プライドと意地
「サ、サニアさん! 大変です! カルさんに加勢しないと!」
「分かってますが…魔族と近すぎて…、カルさんにも当たっちゃうかも…。それに魔物がこちらにも来てます。フレイムバースト!」
ブバアアアアアアアアアア
「「「ガウウウウゥウゥゥウゥ!」」」
アイーシャはプロテクションを維持しながらカルドラと男の戦いを観察し、戦況の変化を察知していた。そしてサニアはアイーシャの言葉を理解しながらも同士討ちを恐れ男への攻撃ができず、プロテクションに殺到する魔物を迎撃していた。
「サニアさん、防御は私にまかせてください! このくらいの攻撃なら絶対にプロテクションは突破させません! カルさんも大丈夫、あの人には感覚加速があります!」
「でも……」
説得するアイーシャ。しかしサニアは踏ん切りがつかない。
男にダメージを与えられる魔法となると高威力と速さが必要だ。しかしそれがもしカルドラに当たればただでは済まない。
サニアの手が震える。
「サニアさん、カルさんはサニアさんの魔法も含めて『あの程度の速さなら問題ない。絶対におれには当たらん』って断言しました! 私がカルさんと旅をしてきた中で、カルさんが断言したことはすべて実現されてます! それにカルさんの動きが明らかに今までと違います! きっと魔法の出力が上がってるからです! あの自信の裏にはきっと、一緒に魔法陣の力を解放したサニアさんへの信頼も含まれてます! だから…! カルさんを信じてあげてください!」
「アイーシャさん…」
アイーシャの必死の説得に、サニアは一瞬だけ目を閉じ、深呼吸した。手の震えを、カルドラに当ててしまうかもしれない恐怖を静めるために。
そして覚悟を決める。
「マルチソーサリー、『『『レーザ!』』』」
3本の超速の光がカルドラと男に迫る。
ジュッ
「!!?」
突然の横からの魔法攻撃が左腕に掠り、男が驚く。まさか仲間がこんなに近くにいるのに横やりを入れてくるとは予想していなかったのだ。
そして目の前の脳筋は何も気にしていないような素振りで魔物の処理に勤しんでいる。
「ふん。貴様、味方に見捨てられたみたいだぞ?」
「ん? 違う、逆だよ」
脳筋を煽ってみるが謎の返答。そしてまた横から魔法が飛んで来る。
ビュッ
「くっ! …!??」
ギリギリで1本の光を回避する――と同時に男は見た。恐ろしいほど余裕のある動きで2本の光をすり抜け、男に切りかかる脳筋を。
シュッ
「…!」
ジャキィン
魔法の横やりでリズムを崩され、男は反撃が出来ない。
「おまえ勘違いしてるぞ? 確かに剣に持ち替えてからおまえにおれの攻撃は通らなくなった。だが回避の方はまだまだ余裕がある。そしておれを"信頼"してくれる仲間がおまえに攻撃を加える。どうだ、すごいだろ」
「おのれ…!」
脳筋が話している合間にもどんどん光が襲い掛かる。それを脳筋は何事もなかったかのようにすり抜けながら魔物を処理し、男に切りかかる。
シュッ
「…ぐぅ!」
ジャキィン
男は防御で手いっぱいになっていた。足元には狼の魔物、目の前に脳筋、横から高速の魔法。自分から仕掛けた乱戦が完全に裏目に出ていた。
「おまえが用意した舞台だ。最後まで一緒に踊ろうぜ?」
「貴様ぁ…!」
脳筋の言葉に男は冷静さまで削られていく。
そしてそんな男に照準を合わせ、サニアは魔法を発射し続ける。
「マルチソーサリー、『『『レーザ!』』』『『『レーザ!』』』『『『レーザ!』』』『『『レーザ!』』』『『『レーザ!』』』」
ビビビュッ ビビビュッ ビビビュッ ビビビュッ ビビビュッ
マルチソーサリーは1つの魔法を3つに増幅、それを5回行使できるサニアのオリジナル魔法だ。それを使い、数ある魔法の中でも最速の着弾スピードを誇るレーザを男目掛けて連射する。
男はぎりぎりで凌いでいるが全く余裕がない。このまま続ければ確実に当たる。
そして驚愕なのが、この幾重にも襲い掛かる超高速の光の線を余裕をもって回避するカルドラだ。
(本当にすごい…。あの魔族がレーザを凌ぐのだって本来なら異常事態なのに…。カルさん…、貴方には世界がどう見ているの?)
