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双棍のトラベラー  作者: コルミ
各々のやりたいこと
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魔(マナ)を導く者

「……………すぅ……………すぅ……………」

「……お疲れ様です」


 魔力をギリギリまで使い、眠りに落ちたアイーシャ。

 そんな彼女の魔力核を魔力視で視て、正常に魔力が生成されているのを確認。眠る彼女に労いの言葉を掛ける。

 無事に鍛錬が終了した。


(本当にスムーズに鍛錬が進みますね。雑談する余裕があるから私も癒されるくらい…。これを続けたらアイーシャさんはいったいどれほどの魔力量になるのでしょうか…)


 激痛との闘いだった自身の鍛錬の時とのあまりの"差"に、この鍛錬が危険なものだという感覚が麻痺しそうになる。

 そんな麻痺しそうな感覚を首を振り払い除け、緊張感を引き戻す。


(私がミスをすればアイーシャさんは死んでしまう。適度にリラックスするのはいいけど、一線は越えてはダメ)


 自身を戒め、立ち上がり、最後に小さく挨拶をする。


「アイーシャさん、おやすみなさい」


 そして部屋を後にする。

 そして自分の部屋に戻る前にカルドラが戻ってきているか確認しようと思い、彼の部屋の前へ。


トントン

「カルさん? 戻ってますか?」


 ……返事はない。まだ戻っていないようだ。


(カルさんが今まで使っていたのはショートソードと、それと同じサイズの棍棒。でも今回譲っていただいたのはロングソード。素振りで試すにしても、慣れるまでかなり時間がかかりそうですね)


 しばらく戻って来ないだろうと結論付け、自身の部屋へ戻る。

 そして部屋に戻ってすぐに椅子に腰かけ、手の上に球体魔法陣を組み上げる練習を開始する。


(1層から3層までの解析は終了している。4層と5層も時間を掛ければ解析できる。でも魔法陣の構築が難しすぎる…)


 サニアは日中も時間が空けば球体魔法陣を組み上げる練習をしている。まるで立体パズルに挑戦する子どものように、サニアを見ると大体いつも手の上には光る球体があるのだ。

 そこまで連日練習して、やっと1層目の組み上げが現実味を帯びてきた。そして1層目さえ組み上げてしまえば、ほぼ同じ組み方をされている他の層の組み上げも可能ということになる。層同士の相互作用の問題はまだ残っているが、それは組み上げが可能という実績を得てからでないと検証すらできない。


(もう少しで出来そうなんですけどね…。さすがに"師匠"の魔法陣、ギリギリの調整をされている…)


 うんうん唸りながら、ひたすらに組んでは崩壊、組んでは崩壊を繰り返す。

 ちなみにサニアは先代の森の魔導士を呼ぶとき、"おばあちゃん"と"師匠"の2つの呼び方を使い分けている。普段のやさしい先代はおばあちゃんと呼び、魔導士として師事を受ける時は師匠と呼んでいた。

 師事をする時の先代はとても厳しく、現在サニアが常に敬語で話すのもその時の影響を受けてのものだ。

 球体魔法陣の構築に挑戦している現在。サニアは先代に師事を受ける気持ちで臨んでいる。なので自然に"師匠"と呼んでしまうのだ。


(…………ん~~~~~)


 少し前から一向に先に進めない。完全に行き詰っている。


「ふー! こういう時は少し別の事をしましょう!」


 詰まったら気分を変える。これも師匠に教わったことだ。

 伸びをし、天井を眺める。


(師匠…おばあちゃんは、どんな気持ちでこの魔法陣を組み上げたんだろう…)


 今は亡き先代の森の魔導士。

 若い頃は世界最強の魔法使いとしてその名を轟かせ、魔王討伐後に歴史の表舞台から姿を消した。

 そして長い時が過ぎ、最後は森でサニアと穏やかに暮らしその生涯を閉じた。

 先代は"魔導士"という言葉に強い誇りを持っていた。一般的に魔法使いは"魔術士"と呼ばれるが、先代は自身がそう呼ばれることをひどく嫌っていた。


「サニア、よく覚えておきな。魔法ってのはね、(マナ)を導いた先の数ある結果の1つにすぎない。結果に囚われるな。私たち"魔導士"は(マナ)を導く者だよ」


 これはサニアが幼い頃、魔法の発動に躍起になっていた時に先代から言われた言葉だ。

 当時は首を傾げたが、今はその真意がよく分かる。魔術士と呼ばれることへの抵抗も、魔導士という言葉に込められた誇りも…。

 そんな誇り高い先代が、球体魔法陣の組み上げに四苦八苦している今のサニアを見たらどんな顔をするだろうか。「私の魔法陣をそんな簡単に再現されてたまるもんかい」と笑い飛ばすだろうか。「そんなところで詰まってるのかい?修行不足だねぇ」とため息をつくだろうか。

 どちらにせよ、きっとその後微笑みながら練習に付き合ってくれただろう。


(直接…、聞いてみたかったな…)


 目を閉じ、おばあちゃんとの思い出に浸る。

 少しの間そうやって浸っていると、あることを思い出した。


(そういえばあの剣。バルドレンさんが国宝級だって言ってましたね。使いこなそうと練習で使ったことはあるけど、剣そのものをじっくり見たことはなかったかも…)


 そう思い、ポケット(収納魔法)から例の魔剣を取り出す。

 美しい白色パール調の刀身を持つ細身の長剣。柄の周りも控えめながら美しい装飾が成され、バルドレンが言った通り、剣そのものの完成度もすごいのだと素人目にもわかる。


(それに加えて3つの魔法付与…。確かに貰った時に付与3つはすごいと思ったけど、まさか国宝級だなんて…)


 魔法付与は一般ではあまり行われない技術だ。というのも魔法を付与するには媒体となる魔金属と魔力を供給するための魔金属の2種類が必要な上、付与をする魔術士にも相応の腕が要求される。そのためわざわざ魔法を付与して性質を変えるより、目的に応じた素材を使った方が手っ取り早いのだ。それこそミスリルのような扱いの難しい素材にしか使う意味がない。

 目の前の魔剣はそのミスリル製。柔らかいミスリルを魔法付与で壊れ難くするというのはまぁわかる。しかし付与が3つというのはおかしい。

 そもそも1つの物への魔法付与は本来1つしかできないはずなのだ。貰った時に「3つすごい」としか思わなかった過去の自分に突っ込みを入れたい気分だった。


(今更だけど、どうやって3つも付与したんだろう…。しかも3つ全てがしっかり効果を発揮してる。素材…ミスリルが関係してるのかな…)


 ミスリルは数種類ある魔金属の中でも最上位の魔力伝導率を誇る。それ以上の魔力伝導率があるのはおとぎ話に出てくるオリハルコンという魔金属だけだ。

 しかしいくらミスリルと言えど、やはり付与できるのは1つのはず。3つは異常だ。


(魔法の核になってるのはどこ? 刀身じゃない。柄? でも削れたら効果が消えちゃうし。ん~どこにあるの~?)


 球体魔法陣の行き詰まりから完全に興味が魔剣に移り、気の引かれるまま剣の観察に興じるサニア。

 そのまましばらく時間も忘れて成人祝いの魔剣と睨めっこするのであった。

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