坑道の中
岩肌が露出する大きな山。かつては活火山として周辺に甚大な被害を出し続けていたが、現在は完全にその活動を止め、豊富な鉱石の産出地として名を馳せる。
しかしその有名さとは裏腹に麓の町があまり大きくないのは、遥か昔の活火山時代の記憶も一緒に人々の間で言い伝えられているため、ある意味で忌み地のような場所となっているからだ。
カルドラたちは前日に受けた依頼をこなすため、そんな山にある坑道の1つに来ていた。
受けた依頼の内容は、この坑道に発生した魔物を一掃すること。しばらく放置されたこの依頼を早く片付けて受付嬢に喜んで貰うべく、3人は朝早くから現地入りし、軽く入り口付近を見渡しながら探索前の最終確認をしていた。
「依頼書によるとこの坑道、今は時々しか使われてないらしいけど。坑道に魔物が出たなら他の坑道も危ないだろうに…。もっと報奨金出して早めに駆除すべきだよな。なんでこんなに出し渋ってんだ?」
依頼書の内容を思い出しながらカルドラが零す。サニアがう~んと言いながら答える。
「発生している魔物が小さいからではないでしょうか。坑道で働く人はそこそこ強いでしょうから、万が一出会しても返り討ちにしているのかも」
「あー! 鉱夫の人ってそういうイメージありますよね!」
サニアの推測にアイーシャが賛同する。確かにそれならわざわざ金を出してギルドに依頼するのもバカらしく感じるかもしれない。
「でもそれでいてギルドに依頼を出したってことは…」
「個体数が多過ぎて手に負えなくなったか、もしくは強力な個体が発生して返り討ちが難しくなったか、でしょうね」
「…だよなぁ」
ならもっと金を出せ!と言いたいところだが、鉱夫たちのプライドと懐事情が複雑に絡み合った結果なのだろう。サニアの推測を聞いてそう思った。
「強力な個体が出てる場合はギルドにその説明をしてるだろうし、依頼書に書いてないってことは個体数激増の可能性が高いかな」
「私もそう思います。でも小さい魔物とはいえ、この狭い坑道で大量に出会したらあっという間に纏わりつかれて致命傷になりかねません。アイーシャさんの防御魔法を軸に立ち回ることを提案します」
サニアがいろいろ考えてくれている。目の前の坑道は歩く分にはかなり余裕のある広さだが、戦うには狭すぎる。この狭さではカルドラの速さを生かした立ち回りはできない。適度にアイーシャに守って貰いながらサニアの魔法と連携して戦った方が良いだろう。
「わかった。そうしよう。アイーシャ、頼めるか?」
「任せてください!」
作戦が決まったので本格的に魔物の捜索を開始する3人。坑道に入って歩き始めるとすぐにコウモリの魔物がわらわらと飛んできた。
「プロテクション!」
すぐにアイーシャが防壁を展開し…。
「エアカッター」
防壁に群がるコウモリの魔物をズバババババッとサニアの魔法が切り刻む。
襲ってきた大量のコウモリの魔物はあっという間に殲滅された。
アイーシャとサニアは互いの手を合わせニコッと笑い合う。そしてその一部始終を2人の後ろで見ていたカルドラは思う。
(おれ…、いらないな…)
適材適所とはよく言ったもので、この狭い坑道ではカルドラの持っている長所は全て役に立たなかった。できるのは精々魔石拾いくらいか?
