取り返しにきた者
直後、家から大杖を持ったサニアが勢いよく飛び出し、音の鳴った方へ走っていく。
そしてアイーシャもその後をパタパタ追いかけていく。
「待ってくださーい!」
「サニア! 何があった!?」
追いかけながら聞くとすぐに返事が返る。
「森の封印が破壊されました! すぐ行かないと!」
「封印ってなんだ!?」
「詳しく説明してる余裕がありません! とにかく大切なものです!」
「…! わかった!」
余程焦っているのか、走ること以外考えられないようだ。
とりあえず着いて行こうとサニアの進行方向に目を向けると、その方向からとんでもなく巨大な銀色の狼が走ってくるのが目に飛び込んでくる。
「!??? なんだあれ!?」
ドシン!ドシン!と地面を揺らしながら走って来るその狼は体高4~5メートルはありそうだ。
「ジーク! 乗せて!」
「ジーク!???」
サニアはその巨大な狼をジークと呼ぶが、カルドラの脳内にあるジークの大きさとは全く結びつかず混乱する。
カルドラの混乱を余所に、サニアは一瞬身体強化を使うと軽々とジークの背中に飛び乗った。カルドラは混乱しつつもアイーシャを抱え、同じく身体強化を使いジークの背中へ。
そして3人が乗るのを確認すると巨大なジークはなんと空中を走り始めた。音の鳴った現場まで一直線である。
「いったい誰が…! 早くしないと…!」
サニアがぶつぶつと独り言を呟いている。明らかに冷静ではなかった。
カルドラも若干混乱しているが、まずはサニアを落ち着かせないといけないと感じた。
「サニア? 大丈夫か?」
「守らなきゃ…! 私が…!」
…カルドラの声が届いていないようだ。
今の状態でまともに事態に対応できるとは思えない。
(ちょっと失礼かもしれんが…。すまん、ゆるせ)
そう思いつつカルドラはサニアの顔を両手で包み込み、グイっと目線をまっすぐ合わせた。
「え!???? カルさん!???」
顔の近さに驚きサニアが取り乱しているが気にせずに、できるだけ落ち着いた声で語り掛ける。
「落ち着けサニア。おまえがそんなんじゃ対処できるものもできん。いつものサニアなら何があっても絶対大丈夫だ。サニアは森の魔導士様だろ?」
「………カルさん…」
すると動揺が広がっていた目が落ち着きを取り戻し、サニアの冷静さが戻ってきた。
「ごめんなさい…。私、取り乱して…。あの、もう大丈夫なので…、その…、近いです…」
「!!! す、すまん!」
そう言ってすぐに離れる。自分も混乱していたとはいえ、なんて大胆なことをしてしまったのかと恥ずかしくなる。
そしてアイーシャがじとっとした目で見てくる。
(やめてくれ…。アイーシャにまでそんな目をされるとさすがに心にくる…)
穴があったら入りたいとはこういう場面をいうのか…。と思っていたらサニアが言葉を発する。
「着きました。ここが封印の中枢です」
ジークが拓けた場所に降り立つ。
その場所はかなり広い範囲に木がなく、一見すると草原のような場所だった。草原の真ん中あたりにはドーム状の大きな結界が張られ、その中心に砕けた石碑のようなものが見える。
そしてその結界の前に誰かが立っていた。その人物に向かってサニアが声を上げる。
「そこの貴方! 今すぐにそれから離れなさい! それが何か分かっているのですか!?」
するとその人物が振り返り、答える。
「もちろん分かっている。取り返しに来たんだからな」
その返答にサニアが顔をしかめる。
「貴方…、魔族ですか…」
「え!?」
「魔族!?」
魔族。それは80年前に人族と戦争をし、世界の端に追いやられた種族。姿形は人族と大差ないが、身体の組成に魔力が大きく係わっており、種族全体で魔力の扱いに長ける。
先の戦争で魔族はその種族特性を存分に使い、世界の環境そのものを改変していった。
英雄たちの活躍により戦争は終結したが、その時の傷跡は長く世界に残り続け、最近やっと傷が癒えてきたところだ。
「グルルルル……」
「え? ソラ?」
アイーシャの服にくっ付いて来ていたソラが魔族だという男にその小さな牙を向ける。
ソラが、あの温厚なソラが敵意を剥き出しにしている。
