脳筋棍棒野郎
ビュッ
サッ ザザッ
シュバッ バチィィィン
サッ ザザザッ
(……この棍棒男、強いな)
無言で戦う男と棍棒男。男はこの謎の棍棒男の動きに驚いていた。
まったく攻撃が当たらないのだ。掠る気配すらない。
(……おそらく同じ時間軸で動いてない。厄介だ)
その異常な余裕さから、棍棒男がかなり速い感覚の中で動いていると直感する。
(ときどきそういうやつはいるが、おそらくこいつは今まで戦ってきたやつの中で最速の感覚を持ってる。しかも…)
もう一つ、この棍棒男には厄介な所があった。
「ふっ!」
シュバ
「くっ!」
バチィィィィィン
この棍棒による打撃だ。実はすでに2本ナイフを破壊され、今3本目が破壊された。
(剣ならいなせるものを…。こいつ、思いっきり振り抜いてきやがって…)
そう。普通剣士は自分の剣が刃こぼれしないように剣を振るう。如何に熟練の剣士でも、当たったら刃こぼれする箇所に剣を振り下ろすようなことはしない。
しかしこの棍棒男、どこでも全力で振り抜いてくる。刃が存在しない棍棒ならではの力技だった。
(楽だと言ってた理由がこれか…。脳筋野郎め…)
棍棒によるセオリー完全無視の戦術に四苦八苦する男に対し、棍棒男、脳筋野郎ことカルドラは静かに自分の身体と対話していた。
(まだいけるのか…。今までならここまで筋力を使ったら間違いなく身体が壊れてた。でも今はまだまだ余裕がある。おれの感覚にしっかり身体がついてくる…)
そうなのだ。今までのカルドラは魔法の出力不足のせいで身体の強度がボトルネックになり、感覚加速の能力を出し切れていなかったのだ。しかし今、そのボトルネックは解消され、カルドラは生まれて初めて自分のイメージ通りに動けていた。
(正直ここまで動きが変わるとは思ってなかった。こりゃ…戦闘が終わったら検証のやり直しだな)
カルドラの頭にはすでに戦闘終了後の予定まで組まれ始めていた。それほどまでに今のカルドラには余裕があった。しかし、そこはしっかり自分に喝をいれる。
(驕るな。まだ戦闘は終わってない。まずはこいつの処理が最優先だ)
そう思い直し、男の胴体の中心目掛けて棍棒を振り抜く。
「ふっ!」
ビュッ
「…おのれっ!」
バチィィィィィン
男が防御魔法を乗せたナイフで棍棒の軌道を無理やりずらし、身体への直撃を避ける。しかしナイフに亀裂が走り、このナイフはもう使えない。すぐにナイフを捨て、ポケットから予備のナイフを取り出す。
カルドラはそれを観察する。
(まだ持ってるのか…。破壊したナイフはさっきので4本。いずれなくなるだろうが、このままジリ貧を受け入れるようなやつじゃなさそうだよな…。細かい動きの変化に気を付けておかなきゃな…)
冷静に戦況を見極めるカルドラ。
対する男は少しずつ追い詰められていく。
(このまま武器を破壊され続ければいずれはこちらの負けか…。距離を取って時間を作ろうにも、この脳筋はあっという間に距離を詰めてくる。………仕方ない。この手の小細工は趣味ではないが、負けるよりはマシだ)
すると男は、カルドラの死角、自分の背中側でポケットから1つの玉を取り出し、地面に投げた。玉が地面に当たると…。
バシュウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥ
「っ!!!」
大量の白煙が着弾地点から拡散する。
すぐに白煙の範囲外へ離脱するカルドラ。そして遠くから男を探すが、白煙に紛れ、完全に見失ってしまった。
(…ちっ。なるほど、こういうのも有りか。参考になるよ)
心の中で舌打ちしつつ、初めて目にする戦術に素直に感心するカルドラ。
「あ! サニアさん見てください! もくもくしてます!」
「!」
カルドラから少し離れていたところのプロテクション内で、サニアはアイーシャからカルドラの感覚加速について説明を受けていた。
その最中にアイーシャが白煙に気づき声をあげる。サニアもそちらを見ると、白煙が魔王の魔力片を守る結界に近い所まで広がっていることに気づく。
ぞっとして叫んだ。
「カルさん!!! 結界を守ってください!!!」
「!!!」
それを聞きカルドラも白煙と結界の距離に気づき、結界へ走ろうとする。
しかしその瞬間。
バキィィィィィン!!!
大きな音と共に結界が粉々に破壊された。そして破壊の衝撃で白煙が散り始めると、中から大量の、黒い靄を纏った狼の魔物が飛び出してきた。男はそれに紛れ、中心の砕けた石碑へ走る。
狼たちを見たカルドラは棍棒をポケットに仕舞い、代わりにショートソード2本を取り出す。そしてすばやく男の前に立ちはだかる。
「やはり持ち替えたな。剣士相手ならさっきまでのようにはいかんぞ?」
「………」
そしてまたカルドラと男の戦いが始まる。
「ふっ!」
シャッ
「…」
ジャキィィ シュバッ
「…!」
ジャキィィン
カルドラの斬撃を男がナイフでいなし、そのまま反撃、カルドラがそれをいなす。
カルドラがショートソードに持ち替えたことで男に反撃の余裕が生まれていた。
更に…。
「ガルルルル!」「ガウゥゥ!」「ガルゥゥ!」
「……!」
狼たちがカルドラと男に襲い掛かる。
魔物たちは誰でも構わず襲い掛かるため、男にも襲い掛かっていたが、男は小さな防壁をうまく使い、狼たちをいなしていた。
カルドラはショートソードを細かく滑らせ狼たちを切り伏せていく。
それを見た男が淡々と言う。
「この数相手では棍棒は加速できないよな? せいぜい頑張ることだ」
そう。ショートソードに持ち替えたのは、敵の数が多過ぎて棍棒を加速させる余裕が作れないからだ。刃が当たればダメージが通る剣と違い、棍棒は加速させて殴る必要がある。そして男は対剣士戦の練度がカルドラより遥かに高い。
立場が逆転した。




