素振りと鍛錬
岩肌が露出した大きな山。その麓にある町には鉱夫が多く住む。時々起こる彼らの喧嘩は、鉱山で鍛え抜かれた身体も相まって激しくなる傾向にある。
そんな彼らの仲裁をするこの町の兵士たちは総じて強く、個人の戦闘能力は王都の騎士にも匹敵するとの噂だ。
まぁ飽く迄噂なので真偽のほどは定かではないが、そう思わせるだけの実績があるのは間違いないのだろう。
カルドラはそんな兵士たちの拠点である兵舎の敷地の近くにある広場に来ていた。
その手にはバルドレンから安く譲って貰った漆黒のロングソードが握られ、静かに構えに入る。
(やっぱり、こいつを振るには最低でも5層の開放は必須だな。そうしないと腕だけじゃなく背骨がやられる…)
剣から伝わる重さから自身に掛かる負担を計算する。
カルドラの命を繋ぐ彼の中の魔法陣。全5層から成る球体のそれは魔力リミッターとしての側面も持つ。普段は常人の2割しか魔力を扱えないカルドラだが、各層の扉を開放していくことで扱える魔力を増やすことができる。
(とりあえず5層開放状態で身体強化を発動して…、それでどれくらい動けるかを確認だな)
魔法陣の最外層、5層目を開放すれば使用できる魔力量は4割になる。普段は常人の3割ほどの出力しか出せない魔法が、この5層開放状態ではかなりの出力が出せる。この出力が常人換算だとどれくらいなのかはわからないが、少なくともこの状態で彼の特殊体質、筋力を限界まで扱える能力の下で全力で棍棒を振ると、攻撃を当てた敵の左腕が爆散するほどの威力が出た。…そして鋼の棍棒も壊れた。
(1度誰かに協力してもらって、この状態が常人のどれくらいの力なのかを調べる必要があるな。でないと、4層開放状態での身体強化は恐ろしくて手が出せない…)
目を閉じ、森での戦闘後に見たアイーシャの涙を思い出す。
(約束したからな。試したことのないことは絶対にしないって。だから、時間に余裕があるときにひたすら検証だ。……よし。いくぞ)
そして5層を開放して身体強化を発動。通りかかる兵士からちらちらと視線が送られる中、彼は漆黒のロングソードで戦闘を想定した素振りを開始した。
「アイーシャさん。本当に疲労は大丈夫ですか? 今日あれほど魔力を使ったんですよ?」
「大丈夫です! 私回復力には自信がありますので! ほら! 元気いっぱい!」
3人が鍛冶屋を出たその足で食事を取り宿屋に入った後、カルドラは「この剣で素振りしてくる」と言い残し夜の町へ消えた。
そんな彼を見送り、サニアは自室へ戻ろうとしたのだが、アイーシャに呼ばれ彼女の部屋へ。
そしてアイーシャが「例の鍛錬をしたいので監督をお願いします!」と言い出し、驚いたサニアが彼女に疲労の確認をしているのが今の状況だ。
「確かにギルドに着いた辺りからいつものアイーシャさんに戻ってはいましたけど…。一応確認させてください」
そう言ってサニアは自身の目に魔力を視れる魔法を展開。アイーシャの魔力の状態を確認する。
疲労を隠して無理をしているなら魔力の流れに多少なりとも乱れが出ているはずだ。あの鍛錬は自傷行為も同然の危険なもの。無理をしているなら協力はできない。
「…どうですか?」
アイーシャがキリッとした顔で聞く。
「…………正常です。至って健康的です」
「ぃやったーーー!!! じゃあ鍛錬の監督お願いします! 今準備しますね!」
そう言って嬉しそうに寝る準備をするアイーシャ。そんな彼女を呆然と眺めるサニア。
そして目を瞑り右手を軽く額に当て、はぁ…と息を吐き、思う。
(アイーシャさん…、本当に人間なのかしら…)
とても本人には言えないが、割と本気でそう思った。
痛みへの耐性、メンタルの強さ、そして今回の回復力。どれも人間離れしている。
(ううん、考えてはダメ。アイーシャさんは"そういう人"なの。受け入れなさいサニア)
自身に言い聞かせ、準備の整ったアイーシャの隣に椅子を移動させ、腰を下ろす。
「では始めましょう。今回も魔力量が限界になったら身体を揺すります。そうしたら魔力循環を止めてください。その前の確認で意思疎通が可能だったら前回のようにカウント方式にしましょう。良いですか?」
「はい! それで大丈夫です! よろしくお願いします!」
鍛錬前の最終確認を交わす。準備が整った。
「わかりました。では、始めてください」
そしてサニアの言葉でアイーシャの鍛錬が始まる。そして前回同様、2人はアイーシャの魔力が尽きるまで雑談を楽しんだ。




