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双棍のトラベラー  作者: コルミ
予期せぬことは何度でも
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各々の戦い

 ショートソードを構え、今のアイーシャがついて来れるギリギリの速さで歩くカルドラ。遅すぎるとジリ貧でアウト。速すぎるとスタミナ切れでアウト。地味に難しい調整だった。

 そして早速魔物の群れが現れる。チューチューキーキー鳴きながら大量のネズミが走って来る。


「来たぞ! プロテクションを!」


 後ろの2人へ声を掛けると同時にカルドラは深い集中状態へ入る。自身の感覚を加速させ、景色がゆっくり流れ、音が小さく感じる世界へ身を投じる。


(防御は考えるな…。切って切って切りまくれ…)


 たとえ纏わり付かれ齧られようと、即死じゃなければ問題ない。死ぬ前に殺し切ればいい。


スパスパスパスパスパスパッ

「「「ジュジュジュチュゥッ!」」」

「「「チュゥジュゥゥ!」」」


 ネズミの魔物の真ん中で乱舞するカルドラ。跳び付かれ、噛まれ、出血するも止まらない。

 血を撒き散らしながら切り続け、周囲のネズミを殲滅する。


(よし、周りは片付けた。後は防壁周りを一掃だ)


 血まみれになりながらプロテクションに群がるネズミを全て切り伏せ、なんとかネズミの魔物の襲撃を切り抜けた。


「カルさん! 血が!」


 サニアはカルドラのあまりの見た目に衝撃を受け駆け寄ろうとする。しかしカルドラはそれを止める。


「サニア。心配してくれるのは嬉しいが、やることは変わらない。アイーシャを頼む。これくらいなら自分で治癒できる」

「……っ。わかりました」


 唇を噛みしめ、アイーシャの元へ戻り、支える。

 そしてカルドラが自身に回復魔法を掛けつつ歩き出したのを見て、2人でついて行く。


(これが…、テイスト・ヴォイジャーの戦い方…。2人ともなんてメンタルしてるの…)


 アイーシャは魔力欠乏寸前で立つのも辛いはずだ。しかしその彼女が展開する防壁は"質"が全く落ちない。

 カルドラは自身へのダメージを意に介さず状況安定までの最短距離を突っ走る。

 この2つをサニアはできるかと聞かれたら答えはノー。今の彼女にはそれらを遂行し切る自信はない。

 しかし…。


(気持ちで負けちゃダメなんだ…。負けた瞬間に、終わる…)


 弱弱しいが、必死に自分を鼓舞する。

 2人から聞いたオーガの魔物との闘い。そしてオークの魔物の群れとの闘い。それらはきっと今よりギリギリの状況だったはず。その死線を潜ってきた2人に並び立つには、この程度で怖気づいてはいけない。


(決めたでしょ…! 私が2人をサポートするって…! 絶対に死なせないって…! 2人を信じて、私も最善を尽くす…!)


 皆で生き残るために、ギリギリを攻める2人の限界を見極めるために、今まで以上に彼らの動きに注意を払う。限界を越えようとした瞬間に止められるように…。




 自身に回復魔法を掛けつつ歩くカルドラは、あることを心配していた。


(今のを見て、サニアはドン引きしたんじゃなかろうか…。さすがに血を撒き散らしながら走り寄ったのは配慮に欠けていたかもしれない。アイーシャと違って一般的な思考の女の子だしなぁ)


 今まさに決意に満ちた思考をしているサニアと違い、カルドラはとても呑気なことを考えていた。

 確かにギリギリな状況なのはわかっているが、こうやってゆっくり思考できる時間があるだけで気持ち的にだいぶ楽なのだ。


(何だろうな、この余裕はないけど余裕がある感じ。今までがギリギリ過ぎただけ? でもこの余裕もアイーシャやサニアのおかげなんだよなぁ。おれは仲間に恵まれている)


