平穏を砕く音
それから少し後、3人はまたお茶を飲みながらまったりしていた。
結論から言うと、カルドラのリミッター開放は4層までが限界だった。3層目を開放しようとすると魔法陣全体が大きく振動し出し、サニアが慌ててカルドラにストップを掛けたのだ。
それでも解放できる魔力は6割だ。今までの3倍である。カルドラにとっては十分すぎる魔力量だった。
「本当にありがとうサニア。まさか魔法の出力問題を解決できるとは思ってなかった。まぁ魔法の練度をあげないと今までと変わらないけど…、それでも可能性が生まれたのはでかい」
それを嬉しそうに聞くサニア。でもしっかり釘を刺しておく。
「ふふ、そう言ってもらえると頑張って解析している甲斐があります♪ でも過信はしないでくださいね。カルさんは魔力を放出するとそのまますべて体外へ出て行ってしまう…。魔力のスタミナは常人には絶対に敵いませんので」
それに対し頷きながらカルドラが答える。
「うん、肝に銘じておく。基本的におれの魔法の使い方は今まで通りだ。身体強化で走り回って、弱点を攻撃。今まではその段階で身体が悲鳴をあげてたけど、身体強化の出力が上がればそれも解消される。通常戦闘で4割解放、ここぞという一瞬で6割解放、これがベストだろ」
「しっかり考えていただけてるようで安心しました。アイーシャさんも安心ですね♪」
話を振られたアイーシャも、うんうんと頷く。
「そうですね。これで腕相撲で筋断裂と骨折をすることもなければ、剣を叩きつけて粉砕骨折することもなくなるわけです。よかったですねカルさん♪」
その言葉にアイーシャから目を背けるカルドラと、その内容に驚きカルドラを凝視するサニア。
「粉砕骨折って……。カルさん…貴方どれだけ無茶なことを…」
(サニアの視線がとても痛い。早く話題を変えなければ…)
「そういえばさ。魔法陣にこんな細かい仕掛けをしてくれてたのに、なんでおれはそれを知らされてないんだ? これ自分じゃ絶対に気づかないぞ?」
そう。こんな仕様があると知っていれば昔からもっと使い倒していたはずだ。知らないがために今までずっと、『魔力核から供給される魔力が魔法陣で制限され2割に。その少ないの魔力から魔法を発動するために魔法の出力が常人の3割』という状態に陥っていた。
それに対しサニアが答える。
「おそらくですがご両親には伝えてあると思います。ご両親の判断で隠されていたのではないかなぁと」
「あ…」
アイーシャから声が漏れる。それを聞いたサニアが何かを感じ取る。
「あの…、私なにかまずいこと言っちゃいましたか…?」
心配そうに確認するサニア。
カルドラはそれに手を振り否定し、納得した表情で話す。
「いや、大丈夫だよ。おかげで真相がわかった。おれの両親は6歳の時に死んでるんだ。きっと成長したら教えてくれるつもりだったんだろ。だからおれに情報が伝わらなかったんだ。」
しばし沈黙が流れ、サニアが謝罪する。
「ごめんなさい…。最初の魔法陣の時といい、今回といい、私の不注意で…」
「ん? 何言ってる。むしろそれは感謝してるところだぞ? それがなければおれは間違いなく近いうちに死んでたし、今のだってすぐに真相がわかった。謝ることじゃないよ」
カルドラが微笑みながら言うと、サニアも少し表情が柔らかくなる。
「…ありがとうございます。…カルさんってやさしいですよね」
「そうか?」
「はい。とても…」
そして2人で微笑みながらお茶を飲む。
それを見たアイーシャも微笑みお茶を飲み、皆の心の距離が少しずつ近くなるのをうれしく感じた。
次の日、カルドラは5層開放状態での身体強化を試していた。今までの2倍の魔力量から発動する身体強化の強化幅と持続時間を検証するためだ。
身体からぶわぁっと魔力が迸り、筋肉が膨張し、今まで以上に強化されるのがわかる。そのまま戦闘を想定した動きや素振りをしてみる。
筋力が強化され、ダッシュ力が上がっている。少し地面との摩擦を考えないと出足は逆に今までより遅くなってしまうかもしれない。しかしスピードに乗ってしまえば後は今までとは雲泥の差だ。はっきり言って捕まる気がしない。しかも身体強化の出力が上がっているので骨も関節も筋肉もダメージ無し。
文句のつけようがない大幅な戦力強化だった。
(あとはスタミナなんだが…。正直今まで魔力切れ起こしたことないから予想できないんだよな…)
そうなのだ。カルドラは今まで魔力切れを起こしたことがない。出力が低かった影響なのは間違いないのだが…、1つ気に掛かることがあった。
直近で一番魔力を使ったオーガ戦でのこと。身体強化全開状態で戦闘した直後にアイーシャとソラに全力で魔力を送った。総じてかなりの量の魔力を使ったはずだ。しかし数分もするとなぜか魔力が回復していた。
(何となくだが…、魔法陣が魔力タンクの役割をしてるような気がするんだよな…。そう考えるとおれの魔力のスタミナはかなりありそうな気がする…。いや、都合よく考えすぎか。魔法陣が無ければすぐ死ぬ障害持ちなのを忘れるな)
変な予想が頭を過ったがすぐに振り払い、スタミナの検証へ移行する。
するとその時…。
バキィィィィィィィ………ン……………!!!!!
「!? なんだ!?」
森の奥からとんでもない大音量で何かが割れる音が響き渡った。




