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双棍のトラベラー  作者: コルミ
予期せぬことは何度でも
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魔剣と黒い剣

 ギルドの外に出ると僅かに日が傾き出していた。あまりのんびりはできないと、3人はそのまま鍛冶屋へ。

 そして鍛冶屋に着くと、前日とは違い中から工房特有の激しい音が聞こえる。


「今日はちゃんと仕事してるみたいだな」

「そうですね。昨日は何で寝てたんでしょうか…」


 それはとても気になるが、酒絡みの話題であまり突っ込むとアイーシャの機嫌が心配なので、そっとしておくことにする。

 とりあえず鍛冶屋に入ることにした。


「すみませーん!!! バルドレンさーん!!!」


 客間から工房の方へ向かって大声で呼びかける。

 少し間を置いて返事が返ってきた。


「おう!!!!! 棍棒の兄ちゃんか!!!!! ちょっと待っててくれぃ!!!!!」


 すごい声量で声が届き驚くが、すぐ来てくれるそうなので大人しく待つことに。

 そして本当にすぐに来てくれた。


「よぅ兄ちゃんたち! 今日はどうした!? まさかもうタングスライトが手に入ったのか!?」


 相変わらずのテンションでニコニコしながら聞いてくるバルドレン。

 そのテンションに押されないように気を張りながら頑張って返答する。


「はい。運良く昨日見せて貰った量の5倍くらい手に入ったのですぐ持ってきました。確認してください」

「なにぃ!? そんなに手に入ったのか!」


 カウンターに鉱石を並べるのを見ながら驚くバルドレン。さっそく鉱石を手に取って確認し始めた。


「……うん。良いねぇ。品質は問題無しだ。兄ちゃん、他に使う予定が無いなら全部買い取りたいんだが、良いか?」

「え? もちろん。おれとしてはその方がありがたいです」


 使う分だけ渡すと思っていたカルドラは少し驚いたが、鉱石を持っていても使い道がないので換金できるのならすぐにでもしておきたい。


「よし! ありがとよ! ちょっと待ってな!」


 嬉しそうに木製の計算器を弾くバルドレン。そして武器強化の最終的な金額を見せてくれた。


「鉱石の買い取り分を差し引いて、これくらいでどうだい?」

「……………え?」


 昨日見せて貰った額よりかなり少なくなっている。というか減り過ぎである。

 怖くなって確認する。


「あの…めちゃくちゃ減ってません? 計算間違えたりしてません?」


 その質問に、う~むと顎に手を当てながら答えるバルドレン。


「少しの間坑道が封鎖されるらしいから、今は鉱石全般が値上がりしてんだ。特にタングスライトは希少金属だからな。在庫は絶対に確保しておきたい。一応おれが取引してる鋼材屋の価格に準じてるから、この金額は間違いじゃないぞ?」

