いとこと親父
「ピー!」
「お? ソラ?」
鍛冶屋から出て歩き出すとすぐに、朝からいなくなっていたソラがカルドラの頭に降ってきた。
「ソラー! 珍しくずっといなかったなぁ! こんなに長時間いなかったのフィーに捕まってた時以来じゃないか?」
「ピー♪」
器用に頭の上のソラを撫でまわすカルドラ。ソラも嬉しそうだ。
そんな和気あいあいの2人に水を差すのも悪い気はしたが、アイーシャはどうしても気になる言葉があったので思い切って聞いてみる。
「カルさん。"フィー"って人の名前ですか?」
その質問に、ん?とソラを撫でつつ振り向きながら答える。
「フィー、フィリアはおれの年の離れた妹だよ。寂しがりな子でな。おれにくっ付いて回るかソラを掴んで離さないかのどっちかだった。元気かなぁ。リオンと喧嘩してなきゃいいけど…。あぁ、リオンはフィーの3つ上の兄ちゃんな? おれの自慢の弟よ」
「カルさん、弟妹さんがいたんですね。そう聞くとなんかそれっぽいです…」
何を想像しているのか、アイーシャが納得したような顔で頷いている。
そしてその横でサニアが悲しそうな顔をしている。どうしたというのか。
「6歳の時にご両親を亡くして…、それから幼いご弟妹と一緒に…。大変だったんですね…」
今にも泣きそうなサニアにカルドラが慌てて訂正を入れる。
「待て待て、それ勘違い。ごめん、サニアには言ってなかったな。おれは親父…叔父夫婦の養子になったんだ。リオンとフィーは"いとこ"だよ。11歳と8歳だ」
カルドラの言葉に、「あーなるほど…」と納得するサニア。
しかし今度はアイーシャがじとーっとした視線を向けてくる。いったいどうしたというのか…。
「カルさん。今までに聞いた話の流れでカルさんが養子というのは想像できてましたけど、私もはっきりと聞いたことはないんですよ?」
「あ、あれ? そうだったっけ?」
「そうなんですよねぇ…。私はカルさんが叔父さんを親父と呼んでるという情報しか把握してませんでした」
「ははは…。悪い、話したと思ってた…。実は養子だからそう呼んでたんだ…」
「そうなんですね」
つーんとするアイーシャ。
彼女とは本当にいろいろな話をしてきたので、自身の家庭環境については話し終えていると勘違いしていた。後でおいしいものを与えて機嫌を取らなければ…、と冷汗まじりに考えるカルドラ。
そしてサニアが「あっ!」と口を開ける。今度はどうした。
「もしかしてカルさんのために棍棒を作ったっていう親父さんは叔父さんなんですか? 私てっきり贔屓の鍛冶師の愛称だとばかり思ってました。だからこの棍棒はもう無理だって言われたときあんなに…」
「あの棍棒は親父さん作…。また私が知らない情報が出てきましたね…」
(サニアさん…。何で的確にアイーシャが知らない情報で話振ってくるの…)
またじとっとした視線を向けてくるアイーシャ。ここまでご機嫌斜めなアイーシャは珍しい。
そもそもなぜ知らない情報があっただけで機嫌が悪くなるのかがカルドラにはわからなかった。しかし実際彼女の機嫌が悪くなっているので何とかしなければならない。
そして頭から肩に降りて首に巻き付くソラを撫でながらカルドラは考える。
(だがもう大丈夫なはずだ。ぱっと思い返してみても、どちらかだけに話した秘密っぽい話はもう無いはずだし、魔法陣も含め、おれ自身にはすでに秘密がない)
まるで浮気がバレた夫のような思考をしているが、彼は真面目に必死だ。
「ア、アイーシャ。棍棒の話は旅の進行方向についてサニアと話したときにほんの少し出ただけなんだ。隠してたわけじゃないけど、結果的にそうなってたのは悪かったよ。ごめん」
「ふ~ん?」
そしてちらっと横目に、サニアが何かを喋ろうと口を開きかけ、すぐに閉じたのが見えた。
空気を読むのが苦手(?)な彼女も空気を読んでくれたらしい。
そしてソラがアイーシャの腕の中へ飛び移り、受け止めた彼女がソラをやさしく撫でる。表情が柔らかくなった。
(ナイスだソラ!)
相棒のすばらしい動きを心の中で称賛し、このチャンスに話題を変えるべく口を開く。
「そういえばここから宿に戻る途中にうまそうな串焼きの屋台あったよな。まだ開いてたら軽く食べて良いか? たぶん今の時間だと飯屋に入ってから少し待つだろうし」
「あ! 私も食べます! その店私も気になってたんですよ!」
「私も食べます。良い匂いだったのでどんな味付けをしてるのか興味あります」
無事に話題を変えることに成功したカルドラ。
アイーシャは相変わらずおいしいものに目がなく、サニアは自身の料理の参考にしたいようだ。
カルドラはアイーシャがいつもの様子に戻ったことに安堵し、何とか取り戻したこの温かい雰囲気をじっくり味わいながら夕暮れの町を歩くのだった。




