ギルドで一休み
その後3人は坑道を脱出し、一刻も早くギルドへ報告するため町へ急いだ。
ギルドに到着した3人は討伐証明として大量の魔石を提出し、坑道での異常な量の魔物の発生を報告。すぐに坑道は立ち入り禁止になり、ギルド主導で魔物の掃討作戦が行なわれる運びとなった。
そして一応の責務を果たした3人は、しばしギルドの休憩スペースで一休みしていた。
「ありがとうございますアイーシャさん。あんなに魔力を使ったのにわざわざ治療してくれて…」
「いえ! 魔力はそこそこ戻りましたし、疲労もかなり回復したので大丈夫です! それよりも結構痛そうだったので気になっちゃって…」
サニアはアイーシャの回復魔法で靴擦れを治療してもらっていた。サニアも回復魔法は使えるが、回復魔法と防御魔法はアイーシャの方が上手なのだそうだ。
そしてサニアの治療をしながらカルドラの方を見るアイーシャ。彼の顔の状態を眺め、呆れたように零す。
「カルさんは…、明日グレーターヒール使いますからね?」
「いやおかしいだろ。なんでだよ、怪我治ってるぞ?」
「カルさんが適当に回復魔法使うからお肌に跡がいっぱい残ってるんですぅ! そんなんじゃ小さい子に怖がられちゃいますよ!」
そう。回復魔法は万能ではない。治し方によっては跡が残るし、後遺症だって残ることがある。特に同じ個所に何回も回復魔法を掛けるのは後遺症を誘発しやすい。
カルドラがアイーシャと出会ったときに抱えていたダメージの蓄積がまさにそれだ。治癒が何回も重なると少しずつ歪みが蓄積していき、最終的に動きに支障をきたしてしまう。なので治すなら1発でスパッと治す方が良いのだ。
例外的に大魔法のグレーターヒールとエクスヒールはその蓄積ダメージすら癒す力を持っている。だからアイーシャはグレーターヒールに拘るのだ。
「はははは…。カルさん、私が責任を持って魔力量の管理をするので、大人しく治療を受けてください」
「え!? 今のおれそんなに怖い!? そんなに傷だらけ!?」
「えぇ…、まるで歴戦の剣闘士です…」
サニアにまで治療を進められ軽くショックを受けるカルドラ。
しかしいくらサニアがサポートすると言っても気になることはある。
「でも、グレーターヒールって5人で使う魔法だろ? さすがにアイーシャの負担が気になるんだが…。サニア的にその辺はどうなんだ?」
「私がサポートに入れば負担は2分の1です。それに今のアイーシャさんなら1人でも――っとこれは秘密でした」
「ん???」
変な言葉が聞こえた。今のアイーシャなら1人でも、と。
(もしかして秘密特訓とやらの成果なのか? え? でもそれ大丈夫か? 人間辞め始めてない?)
ちらっとアイーシャを見ると軽く目を泳がせていた。
(……おれが気づかないふりをすれば問題ない、とサニアは言っていた。大丈夫だよな? 信じるからな?)
