重さ
時を少し遡り、カルドラが謎の2人組に連行された後のこと。
カルドラは森に入る前にポーションを購入した雑貨屋に連れ込まれていた。
「おぅおぅ兄ちゃん。我らがサニアちゃんに随分べったりじゃねぇのあぁあん???」
「あの子が我ら"サニア護衛団"の庇護下と知っての行動かぁ???」
この2人はどうやら"サニア護衛団"なる団体の構成員らしい。
正座で彼らの話を聞くカルドラに尚もいちゃもんを付けてくる。
「あの子はこの街の"平和の象徴"なのよ。皆遠くから見守ってるわけ、わかるぅ???」
「それをあんなに親しげに話しやがって…! 羨まし…じゃなくてどうなるかわかってんだろうなぁ???」
少し雲行きが怪しくなってきたところで、今まで静観していた雑貨屋の店主が口を開いた。
「おまえら、その辺にしといてやれ。こいつも懲りただろ」
(…?)
カルドラは少し違和感を覚える。
声に圧は感じるが、その顔は少し疲れている様だった。
「いやローベンさん! この際きっちり落とし前を――」
男の1人がそう言いかけたところでローベンと呼ばれた店主が2人を睨みつける。
「…!!!」
「…そ、そうですね! もう大丈夫ですね! おい兄ちゃん! もうサニアちゃんにちょっかい出すんじゃねぇぞ!」
2人はそう言い残し、雑貨屋を出ていった。
ローベンは、はぁ…とため息をつくとカルドラに謝罪してきた。
「すまなかったな兄ちゃん。あいつら最近護衛団に入ったばかりの下っ端だから、護衛団の活動を勘違いしてやがるんだ。後で"教育"しておくから許してやってくれ」
「はぁ…」
どうやらカルドラ連行は下っ端構成員の暴走らしい。本来の活動内容が非常に気になる。好奇心を抑えきれず聞いてみた。
「本来の護衛団?の活動はどんな感じなんですか?」
「ん? そりゃ見守るだけよ。当然だろ」
「…なるほど?」
それは活動と呼べるのか…。疑問に思っているとローベンが護衛団設立の経緯を教えてくれた。
「元々はサニアちゃんにちょっかいを掛けるゴロツキ共からサニアちゃんを守るために作られた組織だ。と言っても商店組合が名前を変えただけだが…。サニアちゃんが街に顔出し始めた当初はひでぇもんだったぜ。サニアちゃんがポーションを卸しに街に来てくれる度にゴロツキ共がちょっかい掛けるもんだから、サニアちゃんが街を嫌いになっちまうんじゃねぇかと本気で心配したもんさ。誘拐未遂まであったからな」
「そんなことまであったんですか!?」
驚きの過去である。しかしサニアのあの容姿を考えると別に不思議なことではないのかもしれない。
「まぁ結局その誘拐犯共はサニアちゃんが自分で倒しちまったんだが…。だがよ、それ以上ゴロツキ共をサニアちゃんに近づけるわけにはいかなかった。サニアちゃんは自衛はできるがあのやさしい性格だ。ゴロツキが接触するだけで気を揉んじまう。だから護衛団が、サニアちゃんに近づくゴロツキを接触前に"対処"してきたのさ。そして今じゃ街のゴロツキがほぼいなくなったからな。護衛団の活動は"見守るだけ"ってわけだ」
「なるほど。納得です」
昔のサニアは街でとても苦労していたようだ。サニア護衛団はそんなサニアを救済すべく発足した、まさに本当の意味での護衛団だったのだ。
「サニアは…、街にとってとても大切な存在なんですね…」
「そうとも。さっきのやつも言ってたが、サニアちゃんはこの街の"平和の象徴"だからな。彼女が街に来るだけでその周辺がやさしい空間になる。だからな…?」
ローベンの口調が変わる。嫌な予感がする。
「今街に流れてる"サニアちゃんが旅に出る"って情報におれは心底驚いている。兄ちゃん。話、聞かせてくれるよな…???」
「………はい」
結局、カルドラの立場は全く変わっていなかった。
そして、カルドラは彼女と知り合った経緯から森の封印のことまで、他言無用という条件ですべてローベンに話した。
途中でローベンの妻マールが話に加わり、話の終わり付近で息子のレオが帰宅。丁度すべて話し終わった辺りでサニアとアイーシャが店に来たのだった。
そしてサニアたちが店を後にした今、ローベンの個人的な追及がカルドラを襲う。
「さぁ兄ちゃん、第2ラウンドだ」
「いやいやいや、もう話すことないですよ! 全部話しましたもん!」
最後の抵抗を試みるカルドラだったがローベンには通じなかった。目がマジである。
そしてマールはレオを抱えて店の奥へ引っ込んでしまった。救援の希望は断たれた。
「兄ちゃんよ。おれにとってサニアちゃんは娘同然なんだ。そんなサニアちゃんが旅に出るんだ。旅の同行者に小言の一つも言っとかねぇとな」
「…! ぐぅ…!」
それ言われるとカルドラは逃げられない。すべて聞く義務がある。少なくともカルドラはそう思った。
そしてレオをどこかへ置いてきたマールが戻ってくる。きっとこの人も言っておきたいことがあるのだ。
「わかりました! 全部聞きます! おれには全て聞いた上でサニアを守る義務がある! さぁどうぞ!」
覚悟を決め、どかっと正座するカルドラ。
その姿に、ローベンとマールは顔を見合わせる。そして少し寂しさが滲む表情で微笑むと、カルドラに声を掛けた。
「兄ちゃん、お前さんはちゃんとわかってるみたいで安心したよ。さすがサニアちゃんだ、人を見る目もあるらしい。だから、おれからは一つだけ言わせてもらう。…どうか、サニアちゃんを助けてやってくれ」
「私からも大体同じだよ。…サニアちゃんをよろしく頼むよ」
2人がカルドラの肩を叩く。軽く叩かれたはずの肩が、とてつもなく"重く"感じた。
その"重さ"を噛みしめながら、カルドラは返答する。
「2人の…、いや、この街全部の想いも一緒に連れて行きます。そして必ず、サニアを無事に帰します」
その言葉にローベンとマールは満足そうに頷いた。そして店の奥の扉の向こうからは、今の話を聞いていたであろうレオの泣く声が聞こえた。




