放っておくことなんてできません!
その後、草原を走り回る大量の狼の魔物をジークがあっという間に処理し、皆は石碑の前に集まっていた。
「すまんサニア…。完全におれの判断ミスだ…。ちょっと考えれば空中はダメだってわかったのに…」
アイーシャに身体の火傷、加えて腕の骨折と筋断裂を治して貰いつつ謝るカルドラ。
そんなカルドラにサニアは首を横に振る。
「いえ、カルさんがいなければ私は確実に死んでいました。確かに魔力片を奪われたのは痛いですけど…、そんなことよりも私は…、カルさんが生きていてくれたことの方がうれしいです。最後の爆音にはほんとに驚いたんですからね?」
眉の端を下げながら、しかし微笑みながら言った。
そしてアーシャも口を開く。
「魔法の出力が上がって立ち回りに安定感が出たまでは良かったんですけどね。なんで最後の最後にまた無茶したんですか? あの威力…、下手をしたらあの魔族みたいに腕を欠損してましたよ?」
珍しくアイーシャが怒っているように感じた。
腕の治癒が終わり、アイーシャがカルドラの目をまっすぐに見つめる。そして、今度は悲しそうに呟く。
「カルさん…、いくら私でも欠損は治すことができません…。お願いですから…、そういう無茶だけはしないで……」
そしてそのまま泣き出してしまった。
「アイーシャ…」
静かに泣くアイーシャをやさしく抱き、謝罪する。
「アイーシャ…、心配かけてごめんな…。ちょっと言い訳に聞こえるかもしれないけど、最後のアレはおれも予想外だったんだ。まさか棍棒で人体を爆散させる威力が出るなんて思ってなかった。これからは試したことのないことはやらないようにする…。約束するよ…」
「……絶対ですからね…? 絶対約束ですよ…?」
「あぁ、約束だ…」
そして少しの間やさしく抱き合う2人。
サニアはそんな2人をジークとソラと一緒に微笑みながら眺め、皆が無事に生き残ることができたことに安堵した。
アイーシャが落ち着いた後、彼女はジークを治療し、一同は今後のことをゆっくり話し合うためにサニアの家へ移動した。
「私、生まれて初めて"怒り"というものを感じました。修道院時代によくセシリアさ…親友が私に怒ってくれてたんですけど、彼女の気持ちが今はよくわかります」
何とも言えない顔でしみじみ語るアイーシャ。その姿にカルドラは思う。
(その親友…、大変だったんだろうな…)
アイーシャのイカれた行動はカルドラも何度も見てきた。それを神官の修行時代に諫めるのがどれだけ大変か想像もつかない。
「ま、まぁこれからいろいろ検証するからさ。アイーシャにも手伝って貰うかもしれないし…、よろしく頼むよ…」
なるべく当たり障りのない言葉を選んで発する。そして話題を変えるべくサニアに質問する。
「サニア、魔力片はどうするんだ? やっぱり取り返さないとまずいのか?」
その質問に真剣な顔のサニアが答える。
「おばあちゃんの話をそのまま受け取るなら…、非常にまずいです」
その返答に、カルドラとアイーシャが顔を見合わせる。そしてさらに質問する。
「そもそもアレはどういうものなんだ? なぜ森に封印を?」
目を伏せながらサニアが答える。
「あの魔族も言ってましたが、あの魔力片は魔王の一部です。おばあちゃんは若い頃、魔王が討伐された戦いに参加していたそうなのですが、魔王は、討たれる直前に自分の魔力を世界各地にばらまいたんだそうです。あれはそのうちの1つ。森に封印されていた理由は、魔力片の負のエネルギーが強すぎて浄化ができないため、森の奥に安置することで自然に溶けて無くなるまで待つことにしたのと、その間魔族に見つからないようにするためです」
その説明にアイーシャが「あっ」と口を開ける。
「もしかしてサニアさんが森に住んでるのって…」
「はい。あの封印の守護をおばあちゃんから託されていました」
サニアの顔に悔しさが滲む。おばあちゃんから託されたものを守り切れなかったという事実が、彼女の胸を締め付ける。
