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双棍のトラベラー  作者: コルミ
町での生活 1
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人外の領域

「サニアさん…、大丈夫でしょうか…」

「あぁ…、ちょっと心配だな…」


 サニアの部屋から出たカルドラとアイーシャはサニアの様子が変だったのに気づいており、2人で心配していた。


「おれの魔法陣がそんなに問題児なのか…。性能落としてもいいから早くサニアを楽にしてあげたい…」


 サニアの苦悩の原因がほぼほぼ自分であることもわかっているのでカルドラの心配も大きい。


「でも今の複雑さでも奇跡的な出来みたいなこと言ってませんでしたっけ? 簡略化したくてもできないのでは?」


 カルドラの願いをアイーシャがばっさり切り捨てる。

 そしてその裏で、簡略化どころか更に複雑化する可能性が浮上していることを2人は知らない。


「魔法陣関係は完全にサニア頼みだからなぁ。おれたちはそれ以外のところでサニアをサポートするしかないよなぁ」

「そうですね…。なるべく支えてあげなきゃ…」


 しみじみしながら歩く2人。

 すると突然アイーシャが「あっ!」と大きな声を出す。


「いきなりどうした?」

「カルさん! グレーターヒールの時間です!」

「…まじかよ」


 忘れている様だったのであえて触れないようにしていたのに、ついに思い出してしまったらしい。

 しかしカルドラとしてはアイーシャにもあまり負担を掛けたくなかった。


「なぁアイーシャ? 別に動きに支障が出てるわけでもないし、無理に傷跡を消す必要はないんじゃないか…?」

「だめです! 昨日も言いましたが、今のカルさんを小さい子が見たら間違いなく泣きます! 同じパーティーの仲間としてそれは看過できません!」


 パーティーの対応基準になぜ小さい子どもの反応が組み込まれてるのか全くわからないが、アイーシャは引く気は無いらしい。

 何となくソラにも意見を聞いてみる。


「なぁ、ソラはどう思う? グレーターヒール使ってもらった方がいいのか?」

「ピ?」


 するとソラはすい~っとアイーシャの頭の上へ移動。


(これは…、使って貰えということなのか…)


「ふっふっふっ。カルさん、観念してください」


 アイーシャ、サニア、ソラ、全員に治療を薦められている。

 これはもうアイーシャを信じて見守るしかない。


「わかった、治療受けるよ。だが最後に確認させてくれ。死なないよな? 大丈夫だよな?」

「任せてください! グレーターヒールで何回生き残ってると思ってるんですか!? 元気いっぱいの状態なら間違いなく大丈夫です!」


 そもそも何回もグレーターヒールを使ってるのがおかしいのだが、もはやそこは突っ込むまい。


「では引き返して私の部屋に行きましょう! ちゃちゃっと治しちゃいますよ!」

「はいはい…。よろしくお願いします…」




「ではそこに寝てください」

「はい」


 アイーシャの部屋に来たカルドラは言われた通り部屋の真ん中あたりに寝そべる。

 そしてアイーシャがふんすっと気合を入れた。


「じゃあ行きますよ!」


 アイーシャが魔力を操作し始めると、カルドラの下に彼がすっぽり収まるほど大きな魔法陣が現れる。魔力の線からはズバァーと光が立ち上り、しかし光自体はふんわりやさしい。そんな不思議な魔法陣をどんどん組み上げていく。


(おれ…、この魔法受けるの何回目なんだろう…)


 自身の周りにやさしい光が溢れ返る中、カルドラの心境は複雑だ。

 そんなカルドラを余所にアイーシャは魔法陣を完成させ、やさしくあの魔法名を呟いた。


「…グレーターヒール…」


 その瞬間、魔法陣から噴き出していた光がカルドラに集まり、彼自体が輝き出す。皮膚に残っていた傷跡が一層強く光り、そして光が消えるのと一緒に傷跡も消えていく。

 数秒間各傷跡でその反応が続き、そしてだんだん光が収まると、最後にふわっと光り完全に収束した。

 無事にカルドラの皮膚の傷跡は一掃された。


「ふーーっ」

「……え? アイーシャ!??? 意識あるのか!???」


 魔法陣が消え、前回までならここで倒れていたアイーシャがなんと立ったままふーっと言っている。

 カルドラはその事実に驚愕する。


「カルさん…! 私はやりましたよ…! ついに単独でグレーターヒールの安定発動に成功しました!!! ぃやったー!!!」

「…ま、まじか…まじなのか…」


 5人での発動が前提の大魔法グレーターヒール。それを1人で、死ぬことも昏睡することなく安定して発動させる。間違いなく人間業ではない。

 アイーシャは、その()()()()()に足を踏み入れたのだ。


(信じられん…。だって、魔力量って増えないんだぞ? 前回気絶なら何回やっても気絶するはずだぞ? 何でアイーシャはぴんぴんしてるんだ? おかしいだろ…)


 そう。一般的に魔力量は大人になったらもう増えないと言われている。だからカルドラのこの反応は至極当然だ。


「やったー! やったー! ぃやったー!!!」

「………」


 アイーシャがものすごくはしゃいでいる。

 起こった出来事はとても信じられないが、ここまで喜ぶということはそれ相応の苦労があったのだろうと思い、素直に労うことにした。


「アイーシャ。いまだに信じられんが、なんか…すごくがんばってたみたいだな。おめでとう」

「カルさん…。私、がんばりましたよ…。痛いのも苦しいのも我慢して…がんばったんです…。ありがとうございますぅー!」

「ぅお!?」


 涙まじりの笑顔で抱き着くアイーシャ。

 例の鍛錬でサニアはアイーシャの痛みへの耐性に驚愕していたが、耐えられるというだけで痛いものは痛いのだ。その痛みに耐えた結果が成果として実を結んだことが、アイーシャは本当にうれしかった。

 そんなアイーシャの頭を「がんばったがんばった」とぽんぽんするカルドラ。


(やっぱり秘密特訓とやらの成果らしいな…。いったい何やったんだ?)


 特訓の内容がとても気になるが、サニアに気付かないふりをしろと言われている手前聞くこともできない。


(とりあえず、おれにできるのはこうやって労うことだけか…。たぶんその秘密特訓、今後もやるんだよな…。無茶はしないでくれよ…)


 アイーシャの頭をぽんぽんしながら心配もするカルドラ。

 しかし今回の出来事を前向きに捉えるなら、今後はグレーターヒールで過剰に心配する必要がなくなったということだ。

 そういう点で見ても、今回のグレーターヒール安定発動はとんでもない偉業だったと言える。


(…本当におめでとう。アイーシャ)


 そしてそのまましばらく、アイーシャが落ち着くまで頭をぽんぽんした。

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