サニアと雑貨屋の家族
その後、フリーズしていたアイーシャとサニアはなんとか思考を取り戻し、2人で挨拶回りを行っていた。
やはりサニアの旅立ちに涙する人は多く、しかも何件か回るとサニアが現れただけで泣く状態になった。サニアが旅立ちの挨拶回りをしているという情報が街に広がり始めているようだった。
しかし幸いなことに最初の門番のように尋問されるようなことはなく、比較的スムーズに各所を回ることができていた。
そのことについてアイーシャが呟く。
「カルさんが別行動で正解でしたね。きっと居たらとんでもないことになってました」
「……いまだに信じ難いですが…、そのようですね…」
サニアもどこか遠い目をしながら呟いた。今まで普通にこの街に通っていたが、まさか自分がここまで崇拝されていようとは夢にも思っていなかった。
特に男性陣からの熱量がすごく、もしカルドラが一緒だったら、彼らはまさにカルドラが言ったように血の涙を流す勢いだっただろう。
「…サニアさん、この街でなにやったんですか? この状態、さすがに異常ですよ?」
アイーシャがサニアに尋ねる。いくら美人だと言っても定期的に通うだけの個人に対してこの熱量は異常である。
しかしサニアには全く覚えがなかった。
「普通に通っていただけのはずなんですけど…。この街でやっていることと言えば、ポーションの取引と、食用品の買い出しと、あとはお散歩くらいです…。とてもこんな状態になるようなこととは思えません…」
「……謎ですね」
「……えぇ…」
頭を悩ませつつ歩く2人。
そんな2人の視界に雑貨屋が映り、サニアが口を開く。
「あ、次はあの雑貨屋です。この街で私が一番お世話になった家族のお店で、ポーションの取引をしてくれてたのもあそこです」
「なるほど。了解です!」
街の異常についてはとりあえず置いておいて、2人は雑貨屋に入る。
「ローベンさん、失礼します」
「サニア姉ちゃん!」
サニアが扉を開けると中から出てきた7~8歳くらいの少年に抱き着かれた。
少年は泣いている様だった。
「レオ君、久しぶり。どうしたの?」
この子はレオ。雑貨屋の一人息子だ。
実はこの子との出会いがきっかけでサニアは街に通い出したのだ。ある意味超重要人物である。
サニアは泣いているレオの頭を撫でつつ、父親で店主のローベンを確認する。彼も泣いていた。
ローベンの隣には妻のマールが呆れ顔で立ち。そしてその横にはなぜかカルドラがいる。
「行っちゃやだ! ずっと街の近くにいてよ!」
「レオ君…」
ストレートに感情をぶつけてくるレオに、サニアはやさしく諭す。
「ごめんねレオ君…。大切な用事ができちゃって、私…どうしても行かなきゃいけないんだ」
「……うううぅぅ……」
レオはぎゅううとサニアにしがみ付いていたが、少しすると泣きつつも離れ、サニアに謝罪した。
「……わがまま言ってごめん…」
レオはやんちゃだが、気配りのできる良い子だ。この歳ですでに、わがままでどうにかなることではないのもちゃんと分かっている。
「ううん。レオ君、ありがとう」
サニアは首を横に振り、しゃがんで目線を合わせやさしく撫でつつ、レオに感謝を伝える。
そしてレオと手を繋ぎ、ローベンとマールが待つカウンターへ。
「もう情報が伝わってるみたいですね。今日はいろいろびっくりしてます」
思っていることを素直に伝えると、ローベンは涙を拭いて答える。
「…あぁ。この街はサニアちゃんのこととなると動きが速いからな。そのサニアちゃんが旅に出るってんなら騒がしくなるのも当然だ」
ローベン夫妻とサニアの出会いはレオが森で迷子になったことに端を発する。
サニアが森でレオを発見しここへ送り届け、お礼として食事を振る舞われていた時にポーションの話が出て、そのまま取引相手になったという経緯がある。
そしてローベンはサニアのことを実の娘のように大切に思っており、彼女が街で気分良く過ごせるように陰でいろいろ手を回してたりする。
「今この子から話を聞いてたとこなんだ。いろいろ大変だったみたいだね、サニアちゃん…」
「マールさん…」
マールが親指でカルドラを指しながら話す。
ローベンの妻マールも旦那同様サニアを娘のように可愛がっていたため、カルドラの話を聞いて彼女が心配で気が気ではなかった。
そしてやっと店に顔を出したサニアをやさしく抱きしめる。
「今までありがとう。身体に気を付けるんだよ…」
「はい…。こちらこそありがとうございます…。お世話になりました…」
マールとの抱擁を交わし、サニアはローベンの前にポーションを並べる。
「ローベンさん。いつもより少ないですけどポーション持ってきました。急に取引できなくなっちゃいましたけど、今まで本当に助かりました。ありがとうございます」
「いろいろ大変だってのにポーションまで用意してくれてたのかい? 本当にサニアちゃんは…。こちらこそありがとう。これは責任を持って売らせてもらうよ」
せっかく拭いた涙がまた出そうになりつつ、最後の取引を行うローベン。
そして取引が終わるとローベンもサニアを軽く抱き、今までの感謝を伝える。
「今まで本当にありがとう。昔レオを助けてくれたこと、おれたち忘れてないからな。そしてこれからも忘れない。この街はサニアちゃんの庭みたいなもんだ。いつでも帰っておいで…」
その言葉にサニアは涙を浮かべつつ、ローベンを抱き返す。
「私も、ローベンさんたちが私を受け入れてくれたこと忘れてません。本当に感謝しています…。いつになるかわからないけど、用事が済んだら必ず戻ります。今まで、ありがとうございました…」
ローベンとも挨拶を終え、次はレオに声を掛ける。
「レオ君。レオ君のおかげで街にいる時すごく楽しかったよ。帰ってきたらまた遊ぼうね」
「サニア姉ちゃん…。おれも…楽しかった…。絶対帰ってきてよ…!」
「うん、約束だよ。今までありがとう」
ぎゅうぅぅっと抱き合うサニアとレオ。そしてレオは離れるとマールの許へ走っていき足にくっ付いた。
それを微笑みながら眺め、そして最後に雑貨屋親子に頭を下げ、サニアは次の挨拶へ向う。
しかし店を出る直前で立ち止まり、一応カルドラに声を掛けるサニア。
「……あの、カルさんの方は大丈夫ですか?」
それに笑顔で答えるカルドラ。
「あぁ問題ないよ。さっき伝え忘れてたけど、用事が済んだらギルドで落ち合おう。あそこが一番わかりやすい」
「わかりました。ではまた後で」
そこに笑顔のローベンが口を挟む。
「この兄ちゃんにはまだまだ聞きたいことがあるんでな。サニアちゃん、しばらく借りるよ」
その言葉にカルドラの顔が少し引きつるが、サニアとアイーシャはそれに気付きつつも店を後にした。




