鉱山の町の鍛冶師
まずは宿屋を探していた3人。幸いすぐに宿屋は見つかり、部屋も無事に確保。宿屋で鍛冶屋の場所を聞きその場所へ向かうと、とてもスムーズに鍛冶屋らしき建物を発見することができた。
「あれが鍛冶屋か。びっくりするほど順調だな」
「話も順調にいけばいいのですけど…」
遠目に見えるその建物は鍛冶屋にしては少し大きく感じる。しかし宿屋の話では、鍛冶屋を営んでいるのはドワーフの男1人だけだそうだ。
ドワーフ、土人族は人族より平均身長が少し低く、魔力量が少ない代わりに筋肉が発達しやすい特徴を有している。土人族のほとんどは山脈を中心に町を形成し生活するが、時々人族の町に住みつく変わり者もいる。この町の鍛冶師もそんな変わり者のドワーフの1人らしい。
「あの広さの工房を1人で管理してるのでしょうか…。さすがに広すぎなのでは…」
サニアが宿屋で聞いた1人という情報と、実際に見た建物の大きさとのギャップに頭を悩ませている。
カルドラが親父と呼ぶ彼の叔父も鍛冶工房の責任者だったが、目の前の建物よりずっと小さい工房を4~5人で回していた。目の前の建物を1人で管理するのは無理なように思える。
そんなことを考えながら歩いていると、鍛冶屋の入り口に到着した。
「………静かですね?」
アイーシャが首を傾げる。
(確かに静かだ。とても工房の前とは思えん)
叔父の工房の賑やかさを知っているカルドラにとって、この静けさは不気味にも思えた。
「………もしかして留守なのでしょうか」
「…あり得るな」
確かに留守ならこの静けさも納得だが、鍛冶屋がこの時間に仕事をしていないなどあり得るのだろうか。そんな疑問も浮かぶ。
「とりあえず入ってみましょう! 留守なら、残念ですけどまた後で来ましょう!」
「そうだな。とりあえず入ろう」
アイーシャの言葉に頷き、鍛冶屋の扉を開ける。
鍵はかかっておらず、普通に入ることができた。
「すみませーん!!! いますかー!?」
カルドラが大きな声で呼びかける。すると。
「………んご…………ん……」
カルドラたちがいる客間の奥、おそらく工房だと思われる部屋から不気味な呻き声のようなものが聞こえた。
「…? 今の何ですかね?」
「声…にしてはだいぶごもってましたね。粘度の高い液体で気泡が発生してるとか?」
ぽけっとした顔でサニアに尋ねたアイーシャと、真剣な顔で音の正体を推測するサニア。
(うちの女性陣は強いね…。おれは少し怖かったぞ…)
何となく負けた気がしたがそれはさて置き…、音の正体は突き止めなければならない。
「失礼かもしれないけど、一応確認して来よう。もし人が倒れてたら大変だ」
「そうですね。今のがもし人の声だったなら、かなり異常です」
そして客間の奥の工房へ足を踏み入れる3人。そこで信じられない光景を目にする。
「!!! おい! 大丈夫か!?」
「大変!」
男が大の字で倒れていたのだ。すぐにアイーシャが駆け寄り、ふわっと光る手で男に触れる。対象の状態を詳細に確認できる魔法だ。
カルドラはそれを見届けつつ、男の周囲を確認する。
(工具や酒瓶が散乱してる…。ここでいったい何が…………酒瓶?)
まさかな…と思いつつアイーシャを見ると、アイーシャは魔法を止め、白けた視線を男に注いでいた。
「……アイーシャ? どうした?」
「………寝てます。ぐっすりです」
「はーっはっはっはっはっはっ!!! いやーびっくりさせちまって悪かったなお前ら!!!」
「……いえ、大事なくてよかったです」
倒れていた男はこの工房の責任者のドワーフだった。
身長180センチほどだろうか。ドワーフにしてはかなり大柄なこの男は、仕事終わりに1人で酒盛りをし、泥酔して眠りこけていたらしい。
そしてアイーシャが状態異常を回復させる魔法で男の酔いを消し飛ばし、頬をべしべし叩いて文字通り叩き起こしたのだ。
「おれはバルドレンだ!!! お前らは!?」
「おれはカルドラです」
「サニアです」
「……アイーシャです」
簡単に自己紹介をする面々。しかしアイーシャは未だに白けた視線を男…バルドレンに送っている。いったいどうしたというのか。
「うん! 良い名前だな! やっぱり人族の名前は響きが良いよな!!! ドワーフにはないセンスだ!!! はっはっはっ!!!」
「そ、そうなんですね…」
何とも快活な男である。とにかくテンションが高い。
「ところでお前ら、ここに来たのは仕事の依頼か?」
「…………」
仕事モードだろうか。声のボリュームを下げ、ニッコニコで聞いてくるバルドレン。そして尚も彼に冷たい視線を向けるアイーシャ。
どうもさっきからアイーシャの様子がおかしい。せっかくバルドレンが話を振ってくれているので早めに用事を済ませることにした。
「実は隣の街で、貴方ならこれを直せるかもしれないと聞いて尋ねてきました。見て貰えませんか?」
そう言い、ポケットからひしゃげた棍棒を取り出し、バルドレンに見せる。
「…………ほう? よく見せてくれ」
するとさっきまでとは打って変わり真剣な表情になり、ひしゃげた棍棒を手に取り観察する。
「……………………」
棍棒をいろんな角度からじっくり視るバルドレン。その真剣な表情に周囲の空気がぴりぴりしているように感じる。
そしてそのまましばらく観察していると彼が突然口を開く。
「もう一本出しな」
「え? あ、はい。どうぞ」
言われるがままポケットから無事な方の棍棒を取り出しバルドレンに渡す。そしてバルドレンはその棍棒も観察し始める。
その様子を見ていたサニアがひそひそ声で話しかけてきた。
「(カルさんが2本持ちだって伝えてないですよね?)」
「(あぁ。言ってない)」
工房には、そこの主たるバルドレンを中心に不思議な緊張感が漂っていた。