 思い出す、アイーシャにグレーターヒールで蓄積ダメージを一掃してもらったことを。満身創痍で歩き続けた先でぶっ倒れ、またアイーシャに治してもらったことを。

 そしてサニアは魔法陣の秘密を暴き、今まで苦しんでいた魔法の出力不足問題を解決してくれて、現在進行形で魔法陣の解析をしてくれている。

 今こうして歩きながら回復魔法が使えているのも出力不足が解決したからだ。今まではじっとしていないと患部に効果を集中できず、その上で回復にすごく時間がかかっていた。


(こうして人並みに魔法が使えることのなんと素晴らしいことよ)


 そんな、生死のギリギリに立つ者とは思えない思考をしているカルドラの前に、また魔物の群れが現れる。今度はイタチの魔物だ。


「アイーシャ! プロテクションの準備を! イタチの魔物だ!」


 後方へ魔物の存在を伝え、自身も戦闘態勢に移行する。集中し、彼だけの静かな世界へ入っていく。


(さぁ、今度はなるべく被弾せずに、だ…)


 血まみれになってサニアを怖がらせないように、自身のハードルを上げていくカルドラだった。




 一方カルドラの声を聞き、すぐさまプロテクションを発動するアイーシャ。


(プロテクション…)


 シュパっとサニアと一緒に防壁の中へ籠城する。詠唱も心の中で行いエネルギーの消費は最小限に抑えている。

 先ほどからずっとサニアから魔力を送って貰っているので魔力量は少し余裕が出てきた。それでも連続で魔物の群れに当たったらすぐに尽きてしまう量だが…。


(やっぱり…、魔力量は絶対に必要だよね…。帰ってご飯食べたら…、サニアさんに頼んですぐに鍛錬しよう…)


 今回は完全に自分の魔力量がパーティーの足を引っ張ってしまった、と()()()()()()()アイーシャ。

 そもそもの話、アイーシャの魔力量は決して少なくない。むしろかなり多い方だ。でなければ5人での発動前提のグレーターヒールを1人で使って生きていられるわけがない。

 今まで巻き込まれてきた戦いがギリギリ過ぎて、もともとおかしかったアイーシャの感覚がさらにおかしくなり、自身の魔力量が足りないと思い込んでいるだけなのだ。


(絶対に、グレーターヒールを使っても気絶しない魔力量を手に入れる…!)


 ここで明かされるアイーシャの野望。彼女は5人での発動前提の大魔法を1人で安定発動させようとしている。世の魔法使いたちが聞いたら皆言うだろう、"イカれてる"と。

 だがアイーシャは諦めない。何故なら彼女の回復魔法の基準は"怪我をして帰ってきたカルドラを完全回復させる"だからだ。出会ったばかりの頃のカルドラの大怪我連発を経験したことでここの感覚もおかしくなっている。

 そしてイタチの魔物と戦う今のカルドラを見て思う。


(今日のカルさんの治療は…、皮膚の裂傷がほとんどだから、ハイヒールで大丈夫そう。でも痕が残っちゃうから食いちぎられないように気を付けてね…)


 もはや戦う姿から使う回復魔法を考え始めている。職業病のようなものだろうか。いや、きっとカルドラが怪我をし過ぎなのだ。


「アイーシャさん。戦闘終了みたいです」

「(こくり)」


 サニアの声に頷き、プロテクションを解除する。

 サニアはアイーシャが魔力不足でフラフラになってから細やかに支えてくれている。


(ありがとうサニアさん。帰ったら()()()…、治してあげるから…)


 サニアはアイーシャを支えながら歩いているため、靴擦れを起こしていた。彼女は平静を装って歩いているが、隠された怪我を見つけるのが得意なアイーシャの目は誤魔化せない。完全にロックオンは完了している。


「さ、行きましょう。あと少しです」

「(こくり)」


 そしてまたカルドラの後ろを2人でついて行く。

 遠くには外の光が見える。サニアが言った通り、あと少しだ。

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