魔金属
バルドレンに言われた通り、カルドラたちは客間の椅子に腰かけ寛いでいた。
客間を見渡すと剣や工具の他に包丁や鍋なども並べてあり、彼がかなり手広く仕事をしているのがわかる。
サニアはゆっくり歩きながら包丁を眺めている。料理が趣味だと言っていたので調理器具に興味が湧くのだろう。
アイーシャは…、カルドラの隣の椅子に腰かけ、窓の外を眺めている。
(さっきのアイーシャ…、いつもとだいぶ雰囲気違ったけど大丈夫か…?)
先ほどバルドレンに白けた視線を送り続けていたアイーシャを思い出しながら考える。聞くべきか…、そっとしておくべきか…。
「そういえばアイーシャさん。さっきはどうしたんですか? 視線が凍ってましたよ?」
(!??? サニアさん!???)
カルドラの心配を余所にサニアがズバッと切り込んでいく。その姿に驚愕するカルドラ。
冷汗まじりにちらっとアイーシャを見る。しかし彼女は意外とケロッとした顔をしていた。
「昔からお酒に飲まれる人に良い印象がなくて…。気を付けてはいるんですけど、ああいう視線になっちゃうんです」
「意外ですね。アイーシャさん、どんな人にも無邪気に接するイメージでしたけど」
カルドラもサニアと同意見だった。少なくとも今まで一緒に旅をして見てきたアイーシャはそうだった。
しかしサニアの言葉にアイーシャは軽く首を横に振る。
「私にだって苦手なものくらいあるんですよ? 一応補足しておきますが、さっきのバルドレンさんみたいにお酒好きでも人間出来てる方がいるのも重々承知してます。それにどちらかと言うとお酒好きな人じゃなくて、人を堕落させてしまうお酒の方に苦手意識がある感じですかね? お酒さえ入らなければ皆さん良い人たちでしたし…」
遠い目をして窓から空を眺めるアイーシャ。どうやら過去、酒豪に悩まされたことがあるようだ。
とりあえず今の話からするとバルドレンは許されたらしい。少しほっとする。
「確かに飲むと人が変わるというのはよく聞きますね。私はあまり遭遇したことはないですけど、おしゃべりしたことのあるお母さま方は大体そういう話をしてました」
サニアが自らの体験談を話す。サニアはサニアでいろいろな話を聞いてきているらしい。
酒には気をつけよう。カルドラはそう心に決める。
「よぉ! 待たせちまったな! 悪い悪い!」
アイーシャとサニアが話しているところにバルドレンが戻ってきた。その手には黒い鉱石が握られている。そしてそれをドンッとカウンターに置くと、彼が頭を下げる。
「すまん! 素材が足りねぇ!」
「……はい?」
元気よく謝罪され、気の抜けた声が漏れた。
「少し前に大量にタングスライトを使ったのを忘れてて補充してなかった。今あるのがこれだけだ」
テーブルの上の鉱石を見ながら説明するバルドレン。その鉱石を見ながらサニアが零す。
「タングスライト…。世界最高クラスの強度を誇る魔金属ですね」
魔金属とは魔力との親和性が高い金属の総称である。
魔力を通しやすかったり、魔力を吸収して溜めたり、いろいろな物がある。
ちなみにタングスライトの魔金属としての性質は『魔力を通している間、強靭になる』というものだ。
「おう、姉ちゃん詳しいな。そう、頑丈さでこいつに勝る素材はほぼ無い。そしておそらくこいつを使わないとお前の力は受け止められない。今回は鋼をベースにこのタングスライトとその他いろいろ混ぜ込んで強度と柔軟性を両立させる。だが今残ってるタングスライトは2本分だ」
腕を組み話すバルドレンにサニアが質問する。
「先に2本仕上げて貰うことはできないんですか?」
その質問にバルドレンは首を横に振る。
「あの武器は4本で1つだ。分割で仕上げるのはおれが許さん。やるなら全部一緒だ」
「…なるほど」
職人の拘りと言うやつだろう。サニアは深く追求することなく素直に引いた。そして過去に叔父の工房を手伝っていたカルドラには何となく気持ちがわかった。
「今、お前さんたちが取れる行動は2つある。1つはタングスライトが入荷するのを待つ。時間はかかるが確実な方法だ。そしてもう1つは自分たちでタングスライトを調達してくる。この場合はおれがタングスライトを買い取る形になるから料金をかなり抑えることができる。……そうだな、これくらいでどうだ?」
パチパチと木製の計算器を弾き数字を見せてくる。
「…さすがに結構しますね」
「…そうだな」
サニアの言葉に頷くカルドラ。この数字だと所持金が半分ほど飛ぶことになる。
前にアルスたちの仕事を手伝って稼いだ額は相当多いのだが…。さすがに4本同時かつ高級素材での強化はお高い。
「ちなみに入荷待ちの場合の金額は?」
「こんなもんだな」
またパチパチと計算器を弾き見せてくれる。わぉ、所持金オーバーです。
「うん。おれたちの選択肢は1つだな」
「そうですね。取ってきましょう」




