を対象にする依頼の時はソラの生物としての格の高さが仇になってしまう。


(帰ったらいっぱい撫でてやるからな…!)


 町で遊んでいるであろう相棒への思いを胸に、カルドラはクオーツサラマンダーを探す。

 しばらく探索を続けると、サニアが何かを発見する。


「…! カルさん、あれを…」

「…!」


 サニアが示した方向を見ると、川に尻尾を浸けた状態で寝そべり、じっとしているクオーツサラマンダーを確認できた。

 体長は3メートル強。昨日の個体よりはるかに大きい。


「…見つけたのはいいが、あの状態はまずいな」

「そうですね…。下手に刺激するときっと逃げちゃいます…」


 さっきアイーシャはトカゲちゃんと言っていたが、彼らは歴としたサンショウウオ、両生類だ。当然水の中でも活動できる。川に入られたらカルドラたちにはどうすることもできない。

 なんとか川から引き離す方法はないものかと考える3人と、頭をこちらに向けたまま微動だにしないクオーツサラマンダー。

 そんな、周囲を全く気にしてなさそうな対象の顔を見ていたら、あることを試してみたくなったカルドラ。2人に確認してみる。


「…なぁ。小細工無しで正面から攻撃できないかな? うまくいけば1撃で終わるぞ」

「え? 本気ですか?」

「さすがに無謀なのでは…」


 かわいそうなものを見る目をする2人。

 そんなにダメな作戦だったか?と少し傷つくが、あのクオーツサラマンダーの無防備な顔を見ているといけそうな気がしてくる。


「ギルドの話を聞く限り、一発で致命傷になるような攻撃は噛みつきだけだし、ちょっと行ってくる」

「ちょっ! カルさん!?」


 カルドラは2人の制止を振り切り、身体強化を発動して対象との距離を一気に詰める。

 クオーツサラマンダーはそれに気付いているのかいないのか、どこを見ているのかわからない表情でぼーっと寝そべっている。


(ここまで接近しても微動だにしない…。本当にいけそうだ)


 ほぼトップスピードに加速したカルドラは剣を構え、目に向けて突きを繰り出そうとした。

 その時。


バシュウウウウウ

「うおおおおお!????」


 カルドラの真下から高圧の水が噴射され、カルドラは空中へ放り出された。


「なっ!!!」

「カルさああああん!!!」


 アイーシャとサニアが声を上げる。

 カルドラは慣性に乗ってクオーツサラマンダーの頭上を通過し、そのまま川の向こう岸まで飛んで行った。

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