特殊体質と回復魔法
外に出たカルドラは少し離れた建物と建物の間の、狭い物陰で座り込んでいた。
「…はぁっ! …はぁっ! くそ、最後に"出力"をミスった…。折れてるなこりゃ…」
さっき酷使した右腕を触りながら呟く。そして戦った相手を思う。
「いや、あいつが強かった。出力を調整する余裕なんかなかった。"痛み分け"って感じかな…」
そう思い返していると、酒場に入る直前から姿を眩ませていたソラがパタパタと降ってきた。
「ピィ?」
「おーソラ、おかえり。はは、ちょっと無茶しちまった」
心配そうにカルドラの顔を覗き込むソラの頬を指でやさしく撫でてやると、すりすりと返してくれる。そんなソラに癒されつつ、左手で折れた腕に触れると、ふわぁっとやさしく光り始めた。
(……おれの回復魔法じゃ治るまで1時間ってとこか。…っ、痛ぇなぁ)
そんなカルドラにソラは寄り添う。カルドラが時々"こういう無茶"をやるのはソラも知っているのだ。だからそのたびに寄り添い、"ソラという存在"で彼を支える。
「ふふ。ありがとな、ソラ」
2人でゆっくり過ごす。治ったら別の店を探して今度こそ飯だ、と今後の予定を考えていると、何かに気が付いたかのように突然ソラが頭をあげる。そしてすい~パタパタと物陰から出て行ってしまった。
(おぉソラよ…。面白いモノでも見つけたのかい? おれは悲しいぞ…)
突然の裏切りに心を痛めるカルドラ。悲しみに打ちひしがれていると、ソラがすい~っと戻ってくる。
(おぉ! 信じてたぞソラ!)
感動に胸を振るわせているとソラの後ろ、物陰の外から人が現れた。
「! いた! やっぱり怪我してる…! ちょっと診せてください!」
「あんた…」
さっきの神官だった。そしてパタパタ走ってカルドラの横に膝をつくと、何かの魔法だろうか、光る手でカルドラの右腕に触れた。
「……中等度の筋断裂が数か所に骨折…。腕相撲でここまでの状態になるなんて…。これが"勝てた理由"ですか?」
悲しそうな顔をして聞いてくる神官に、カルドラは思う。
(怪我の詳細がわかる魔法か…。そして普通はこうならないこともわかる…と。ステーキ拾ってた姿からは全く想像できんぞ。なんなんだこの神官…)
ぎゅっ
「!!! いった!?」
黙っていると患部をつねられた。
「答えてください!」
そう言う神官の目にうっすら涙が見えた。
(…仕方ないか。まぁ別に隠してるわけでもないしな…)
心の中でそう思い、カルドラは話し始めた。
「おれは筋力を、文字通りの"限界"まで使うことができるんだよ。それこそ千切れるまで。普通の人が無意識にセーブしている領域まで、おれは意識的に引き出すことができる」
「…だからあの体格差をひっくり返せたんですね。でもそれって……」
神官は理由を聞き納得しつつ、尚も悲しそうな顔で聞いてくる。
「そうだよ。おれの感覚で本気を出すと、必ず怪我をする。小さい頃は筋断裂なんて日常茶飯事だったよ」
「……苦労されたんですね」
苦しそうな声で呟く。そんな神官を見てカルドラは素直に関心する。
(会ったばかりの他人にここまで共感できるのもすごいな…。根っこは底抜けにやさしいんだろうな…。行動がイカれてるだけで…)
そんな失礼なことを考えていると、神官は突然キッとした表情になり、カルドラの下に彼がすっぽり収まるほど大きな魔法陣を展開し始めた。
魔力の線からはズバァーと光が立ち上り、しかし光自体はふんわりやさしい。そんな不思議な魔法陣を見たカルドラは驚く。
「お、おい、何してる!?」
「さっき怪我の詳細を診たとき、貴方の身体の至る所に多数のダメージの蓄積も確認しました。この際ぜんぶまとめて治してあげます。あぁ拒否権はありませんよ? 大人しく癒されてください」
にっこりと凄まじいことを言う神官。全部まとめてなんて聞いたことも無ければ発想自体なかった。
(そんなこと…、可能なのか?)
唖然としているカルドラを余所にどんどん魔法陣を組み上げていく神官。そしてやさしく魔法名を呟いた。
「…グレーターヒール…」
その瞬間、魔法陣から噴き出していた光がカルドラに集まり、カルドラ自体が輝き出す。すると右腕の痛みがみるみる消え、さらに身体全体が軽くなっていくような感覚が広がる。
(ダメージの蓄積…か)
数秒その状態が続き、そしてだんだん光が収まると、最後にふわっと光り完全に収束した。
ぱたんっ
「え? な! おい!!!」
魔法陣が消えると同時に神官が倒れてしまった。すぅすぅと寝息を立てている。
「………はぁ。回復に対する感動位させろよ…」
どこまでも予想外の行動を取る神官に、カルドラはやさしく微笑んだ。