「取り返しに来た…って、どういうことですか?」
アイーシャが尋ねると、男は淡々と答える。
「この結界の中の魔力片だよ。これは魔王の一部だからな。魔族が持って然るべきものだ」
「…魔王の…一部…?」
男は自分が言い終わると、もう話すことは無いと言わんばかりにアイーシャを無視し、結界を破壊しようと攻撃準備を始める。右手に魔力を纏わせ、結界を殴りつけようと拳を引く。
その瞬間。
「レーザ!」
サニアが魔法を詠唱し、ビュッと凄まじい速さの細い光の線が男に伸びた。
「ちっ」
男はすばやく身を翻しその光を避けると、結界の少し離れた場所へ着地した。光が当たった地面は黒く焼け焦げていた。
それを見た男が大げさな口調で話し出す。
「おいおい! その魔法は人族の間では禁術ではなかったか!? よくもまぁ堂々と使えたものだな!」
そんな男にサニアは淡々と答える。
「習得に制限が掛けられているだけです。習得者が対人戦闘以外で使用する分には何も問題ありません」
「おれにはいいのか?」
「貴方は魔族です」
それを聞き、クククと笑いながら男は小瓶を取り出した。
「やはり人族と魔族は相容れぬな! まずはお前たちを殲滅し、ゆっくりと魔力片を回収するとしよう!」
男が小瓶の蓋を開けると、中から黒い煙がぶわあああああと吹き出し、トカゲとサンショウウオを混ぜたような四肢のがっしりした巨大な生き物が現れた。全長は13~14メートルにも及び、黒い体表のところどころから黒い炎が噴き出し、その炎が全身を覆っている。明らかに普通の生き物ではない。
そしてそれを見たサニアが声を荒げる。
「カオスサラマンダー!? 貴方! 何てものを使役しているんです!!!」
「アルティマウルフを連れている貴様に言われたくはないわ!!!」
双方意見をぶつけると同時に、カオスサラマンダーがこちらへ走ってくる。
「ジーク! お願い!」
「ウォン!!!」
ジークが軽く吠えるとその体が青白く発光し、炎のようにジークの体を覆った。そしてカオスサラマンダーとぶつかり合う。
ドガアアアアン
「ギャアアアアアス!!!」
「グルルルルルルル!!!」
巨体同士が激しくぶつかり合い、纏った炎と魔力が飛び散る。そのまま揉み合いになり、地を踏みしめる互いの巨大な四肢が地響きを奏で、空気が唸る。
そしてその後ろではナイフを抜いた男がこちらへ走り出していた。それを見たサニアはカルドラたちから離れるように走り出し、男に向かって魔法を発射。
「レーザ!」
ビュッと伸びた光の線を最小限の動きで躱した男がサニアに標的を定め向かっていく。それを確認したサニアが大杖を真っ直ぐ掲げ、"連続魔法"の準備に入る。
「マルチソーサリー…、ストック…、『『『トルネードエッジ』』』『『『スパーク』』』『『『フレアボム』』』『『『エアロブレード』』』――」
大杖の周りに夥しい数の魔法陣が展開されていく。
それを見た男が動きを止め、身体強化と、何かの魔法を手足に展開。
そして、サニアが大杖を振り下ろし魔法が放たれる。
「キャスト!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガアア!!!
展開されていたすべての魔法陣から一斉に魔法が放たれる。凄まじい数の魔法を使った飽和攻撃で男を追い詰める。
男は部分的に防御魔法を展開し、防御と回避を組み合わせサニアの攻撃を凌いでいく。
そして再び…。
「マルチソーサリー…、ストック…、『『『レーザ』』』『『『アイスアロー』』』『『『ファイア・レイ』』』『『『ライトニング』』』――」
サニアが夥しい数の魔法陣を展開していく。それを見た男は…。
「ふん、小賢しい」
そう言って火球をサニアに向かって高速で発射。
「!」
最小限の動きで火球を躱し、そして…。
「キャスト!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガアア!!!
再び魔法の飽和攻撃が男を襲う。しかし男はその攻撃をきれいに凌いでいく。
そして…。
「あわわわわわわわ…。なんかすごいですぅ…」
それを見ていたアイーシャがあわあわしていた。




