添い寝と相談
戦いから一夜明け、森に朝日が射す。戦いが森の最深部、草原地帯になっている場所で行われたこともあり森自体へのダメージは全くなく、いつものように小鳥が囀り、草木の間に風がそよぐ穏やかな一日が始まる。
そんな森の一画。森の魔導士の家がある拓けた場所で、カルドラとジークは別れ前の時間をのんびりと過ごしていた。
ごろん
「……あー…、やっぱりここで寝転がるの最高だな…。ジークもまた付き合ってくれるんだな。ありがとな」
「…」
寝転がるカルドラの隣に寝そべるジーク。今日はソラも一緒で、ソラはジークの頭の上で伸びている。
(生物の格…。普通の動物はドラゴンを怖がるって話だったけど、ジークは全然大丈夫なんだな。まぁあれだけデカければそれも納得か…)
戦闘時のジークはとてつもない巨体だった。体高4~5メートル、まさに見上げるほどのサイズ。それが普通の狼か、下手をするとそれ以上の俊敏さで動いていた。それに加え空を駆け、魔法も扱えるとなると、本来アルティマウルフという種族は、人間にとって本当に恐ろしい存在なのだろう。
(この穏やかなジークを見てると実感がないけどな…)
まさに先代から続く、森の魔導士が築き上げた信頼の積み重ねが"アルティマウルフと添い寝する"というこのとんでもない光景を生み出したと言える。
(きっとここ以外では体験できない…。サニアの準備が終わるまで、じっくり味合わせて貰うよ…)
そう思い、隣にジークの存在を感じながら目を閉じた。
一方サニアとアイーシャは、サニアの私物の整理をしていた。先代が残した貴重品などは前日のうちに家の地下にすべて封印し終え、あとはサニア自身の身支度が完了すれば出発できる。
ちなみにカルドラが外にいるのは2人が追い出したからである。女性の身支度が終わるまでゆっくり待つのは男性の務めだ。
そしてこの2人の時間を使って、アイーシャはサニアに聞いてみたいことがあった。
「ねぇサニアさん。サニアさんの魔力量ってどれくらいあるんですか? 昨日すごい数の魔法使ってましたけど、マナポーションとか使ってる様子もなかったですし、なにか魔力をやり繰りする秘密とかあるんですか?」
「え? 魔力量ですか?」
サニアはきょとんとした顔をした。見返すとアイーシャの目はとても真剣だった。何か理由があると感じたサニアは真面目に答える。
「私の魔力量はおそらく常人の5~6倍くらいあると思います。細かい節約術もいくつか実践してますが、昨日の魔力のスタミナは単純に魔力量によるものです」
「5~6倍…。それって生まれつきじゃないですよね? そんな魔力量の人間、資料でも見たことありません」
「……んー…」
教えるべきか悩むサニア。しかしアイーシャは真剣だ。理由を聞いてみることにした。
「何か…、魔力量で困っていることがあるんですか?」
その質問にアイーシャは少し目を伏せ、しかしすぐにサニアの目を見て正直に話した。
「今の私の魔力量では…カルさんをサポートし切れません。サニアさんも昨日のカルさんを見たからわかるでしょうけど、ああいう無茶を息をするようにする人なんです。きっとこれからも、人を助けるため、仲間を守るために無茶をすると思います…。たぶん本人にも止められないんだと思います、ああいう人ですから。でも、だから私はカルさんの隣に居たいと思ったんです。だからせめて、カルさんが怪我をして戻ってきた時くらい、安心して帰ってこれるようにどっしり構えられるようにしたいんです…」
「アイーシャさん…」
真剣だった。真剣で純粋で、そして真っ直ぐで…。
そんな想いに触れてしまったら、隠すことなんてできない。
「…アイーシャさん、確かに私の魔力量は生まれつきではありません。つまり、魔力量は鍛錬で増やすことができます。でも…、すごく辛いですよ…? 死の危険すらあります…。それでも…、やりますか…?」
「!!!」
サニアの言葉にアイーシャの顔がパッと明るくなる。まるで空腹で伸びていたアイーシャにおいしい食べ物を見せた時のような反応だ。
「教えてください! 辛いのは大丈夫です! 私、修道院時代に周りから"お前の我慢強さはイカれてる"って褒めて貰ってました! それにカルさんも言ってましたけど、旅に出た時点で死は覚悟の上です! もちろん簡単に死ぬつもりはありませんからそこは安心してください!」
「は、はい…!」
すごい勢いで捲し立てられ困惑気味に返事をするサニア。
しかし今、変な言葉が聞こえた。
("我慢強さがイカれてる"って…、誉め言葉じゃないですよね…? あれ…?)
少し自分の感覚に疑問を持ってしまったが、とりあえず置いておくことにした。
そして引き下がるつもりがなさそうなアイーシャに鍛錬の方法を教えることにした。
「わかりました。そこまでの覚悟があるならお教えします。今はやり方だけ教えるので、実践するのは今夜からにしてください。この鍛錬を行うと気を失うので」
「!!! サニアさん、ありがとうございます!!!」
胸の前で両手をぎゅっと握り、全力で喜ぶアイーシャ。
彼女のその子どものような姿を見て、サニアはやれやれとやさしく微笑む。