「…そうなんですね」


 坑道封鎖の話はすでにこの町の物流にも影響を与えているらしい。

 アイーシャとサニアの意見を聞きたくなり2人の方を向くと、2人とも笑顔で頷いていた。悩むまでも無いということらしい。


「わかりました。ではこれでお願いします。棍棒とショートソード出しますね」

「おぅ! 助かるぜ! 強化の方も任せときな! こいつを仕上げた工房に負けないくらいの出来にしてやるからよ!」

「よろしくお願いします!」


 カウンターに武器を並べるカルドラに、気持ちの良い笑顔で宣言するバルドレン。

 この男になら安心して武器を任せられる。そう思い、彼に武器を託す。

 するとアイーシャがぽろっと疑問を零す。


「………強化している間、カルさんはどうやって戦うんですか?」

「あ」


 棍棒2本とショートソード2本を渡してしまったため、現在武器がなにも無いことに気づくカルドラ。今不測の事態に見舞われたら何もできず逃げることしかできない。

 目が点になっているカルドラにバルドレンが呆れ顔になる。


「なんだ兄ちゃん。予備の武器全く持ってないのかい? 流石にそれはだめだぞ? ……いや、おれが出せって言ったのか。悪いな兄ちゃん」

「いえ…、こういう状況は想定しておくべきでした…」


 ちっちゃくなっているカルドラにサニアが声を掛ける。


「私、一応こういう剣は持ってるのですが…。使います?」


 なんとびっくり。魔導士のサニアのポケット(収納魔法)から細身の長剣が出てきた。

 柄の長さから察するにレイピアではなくロングソードなのだろうが、それにしては少し細身で、しかしレイピアと呼ぶには幅広な気もする。不思議な剣だった。

 その剣に対し、ほぅ…と興味を示すバルドレン。


「姉ちゃん、それ見せて貰ってもいいかい?」

「えぇ、構いませんよ。どうぞ」


 サニアから剣を受け取り、真剣な顔で観察し始める。


「……魔剣か。付与されてる魔法は分からんが、こいつ自体はとんでもない出来だ。このレベルの作品は滅多に見られねぇ…」


 サニアが持っていたのは魔剣、魔法が付与された特殊な剣らしい。


「付与されている魔法はたしか…、応力強化、変形耐性、鋭利化、この3つだったかと。おばあちゃんが成人祝いにくれたものなのですが、私には使いこなせなくて…」

「3つって…それ本当か…? 恐ろしいもんが出てきたなおい…、こりゃ国宝級だぞ…」


 バルドレンの額に汗が滲んでいる。剣自体の完成度にさっきの魔法が加わると国宝級になるらしい。

 観察を終えたバルドレンが神妙な面持ちでサニアに剣を返す。


「姉ちゃん。これはあまり人前に出さない方が良い。もし貴族の目にでも止まったら大変なことになる」

「そんなにすごいものなのですか?」


 サニアの質問にバルドレンが腕を組み唸りながら答える。


「まずそいつを構成してる素材がやばい。ミスリルだ。柔らかいが軽くて魔力を良く通すから魔術士の杖や護身用の剣の素材として需要が高い。だが流通を王都が完全に管理してるから滅多に市場に出てこない。だから素材だけでとんでもない値が付く。柔らかいミスリルをこういう細身の剣に加工するのは本来ダメなんだが、さっき言ってた魔法が付与されてるなら話は別だ。軽く、壊れ難く、鋭い、更に魔法の媒体にもなる。オークションに出したらどれだけの値が付くか想像もできねぇよ…」

「おばあちゃん…、またとんでもないものを…」


 バルドレンの説明を聞き遠い目をするサニア。カルドラの中の魔法陣といい、先代の森の魔導士はちょこちょこととんでもないものを遺しているようだ。


「ま、何にせよそいつを兄ちゃんに貸すのはやめときな。たぶん一発で壊れる。いくら応力強化が付与されてるとは言え、ミスリルの強度では鋼には敵わん。この兄ちゃんは鋼の棍棒をぺしゃんこにしてるんだぜ?」

「…なるほど、それは確かにダメですね」

「そんな大事で高価な物…、おれも怖くて触れない…」


 とりあえずサニアの剣は代用にはならないということで話が付き、バルドレンがう~んと考え込んでいる。

 するとポンっと手を叩き「ちょっと待ってろ」と言い残し工房の方へ消えていく。

 3人で顔を見合わせているとすぐにバルドレンが戻ってくる。その手には漆黒で刀身が幅広のロングソードが握られていた。


「こいつなら安く譲ってやってもいいぜ。素材はこれから兄ちゃんの武器に使うのと同じ鋼ベースのタングスライト合金。頑丈さなら今工房(うち)においてある武器の中で一番だ」


 ずしんとカウンターに置かれたその剣は、剣とは思えない威圧感を放っていた。


「えっと…、良いんですか? タングスライトは希少金属なのでは…?」


 カルドラの質問に頬をぽりぽり掻きながらバルドレンが答える。


「実はこいつは訳あり品でな。昨日タングスライトを大量に使ったうんぬんの話をしただろ。こいつを2本作ったからなんだ」


 そして今度は腕を組み、続きを話す。


「依頼があったのは1本だったんだが、初めて挑戦する技術があってな。さすがにぶっつけ本番ってわけにはいかないんで、試しに作ったのがこいつだ。だが安心しろ。挑戦も無事にうまくいった。こいつの出来も依頼主へ渡ったものと遜色はない。まぁさすがに全体的な完成度は劣るがな」


 バルドレンが言うように、この剣の出来は素晴らしかった。完成度は劣ると言うが、そんなことを微塵も思わせない凄まじい存在感だ。


「…持ってみても?」

「あぁ。試してみな」


 ぐっと柄を握り、持ち上げる。

 タングスライトは鋼よりも高密度な金属だ。鋼ベースとはいえ、そのタングスライトを使った合金製のロングソードである。重量も凄まじい。


「…重いですね」

「タングスライトだからな。だがおれの見立てでは、兄ちゃんなら十分使いこなせるはずだ」

「…………」


 バルドレンの話を聞きながら剣を眺める。

 何となく、剣の声が聞こえた気がした。「自分を連れていけ」と。

 自然と顔が綻び、そして決めた。


「これ、いただきます」

「あぁ。ありがとな。こいつも使い手が出来てうれしいだろ」


 こうしてタングスライト合金製とは思えない破格で漆黒のロングソードを譲って貰い。カルドラの武器無し問題が無事に解決。武器強化中も戦える準備ができた。


「強化の方は7日で仕上げといてやるから、7日目の夕方か、8日経ったらまた来な。最高の状態にしといてやるからよ」


 バルドレンがニカっと笑い拳をカルドラの胸にポンと当てる。

 本当にどこまでも気持ちの良い男である。そんなバルドレンに頭を下げる。


「いろいろありがとうございました。強化、楽しみに待ってます。じゃあまた!」

「おう! またな!」


 アイーシャとサニアも軽く頭を下げ、3人は鍛冶屋を後にした。

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