頼ってください
サニアが宿に戻ると、入り口でカルドラとアイーシャに会った。2人も丁度帰ってきたところだった。
せっかくなのでこのまま食事にしようということで、3人で飯屋へ移動した。
料理を注文し、それを待ちながらカルドラが今日あったことを報告する。
「――と、いう感じで、クオーツサラマンダーはだいぶ強そうだった。目を潰せと言われたが、水魔法の防壁ってどれくらいの防御能力なんだ? それの堅さによってはかなり手ごわいぞ」
「水の防御魔法は私もわからないんですよね…。属性魔法は苦手なものでして…」
アイーシャは属性魔法が苦手らしい。だから攻撃魔法が使えないのか、と1人納得するカルドラ。
そこにサニアが魔導士としての見解を話す。
「たぶんウォーターウォールですね。でも防壁と言っても所詮は水の塊なので、貫通力のある攻撃なら突破は容易なはずですよ。例えば剣の突きとか。私としては防壁以外でどんな魔法を使えるのかが気になりますね。もしウォーター・レイが使えるなら相当厄介ですよ?」
ウォーター・レイとは水を高圧で噴射する魔法である。使用者の技量で威力がかなり変わるが、雑に使っても水圧で邪魔したり牽制したりできるのでなかなか使い勝手の良い魔法だ。
ちなみにサニアが全力でこの魔法を使うと、高圧縮して細くした水の噴射で木を切断できる。ここまでやるともはや別の魔法だが、とんでもない量の魔力と集中力を使うので戦闘では使えない…。
「しまったなぁ、その辺は全く聞いて来なかった…。明日森に入る前にもう一回ギルド行くか…」
「それがいいかもですねー」
カルドラとアイーシャが頷き合う。
サニアはまったり作戦会議をするこの雰囲気を楽しむ。
「明日サニアはどうする? 一緒に来るか? おれたちが勝手に受けてきた依頼だけど」
「んー、そうですね。私もクオーツサラマンダーを見たいのでご一緒します♪」
「わーい♪ 一緒にがんばりましょー!」
和気あいあいの3人。
そしてサニアも今日あったことを報告する。
「カルさん、アイーシャさん。ちょっと真面目な話になるんですけど良いですか?」
「ん? どうした改まって」
「良いですよ! どんと来てください!」
2人はすぐに聞く体制になる。
それを確認したサニアがゆっくり話し出す。
「実はカルさんの魔力量なんですが、大まかに計算したら最低でも常人の6倍という結果になりました」
「ろ…!」
「6倍!? それサニアさんと同じくらいじゃないですか!?」
「え!? サニアってそんなに魔力量あるの!?」
サニアの話に驚く2人。そして驚いたアイーシャの言葉に更に驚くカルドラ。
「はい。カルさんには言ってませんでしたね。私の魔力量は常人の5~6倍あります。カルさんは計算の最低値でそれに匹敵しています。なので、おそらくはもっと多いと思います」
「えぇぇぇぇ…、おれの魔力核いったいどうなってんだよ……」
遠い目をするカルドラ。
昨日のスタミナ検証の時点でかなり多そうだとは思っていたが、まさか最低でも6倍というとんでもない数字を出されるとは思っても見なかった。
「でも魔力が多いってことはそれだけ戦闘では有利ですよね? カルさん悲観しすぎでは?」
アイーシャの言葉にカルドラも「確かに」と気を持ち直す。
しかしサニアが首を横に振る。
「カルさんならではの問題があるんです」
その言葉に2人も問題に気づく。
「魔法陣か…」
「えぇ。5層解放時の魔力を視る限り、カルさんの魔法陣は常人の魔力量を基準に設計されています。魔法陣が組まれた当時、おそらくカルさんの魔力量はそのくらいだったのでしょう。しかし、何らかの原因で魔力量が6倍以上に膨れ上がった。そのせいで魔法陣が内側からの圧力に耐え切れず、自己崩壊を起こしかけていた…。と私は考えています」
サニアの説明にカルドラがどこか納得したように頷く。
「…なるほど。確かに、魔法陣にここまでいろいろな仕掛けをしてくれてる人が耐久年数を考えてないとも思えないもんな…。外的要因で劣化が早まったと考えるのが自然か…」
その言葉に頷くサニア。
そして、今立ちはだかっている最大の問題点を2人に伝える。
「今まで私は、カルさんの魔法陣をそのまま再現して入れ替えればカルさんが助かると思っていました。解析も進み、魔法陣の組み上げも順調に進んでいたんです。でも、魔力量という設計の根幹部分の変更が余儀なくされた今、私1人で魔法陣を組み直すことが非常に難しくなりました」
「………」「………」
サニアの言葉に、2人は真剣に耳を傾ける。
「私に、2人の力を貸してください。専門的なところは難しいかもしれないけど、なるべくいろんな視点での意見が欲しいんです。きっとその中に、魔法陣を生まれ変わらせるヒントがあると思うんです。だから――」
そこまで話すサニアの手を、隣に座っていたアイーシャがやさしく握った。サニアは少し驚いて言葉を止める。
アイーシャはその手を持ち上げてテーブルに乗せると、対面のカルドラも手を重ねた。
そして微笑みながら話し始めた。
「今更なに当たり前のこと言ってんだよ。力ならいくらでも貸すぞ」
「そうですよ。サニアさんは1人で抱え込み過ぎです。もっと私たちを頼ってください」
「カルさん…、アイーシャさん…」
重なる手から温かさが伝わる。さっきまで心に残っていたプレッシャーが少しずつ小さくなっていく。不安が溶け、代わりに安心感が広がっていく。
技術的には何も解決はできていない。しかし、不思議と大丈夫な気がしてきた。3人でならきっとやり遂げられる。そう思えた。
目には少し涙が浮かび、しかし表情は自然に綻んだ。そして心からの言葉を伝える。
「ありがとうございます…。よろしくお願いします…」
サニアの言葉に、2人は笑顔で返した。
そして3人はさっそく魔法陣について意見を交わす。
まずは行き詰っていた1層目の組み上げについて意見を貰ったところ、あっという間に問題が解決し、1層目を完璧に組み上げることに成功。視点の多様化の重要性を強く認識することになった。
この事実にサニアは、この3人なら魔法陣を進化させることができると確信を得るのであった。