カルドラが見ている世界。それがどんなものなのか、サニアは心の底から興味を惹かれる。彼の口から、彼の見ている世界について聞いてみたい、そう強く思う。
そのためには早くあの魔族を退け、魔力片を守らなければならない。
(残りの魔力もあまり多くない…。踏ん張りどころです…!)
自分に気合を入れ、魔法を発射し続ける。
(おのれ…! まさかここまで追い込まれるとは…! もはやこいつらの殲滅は不可能、だが魔力片だけは絶対に確保しなければ…!)
男は焦っていた。
魔族の中でも最上位の上澄みである彼は自分の腕に絶対の自信を持っていた。だから1人で人族の領域に忍び込み、魔力片の捜索を行っていたのだ。
しかし目の前の脳筋棍棒男というイレギュラーが男の自信とプライドをぐらぐらと揺さぶる。
(こいつさえ…! この脳筋さえいなければ…! …………くそ、もう無傷での帰還は望めんな。だがどんなダメージを負おうとも魔力片はいただいていく)
男は"敵の殲滅"から、"魔力片の奪取"へと目的を完全に切り替えた。
(少しずつこいつの"凌ぎ"が怪しくなってきてる。あと少しだ)
対するカルドラは冷静に男の動きを見極めていた。
魔物を防壁でいなし、カルドラの攻撃をナイフでいなし、サニアの魔法を防壁と回避で凌ぐ。それ以外の行動が一切取れない袋小路状態。後はこのまま押し切るだけ。最低限、先ほどの煙幕のような奇策にも注意を光らせておく。
大胆な行動が多いが、カルドラの根は慎重なのだ。大胆に成らざるを得ない状況が多いだけなのだ。
(こいつの性格から考えて、これから絶対に何かやる。その何かに対処できれば、おれたちの勝ちだ)
男の動きに細心の注意を払いながら、カルドラも魔物、ナイフ、魔法を適切に処理していく。
そして、やはり男が行動を起こす。石碑目掛けて弧を描くように大跳躍したのだ。
(…! 逃がさん!)
カルドラも跳躍し後を追う。しかし、この選択は大失敗だった。
「ふん、まだガキだったな。吹っ飛べ」
男がそう言うと特大の火球をカルドラへ放った。
「しまっ――!!!」
ボガアアアアン!!!
空中では回避のしようが無く、火球の直撃を貰ってしまうカルドラ。
斜め下に吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
ドガッ
「ぐっ!」
咄嗟に身体を丸めダメージを最小限に抑えていたカルドラがすぐに体制を立て直し男を探す。
男はサニアの死角になるように石碑にかがみ、石碑に右手をかざしていた。
「くそっ!」
すぐさま男に向かって走り出す。ショートソードを捨て、ポケットから棍棒を1本取り出す。
5層開放状態、出力が上がった身体強化、そして引き上げられた身体能力を特殊体質で限界まで引き出し、凄まじい威圧感を放ちながら棍棒を振り上げる。
「!!!」
カルドラの接近に気づいた男の右手にはすでに魔力片が握られており、今まさに離脱する直前だった。
男は左手で高出力の防壁を展開し、カルドラの最後の攻撃に備える。そこにカルドラが渾身の一撃を叩きこむ。
「はああああああああ!!!!!!」
ドガアアアアアアアン!!!!!
棍棒を叩きつけたとは思えない轟音が響く。衝撃が周囲に拡散し砂埃が舞う。
防壁は粉々に粉砕され、棍棒の直撃を受けた男の左腕の肘から下が"爆散"した。
「ぐあああああああ!!!」
左腕を失った男が声をあげるも、痛みに耐えつつ走り出していた。
「っぐ…! カオスサラマンダー!!!」
「!!!」
男はジークと戦っていたカオスサラマンダーを呼び、それに反応したカオスサラマンダーは黒い爆炎を自身の目の前に放つ。
ブオバアアアアアアアアアア
「ガウ!!!」
ジークがそれを後方に飛び回避すると、その隙にカオスサラマンダーは男の方へ走る。
「待て…! ぐっ!」
カルドラが追おうとするも、先ほどの一撃で自身も右腕に大ダメージを負い、痛みで少し硬直が発生。その一瞬で追跡ができないほど男との距離が開いてしまった。
そのまま男はカオスサラマンダーの背に飛び乗り、森の中へと消えていった。




