ぐっすり快適です!
「はぁ……、はぁ……、…意味がわからん」
夜が更け、近くにある兵舎の明かりも消えたが、カルドラはまだ素振りを続けていた。
実はこの素振り、やろうやろうと思ってずっと出来ていなかった魔力のスタミナ検証も兼ねていたのだ。
(この長時間5層開放状態で身体強化を維持できる…。しかもまだ魔力切れの兆候がない…。どうなってんだおれの魔力核…)
こんなに長時間身体強化を維持できる人間なんて聞いたことがない。普通ならすでに魔力欠乏でぶっ倒れているはずだ。
いつ倒れても良いようにわざわざ兵舎前という目立つ場所で素振りをしていたというのに…。これはすぐにサニアに相談した方が良い案件な気がした。
「ふーーーーっ。これ以上は無駄だな。5層の開放までなら魔力のスタミナはほぼ無尽蔵と考えて良さそうだ。……まさか身体強化で強化された身体のスタミナが先に切れるとはな…。手足ががっくがくだ…」
もともとカルドラは身体のスタミナにはかなり自信があった。そこに出力の上がった身体強化が乗るのだ。当然魔力が先に尽きると考えていた。しかし予想は外れ、息は上がり手足はがくがく、そのくせ魔力はまだまだ余裕と来ている。ちょっとショックだった。
(まぁ"こいつ"との対話をじっくり長時間できたっていうのは良かったかな)
さっきまで振り回していた漆黒のロングソードを撫でる。
最初はタングスライトのあまりの重量に振り回されっぱなしだったが、途中からなんとか制御できるようになり、最後の方ではかなり自由に振り回せるようになっていた。
武器の練度では棍棒とショートソードに遠く及ばないが、これなら最低限の戦いはできるだろう。
「よし、宿に戻ろう。だいぶ遅くなっちゃったけど…。アイーシャとサニアはもう寝てるだろうな」
呟きながらロングソードをポケットに仕舞う。そしてポケットと同じく汎用生活魔法の"トーチ"を使い、夜道を照らしながらゆったり歩き出す。
(そういえばこんな時間に町を歩くことってあんまりないな。なんか新鮮だ…)
そう思い、ぐるっと周囲を見渡してみる。民家の明かりはすでに消え、やさしい闇が広がる。虫か何かの声が美しく響き、それらが夜空に広がり解けていく。時折酔っ払いが倒れているが、彼らの寝息すら、この闇の癒しを彩る1つだった。
(時々この時間に散歩するのも良いかもしれないな)
疲れて火照った身体が少しずつ冷やされていく。
そして彼は宿に到着するまで、そのままゆったり闇の癒しを楽しむのだった。
次の日のお昼前、鍛錬で魔力を使い切り昏睡していたアイーシャが目を覚ました。
「んーーーーーーー! 良く寝ましたーーーー! 良い朝ですね!」
身体の防衛機能が働き魔力量が大幅に増え、さらにたっぷり寝たことで魔力全快。起きた時間は遅いが寝起きの気分は最高だった。
「さて、カルさんとサニアさんにおはようを言いに行かなければ! 皆でご飯ですよ~♪」
うきうきしながら身支度するアイーシャ。きっと2人はすでに起きていて各部屋で待機しているはずだ。
身支度を終え、さっそく隣のサニアの部屋の前へ。ノックをし呼び掛ける。
コンコン
「サニアさん! おはようございます! ご飯食べに行きましょー!」
………しかし返事がなかった。
あれ?っと思い扉を開けようとするが、しっかり鍵が掛かっているので開かない。
仕方ないのでその隣のカルドラの部屋の前へ。ノックをし呼び掛ける。
コンコン
「カルさーん! おはようございまーす! お腹空きましたー! ご飯食べに行きましょー!」
………しかし返事がない。
んん???と思い扉を開けようとするが、さっきも同じことをしたと思い出し少し恥ずかしくなる。
仕方ないので宿屋の人に情報を貰おうとカウンターへ移動を開始。丁度カウンターで女将がお金の計算をしていたので挨拶をする。
「おはようございます! 最高の部屋でした! ぐっすり快適です!」
「おは…じゃなくてもうお昼だよ? 部屋を褒めてくれるのはうれしいけど、ちょっと寝過ぎじゃない?」
女将がクスクス笑いながら返事をしてくれた。お昼だったのか~と自身の情報を更新し、仲間の2人の事を聞いてみる。
「お昼ってことは私と一緒に泊まった2人は出かけてるんですか? 部屋に行ったんですけどうんともすんとも言わないのでいないのかな~と」
アイーシャのその言葉に女将が首を傾げる。
「いや? 貴方と一緒に来た2人ならまだいるはずだよ。傷だらけのお兄ちゃんと美人のお姉ちゃんでしょ? ここを通ればすぐにわかるはずだから」
「あれ? じゃあ何で返事がないんでしょうか…」
女将の言葉に、何か言い知れぬ不安感が過る。
サニアもカルドラも基本的にしっかり者だ。こんな時間まで寝ているとは考え難い。
何かあったのでは…、と不安がるアイーシャに女将が声を掛ける。
「ちょっと待ってて。このお金すぐしまうから。マスターキー持って様子見に行こう」
「! ありがとうございます!」
アイーシャの様子に女将も心配になったのだろう。すぐに対応してくれた。
そしてパパっとお金を片付け、マスターキーを持ってくる。
「じゃあ行こうか」
「はい!」




