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双棍のトラベラー  作者: コルミ
町での生活 1
73/80

相談

「…………………はぁ」


 夕方の町。その町の小さな公園のベンチでサニアは座っていた。

 宿の自室でプレッシャーに押し潰されそうになり、逃げるように町をフラフラ彷徨い、最終的にこのベンチに落ち着いた。

 歩いたことで気持ちは少し落ち着いたが、根本的な解決にはなっていないためプレッシャーが今もサニアの心の上に乗って踊っている。


「…………………はぁぁぁ」


 さらに深いため息が出る。今カルドラの中にある魔法陣のそのままの再現も目途が立っていないのだ。それをさらに発展させなければならなくなった今、見えずとも近づいていたはずのゴールが途方の彼方へ飛び去ってしまった。

 もはや気力が湧いてこない。やらなければならないのはわかっている。そうしなければカルドラは死んでしまう。しかし身体が動かない。心がぽっきり折れてしまった。


(……この感じ、おばあちゃんが死んじゃった時に似てるなぁ…)


 過去、先代の森の魔導士が亡くなった直後のサニアは完全に気力を失い、危うく家を廃屋にしかけたことがある。

 その時は森の動物たちが寄り添い支えてくれたことでなんとか持ち直し、雑貨屋の息子レオが森に迷い込んだことで偶然街との接点が生まれ、時間を掛けて少しずつ回復することができた。


(…今は自分で持ち直すしかない。魔法陣を直せるのは私しかいないんだ。…でも……)


 自信が無い。

 先代が遺した芸術品のような球体魔法陣。それをさらに発展させ、組み直さなければならない。

 それをやり切る自信が無かった。


「はぁぁぁぁ……」


 特大のため息が出る。こんなにため息ばかり出るのは初めてだ。

 こんな姿を2人に見られたらどれだけ心配されることか…。

 そんなことを考えていると大きな声で話し掛けられた。


「ん??? おう! 棍棒の兄ちゃんと一緒にいた魔剣の姉ちゃんじゃねぇか! 1人でどうした!?」

「え?」


 声の方を見ると、そこには酒瓶を大量に持つバルドレンが立っていた。

 右手でごっちゃりと酒瓶が入った袋を背負い、左手で器用に2本の酒瓶を持っている。

 そしてがちゃがちゃ音を立てながらサニアの隣に座るバルドレン。


「なんだなんだ暗い顔して。兄ちゃんと喧嘩でもしたか? 話くらいなら聞いてやるぞ?」


 声を一般的なボリュームに落としたバルドレンが親身になって聞いてくる。


「いえ…、喧嘩とかではなくて…。ちょっと…大変なことがあって…」


 とりあえず喧嘩ではないことを伝えるサニア。

 そして相談しても良いものかと考える。

 するとバルドレンがうんうん頷きながら話す。


「そうか…、大変なことか…。そりゃ大変だな…」

「…? …そうなんです…、大変なんです…」


 バルドレンのよくわからない言い回しに少し混乱するが、彼の顔は真剣そのものだ。とりあえず乗っかることにした。


「まぁ大変だって感じるってことは、その大変さの何が大変なのかわかってるってことだろ? すげぇじゃねぇか。それがわからねぇやつは世の中ゴロゴロいるぜ? 少なくとも姉ちゃんはそいつらよりは利口ってことだな!」

「…? はぁ…」


 バルドレンの言い回しがよくわからない。いや、言っていることはわかるのだが何を伝えたいのかがわからない。

 励まそうとしてくれているのはわかるが…。


「つまりは大変さの理由がわかってれば解決策はおのずとわかるってこった。焦らずやってみな?」

「……解決策…ですか…」


 昨日1層目の組み上げで行き詰まり、今日続きをやろうと思っていたら意図せず難易度が跳ね上がってしまった。

 この場合の解決策は何だろうか…。


(バルドレンさんは鍛冶師…、生粋の技術職の人…、何かヒントを貰えるかもしれない…)


 言っていることはわかり難いが親身にはなってくれている。

 頼ってみても良いかもしれないと思い、聞いてみた。


「あの…、質問があるのですが、良いですか?」

「おう! なんでも聞きな?」

「とんでもない完成度の芸術品の再現をしなくちゃならなくて、すごく難しいけど、ゴールが見えない中でも少しずつ近づいてる感覚があったのに、その芸術品を基礎から作り直す必要が出てきちゃって、でも作れる自信が無くて…。こういうときってどうすればいいですか?」

「ん~~~~。だいぶやっかいな状況だなそりゃ」


 顎に手を当ててうーんと考えるバルドレン。


「つまり、もともと再現できるかどうか怪かった仕事の難易度が途中で跳ね上がって手に負えないレベルになっちまったってことだろ?」

「簡略化するとそうなります」

「なるほどねぇ…」


 するとバルドレンの目つきが職人の"それ"になったのがわかった。


「その件を仕事としてみるならば、その仕事からは素直に降りるべきだ。その時点で無理しても、依頼者の納得する出来にはならないだろう。そして自分も満足いく出来にならないのがわかってて作り続けるのは作品にも対しても失礼だ」

「……っ」


 降りるべき…、それはつまりカルドラを見捨てなければならないということ。

 できない…。そんなことは…。


「あとはその件を個人の趣味としてみる場合だが、おれならなりふり構わず全力で自分の腕を磨く。問題点ははっきりしてる。実力不足だ。なら()()()()()()()()()。どんな技術も貪欲に収集して組み合わせ、できなかったことは意地でもできるようにする。例えば棍棒の兄ちゃんの持ってた棍棒の彫刻な。ありゃあ見事なもんだ。おれにはまだまだあの域の彫刻は出来ねぇが、いずれできるようになってやる。あと姉ちゃんの魔剣な。柔らかいミスリルであれほど見事な刀身を鍛える技術はぜひとも身に付けてぇよな!」

「…実力不足……、実力を…付ける…」


 はっきりと言われた。

 そうだ。実力が足りないのだ。ならばやることは一つしかない。


「…おっと、すまねぇな。今のはあくまでおれの場合での話だ。契約云々で途中で降りられねぇ場合も多々あるからな。あとは偏見を捨てて周りの手を借りるとかな! 素人意見でも案外盲点を突いてきたりしてな。聞いてると面白れぇぞ?」

「手を借りる…意見を聞く…」


 そういえば魔法陣関係の相談は誰にもしたことがなかった。全て1人で抱え込んでいた。

 今サニアがぶつかっている問題を、2人に話してみるのも良いのかもしれない。

 そう思ったら、少しだけ心が軽くなった気がした。


「……ちょっとだけ良い顔になったな。少しでも何か刺さったことがあったなら良かったよ」

「バルドレンさん、ありがとうございます。ちょっと1人で焦り過ぎてたみたいです」

「そうか。せっかく良い仲間がいるんだ。存分に頼ればいいさ。あの兄ちゃんなら喜んで手を貸してくれるだろ。神官の姉ちゃんも…何故かおれには冷たいが、お前らにはやさしいだろ?」

「あぁ…、アイーシャさんのあれはですね――」


 バルドレンにお礼を言うと、その後自然と雑談に切り替わっていく。

 アイーシャの冷視線の理由も教えてあげて、その後少しの間話に付き合ってくれた。バルドレンはだいぶ面倒見が良いようだ。

 仕事上がりには少し早いのでは…という疑問はあったが、せっかくなので厚意に甘えることにしたサニアだった。

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