一抹の不安を感じつつ、2人を信じ、気づかないふりを通すことにしたカルドラ。
そんな、いろいろなことを頭の隅に追いやり気持ちを切り替えようとしていた彼に丁度良く声が掛かる。
「あの…、世界を回っておいしいものを食べるパーティー:テイスト・ヴォイジャー様。少しお話よろしいでしょうか…」
「………はい。…なんかごめんなさい」
話し掛けてきたのは昨日3人に依頼を薦めてきた受付嬢だった。彼らの無駄に長いパーティー名を律儀に全て口にする彼女に申し訳ない気持ちになる。
「あの…、長いのでテイスト・ヴォイジャーだけで良いですよ?」
「あぁ! ダメです! 名前の本体は最初の方ですよ!」
「アイーシャさん、今だけ引いてください。話が進みません」
カルドラの提案にアイーシャが異を唱えるがサニアに宥められる。そしてほっぺを膨らませるアイーシャを横目に受付嬢に話し掛ける。
「騒がしくてすみません…。で、おれたちに何か? 依頼の件ですか?」
「はい…。この度は貴方方に大変なご迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳ありませんでした。カルドラ様に至ってはそんなに傷だらけに…。なんてお詫びしたらいいか…」
涙目で頭を下げる受付嬢。残り物の依頼を引き受けてくれたパーティーがその依頼で死にかけたのだ。依頼を薦めてしまった彼女はその自責に押しつぶされそうになっているようだ。
「大丈夫ですよ。依頼の難易度を全て完璧に精査なんてできるわけないのはわかってますから。それを想定して依頼をこなすのがギルドのマナーだとおれは思ってます」
「カルさんの傷跡も私がばっちりきれいに治しますから心配しないでください!」
「ちゃんとこうして生きて帰って来れてますから、だから泣かなくて大丈夫ですよ」
「皆様……、ありがとうございます…」
三者三葉の励ましを受け、受付嬢は深く頭を下げた。
そして涙を拭き、キリッと仕事モードの顔に切り替わると依頼の処理の話をし始めた。
「今回の依頼なのですが、カルドラ様たちが倒した魔物の数が当初ギルドが想定していた駆除数を遥かに上回っているため、例外的ではありますが達成扱いとすることに決定しました。そこに我々ギルドの精査不足の謝罪料も加算して報酬をお渡しします。なので休憩が済みましたら精算カウンターまでお越しください。私が責任も持って対応させていただきます」
なんともうれしい報告だった。依頼の達成条件は魔物の一掃だったので、多数の魔物を残してきた今回は当然失敗で処理されると思っていたのだ。
しかも例外で達成にしてくれるだけでなく謝罪料まで乗せてくれるらしい。カルドラの武器強化でかなりの所持金が飛ぶのが確定している彼らには非常に助かる対応だ。
「そこまでして貰えるとは…、ありがとうございます。ありがたく受け取らせてもらいますね」
受付嬢に笑顔でそう言うと、彼女は「ではお待ちしていますね」と微笑んで受付カウンターへと戻っていった。
「良かったですね。坑道が立ち入り禁止になっちゃいましたから、少しでもタングスライト鉱石が手に入るのは嬉しいです」
「だな。どれくらいの量が貰えるのか依頼書に書いてなかったから、あんまり期待するのはまずいけど。掃討作戦がいつ始まっていつ終わるのかわからないから、今のタイミングで手に入るのは本当にありがたい」
サニアの言葉に深く頷き同意するカルドラ。
しかし期待はまずいと言いながらも実際は結構期待してたりする。うまくいればこの後鍛冶屋に直行してすぐに強化を依頼できるのだ。楽しみで仕方ない。
「サニアさん、お待たせしました! じっくり丁寧に治癒したのでお肌すべすべになりましたよ!」
そして皆が話している間ずっと回復魔法を掛けていたアイーシャが完了報告をする。自信満々だ。
「わぁ♪ ありがとうございますアイーシャさん。ふふ、やっぱりアイーシャさんの回復魔法はすごいですね。私じゃこんなにきれいに治せません」
「えへへへ…。森の魔導士様に褒められるとすごくうれしいです…♪」
和気あいあいな2人を微笑みながら眺めるカルドラ。
そして2人の準備が終わるのをゆっくり待ち、頃合いを見て声を掛ける。
「よし。じゃあ報酬を受け取りに行こう。もしタングスライト鉱石が必要量以上貰えたら鍛冶屋に直行。足りなければどこかでゆっくり食事にしよう」
「はーい!」「わかりました」
そして一行は精算カウンターへ。話の通り先ほどの受付嬢が対応してくれ、無事に報酬を受け取ることができた。謝罪料が予想以上に多く驚いたが、受付嬢が一生懸命渡そうとしてくるのでありがたく貰うことにした。
そして問題のタングスライト鉱石。なんと前日にバルドレンが見せてくれた鉱石の5倍ほどの量を受け取ることができた。実は依頼主はかなり奮発して依頼を出していたらしい。この分を鉱石ではなく現金で依頼を出していたらきっとすぐに受けて貰えていたであろう。受付嬢もその点をそれとなく依頼主に伝えておくと言っていた。
そして全ての処理が終わり、最後に受付嬢に挨拶をする。
「いろいろありがとうございました。たぶんしばらくこの町に滞在するので、もしかしたらまた来るかもしれません。その時はまたよろしくお願いします」
「こちらこそ、本当にありがとうございました。お越しの際はぜひお声がけください。では、またのお越しをお待ちしております」
そう言って深々とお辞儀をする受付嬢に見送られ、3人はギルドを後にした。




