平和の象徴
しばらく後。カルドラはギルドでアイーシャ、サニアと合流した。
3人で話し合い、魔力片の件はギルドに通しておくべきだと結論付け受付へ向かった。そして魔族が魔王の魔力片を集めていると報告をしたのだが、そもそも魔力片の存在が認知されていないため、「ギルドマスターに報告はしますが、ギルドで対応するかどうかはわかりません…」という歯切れの悪い返事が返ってきた。後はギルドマスターの裁量次第ということだろう。最後に王都への報告も考えた方がいいと付け加え、3人は一応の説明責任を果たした。
そしてこれからどうするかを話し合い、皆一様に疲労の色が見えるため、少し早いがどこかで食事を取り宿で休むことになった。
「挨拶がてらに宿は取ってあるので、どこかご飯食べられる場所を探しましょう」
アイーシャがそう言うと、サニアがすぐに提案する。
「このギルドの横に酒場がありますよ。そこでどうです?」
「酒場か…」
少し嫌な予感がしたが、精神疲労がかなり溜まっていて早く座りたかった面々は酒場に向かうことにした。
がやがや… がやがや… がやがや…
酒場に入るとなかなかに人が入っていた。ギルド併設ということもあり冒険者たちが屯しているようだ。
幸い席は少し空いていたので近くの席に腰を下ろす。
「はぁぁぁぁぁぁ、やっと座れましたぁ」
座った途端にアイーシャがテーブルに突っ伏す。
(あの強靭なメンタルを誇るアイーシャをここまで疲労させるとは…。この街…恐るべし…)
おでこをテーブルでごろごろさせるアイーシャを眺めていると、フゥ…とサニアの方からも息をつくのが聞こえた。
挨拶回りを全て任せてしまったことが少し気になっていたので一応謝罪する。
「疲れたか? アイーシャもこんなだし…、おれだけ抜けちゃって悪かったな」
それを聞いたサニアはふるふると首を振る。
「いえ、きっとカルさんの方も大変だったのでしょう? 何人かの方に『連れの男無事だと良いな』と心配されたので、いったい何が起きているのかと私も心配してたんです。さっき無事に会えてほっとしました」
「……ハハハ、まぁ途中までは大変だった…かな」
護衛団の下っ端の顔が脳裏を過る。ローベンが教育するとか言っていたが、彼らは無事だろうか…。
「ま、これだけ大騒ぎになるくらい、サニアはこの街で大切な存在だったってことだろ。おれも雑貨屋のおっちゃんからいろいろ聞いたけど、ほんとにサニアはすごいと思ったよ。これだけ愛されるのも頷ける」
その言葉にサニアは少し恥ずかしそうにしていた。
ローベンの話ではサニアは自分の護衛団の存在を知らないらしい。発足の経緯を知ればそれは当然なのだが、しかしサニアからすれば、なぜ自分が街でここまで大きな存在になっているのか不思議で仕方ないだろう。
当然カルドラもサニアに話す気はない。護衛団はこれからもサニアを陰から見守り続けるだけの存在なのだ。
「カルさん何食べます~?」
アイーシャが突っ伏した状態でメニュー表を眺め聞いてくる。とても神官とは思えない。
「おれは軽めにポトフにしておくよ。あとは2人で決めてくれ」
カルドラがそう言うとアイーシャとサニアがメニュー表を見ながら相談し始める。
それを微笑みながら眺めていると、2人の背後から2人をニヤニヤと見ながら近づいてくる3人の男が目に入る。
(…嫌な予感が当たっちまったかな)
そう思い、軽く警戒態勢に入ると…。
ばしゃぁぁぁぁぁぁん
「うお!? 何しやがる!?」
3人組に大量の水が飛んで行った。
「すまねぇ、足が滑っちまった。大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇよ水浸しだ! どうしてくれる!」
「なんだなんだどうした?」
「水浸しだと? 大変だ、すぐに拭かねぇと」
「酒場の個室貸してもらおう。ほらすぐ行くぞ。こっち来い」
「え? え???」
「大変だ、水浸しで混乱してる。早く運んでやろう」
初めは怒っていた連中が集まってきた男たちにあれよあれよと連れていかれてしまった。
それを呆然と眺めていると、酒場の店員がカルドラに向かってウインクしてきた。
(あ、護衛団の…)
そこで初めてカルドラは護衛団のすごさを実感した。
サニアに近づく悪意を察知し、彼女の警戒範囲外で足止め、後腐れが発生しにくい方法で隔離。サニア目線では、あートラブルがあったんですねぇくらいの出来事でしかない。
(平和の象徴…か)
見事なものだった。彼女の周りでは事件が起きない。起きる芽が事前に全て対処される。しかも対処された芽にすら、完全にマッチポンプではあるが過剰な善意が押し付けられ、アフターケアが成されている。最終的に皆平和なのだ。
(流石にぜんぶ真似はできないけど、心構えは受け取らせてもらったよ)
今までの護衛団の活動に尊敬と敬意を感じ、アイーシャとサニアを守っていこうと決意を新たにした。