そのことについて一定の責任を感じているカルドラがさらに聞く。
「あれが魔族の手に渡るとどうなるんだ? まさか魔王が復活するとかじゃないよな」
「討たれた魔王が復活することはないと信じたいですが…。おばあちゃんの話によると魔王は古代の魔法に精通していたそうなので、絶対とは言い切れないそうです。仮にそれはないとしても、魔力片を取り込んだ魔族が魔王のような力を手にするかもしれません。私としてはそちらの方が現実感があります」
「どちらにしても放置はできない…ってことか…」
しばし沈黙が流れる。
そして、サニアが苦しそうな表情で零す。
「私は…、魔力片を取り返しに行かなければなりません…。でも…、カルさんの魔法陣も放置したくありません…。私は…、私はどうしたら………」
託された使命と、自身の願い…。2つの責任の間で、サニアは苦しんでいた。
苦しむサニアを前に、カルドラがちらっとアイーシャを見た。アイーシャもカルドラに視線を送っていた。考えていることは同じようだ。なら話は早い。
「サニア。おれたちと行かないか?」
「一緒に行きましょう。サニアさん」
「……え?」
今にも泣きそうだったサニアが2人を見る。2人は微笑みながら続ける。
「おれがサニアの側にいればいいだけなんだから悩むまでもないぞ? おれが言うのもアレだが…」
そう。カルドラがサニアから離れなければ魔法陣は放置しなくて済む。
「で、でも。魔族に喧嘩を売りに行くようなものですよ? 危険です…」
「その危険な旅に1人で行くつもりか?」
「……っ」
今回の戦闘でもカルドラがいなければサニアは命を落としていた。1人で行くのは無謀以外の何物でもない。
「サニアさんはもう私たちの友達です。友達が1人で危険なことをしようとしてるのを放っておくことなんてできません!」
「アイーシャさん…」
友達…という言葉にサニアは胸が熱くなるのを感じる。今まで同年代の人間との付き合いがなかったサニアにとって、その言葉が持つ温かさは初めて体感するものだった。
「それに私たちには騎士団の知り合いがいるんです! あの人たちなら絶対に手を貸してくれます!」
「そうそう。魔族連中を相手にするならぜひとも騎士団にも出張って貰わないとな」
2人のやさしさに触れ、さっきまでとは違う涙が溢れそうになる。
「それに目的地の目星はついてるのか? そこ結構重要だぞ?」
「………いえ、まったく…」
「ならせめて、目星が付くまでの間はおれたちに付き合え。何てったっておれたちは"世界を回っておいしいものを食べるパーティー:テイスト・ヴォイジャー"だからな。世界回ってればそのうち目星も付くだろ」
「あ! そういえばそんな名前でしたね私たち!」
「おい!!! 忘れるくらいなら改名するぞ! 長すぎて面倒なんだよ!」
「だめですー! 改名は認められません!」
「……ふふ」
謎のパーティー名が暴露されたかと思えば突如始まる言い争いに、また違う涙が出そうになる。感情があっちこっちに移動し、もう何がなんだかわからなくなっていた。
その時…。
とんっ
「…え? ジーク?」
小さくなって一緒に家にいたジークに鼻で背中を押された。
その目は"早く覚悟を決めろバカ娘が"とでも言いたそうな色をしていた。
「ふふふ、ジークちゃんも背中押してますよ?」
「ほら、ジークの"お墨付き"だぞ? どうする?」
「皆さん…」
ジークは背中を押してくれ、2人は手を差し伸べてくれている…。ここまでお膳立てされたのではもはや退路はない。
サニアはまっすぐに2人を見て答える。
「はい、一緒に行きます。よろしくお願いします!」
こうして彼女は外の世界への一歩を踏み出す。
今まで動物たちと共に森を守ってきた森の魔導士は、これからはこのちょっと変わった名前のパーティーの一員として、友人たちと歩んでいく。
そんな覚悟を決めた彼女を見るジークは、心配しているような、安心しているような、まるで旅立つ娘を見送る父親のようにやさしい表情を浮かべるのだった。