ならば2人に魔石を拾わせるわけにはいかない。カルドラはすぐに動き出す。
「魔物が落とした魔石は全部おれが拾うから、2人はその他全て頼む。ここではおれは役に立てそうもない」
パパっと魔石を拾いながら2人に声を掛けるカルドラ。
2人はその余りに潔い物言いに苦笑いした。
襲い来る魔物の群れを2人の魔法で蹴散らしながら網目状に掘り進められた坑道を探索する3人。
ここまでかなりの数の魔物を倒してきたが一向に数が減る気配がない。いったいどれほどの魔物が発生しているのか。少し心配になり始めていた。
「2人とも、魔力は大丈夫か? この様子じゃ撤退も視野に入れないといけない。帰りにも戦える分は残しておいてくれ」
カルドラの言葉にサニアが頷く。
「確かにこの数は異常ですね…。私の魔力はまだまだ余裕がありますが、個人的にはすぐに引き返した方が良いと思います。それに私の攻撃魔法よりアイーシャさんの防御魔法の方が魔力消費が多いはず。アイーシャさん、大丈夫ですか?」
サニアがアイーシャを気に掛けるとアイーシャが答える。
「今の私の魔力残量は6割くらいだと思います。帰りに余裕を持たせるなら撤退は今ですね」
その言葉にカルドラが頷く。
「よし、撤退しよう。安全第一だ。この魔石の量を見せればギルドも納得するだろ」
そう言うカルドラの手には小さな魔石が詰まった大きな袋がぶら下がる。
小石のような魔石がこの量になるほど魔物が発生しているのだ。とても1つのパーティーで対処できる案件ではない。
そして3人は来た道を引き返し始めた。
「エアカッター!」
スババババババッ
また襲い来る魔物をサニアの魔法で殲滅する。
撤退を開始してからしばらく歩いた。尚も魔物の勢いは衰えず、むしろ襲われる間隔が狭くなっている。
そして…。
「……はぁ………はぁ……」
「アイーシャ、大丈夫か? 少ないが魔力をやる」
襲われる間隔が狭すぎてついにアイーシャの魔力が危険域まで減少してしまったのだ。ほとんど役に立てていないカルドラが自身の魔力を送り、少しでもアイーシャの負担を軽くしようとしているが、プロテクションの魔力消費が思いのほか多く、魔法陣によって制限を受けている彼の魔力では焼け石に水状態だった。
真剣な顔で思考していたサニアがカルドラに声を掛ける。
「カルさん。私もプロテクションは使えますが、私にはアイーシャさんほどの強度は出せません。他の防御魔法ではどうしても隙間ができるので対象の数が多い今の状況では意味がありません。このままでは全滅します…」
全滅という言葉を聞き、額に汗が伝う。何とか現状を切り抜ける方法はないか考えを巡らせる。
「……………サニアの魔力をアイーシャに送ることはできるか?」
「できますが、攻撃手段がなくなります。魔物の処理速度が落ちれば、波のように押し寄せる魔物に押し切られてしまいます」
サニアの魔力量にはまだ余裕があるが、多数への同時攻撃ができるサニアが後ろへ下がれば押し寄せる魔物を処理し切れなくなる。そして魔力の譲渡は一度に大量に行うことはできない。防御の要のアイーシャのダウンはそのまま全滅を意味する。
様々な条件を加味し、カルドラが決定を下す。
「…………よし、しばらくおれが前に出て攻撃する。サニアはおれの処理限界が来るまでアイーシャに魔力を送ってやってくれ。限界が来たらおれが一度下がり、サニアが攻撃し数をリセット。そしたらまたおれが前に出る。その繰り返しで出口を目指そう」
「……カルさん。対処を間違えれば貴方は一瞬で群れに飲み込まれてしまいますよ?」
サニアが心配するが、現状これしか道がない。
「サニア、今はこれ以上の策が思い浮かばない。このまま無策でやられるより、少しでも抵抗してやろう」
「…………わかりました。気を付けてください…」
「あぁ。アイーシャを頼む」
サニアもこれしか策がないのをわかっているのだ。だからカルドラの無謀な挑戦を止めることができない。危険を承知で前に出る彼の背中を見るのが苦しかった。これが今までアイーシャが感じていた痛みかと、サニアは思った。
そのアイーシャは、今の自分の役目が魔力の回復に専念することだと理解していた。だから先ほども2人を信じ作戦立案には参加せず、静かに集中し、魔力の回復に努めていた。サニアはそのアイーシャの姿に、彼女の異常な精神強度の心髄を見た気がした。
(私も、私にできることを精一杯やるんだ。皆で生き残るために)
そしてカルドラがショートソード2本を持ち先行し、サニアがアイーシャを支え出口を目指す。




