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双棍のトラベラー  作者: コルミ
信頼は積み重なるもので
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居候生活

 太陽が温かく照り、風がやさしくそよぐ。森を背に、草の絨毯に腰を下ろすと、眼前には畑が広がる。畑には小さな昆虫たちが飛び回り、それを狙い小鳥たちが集まる。

 その奥には森に似つかわしくない家があり、遠くに小さく見える窓の中には2人の女性が何やら作業している様子が見える。

 カルドラはそんな景色を、今まで感じたことのないほどのゆったりとした気持ちで眺めていた。


「穏やかだ、暇とも言う。何もやることがない」


 サニアの家に居候し始めて早3日。畑仕事の手伝いや家の掃除などをやったりしていたが、サニアが普段からきれいにしているのでほぼほぼやることがない。そのため暇になってからはこうしてまったり畑を眺める毎日である。

 しかし今日はそんなカルドラの元にお客さんが現れた。


がさ

「…」

「お? よぉ、どうしたんだ? おれに何か用か?」


 現れたのは森の主、アルティマウルフのジーク。

 ジークはカルドラと目が合うとゆっくり腰を下ろし、隣に寝そべった。


「昼寝に付き合ってくれるのか? 主様はやさしいな」


 そう言ってカルドラも寝そべる。

 ジークは体高1メートル半もある巨体である。一見すると凄まじい存在感だが、雰囲気自体はとても穏やかで、となりに寝ててもまったく恐怖を感じない。


「不思議なやつだなぁ…。ま、今日はのんびりしようぜ。ふあぁあぁあぁぁ…」


 そんな様子を窓から外を見たサニアが偶然目にする。


「あら? ジークが庭で寝てるなんて珍しい――ふふふ、カルさんに会いに来たみたいですね。だいぶ気に入られてるみたい」


 2人で寝そべる姿にほっこりするサニア。その言葉を聞き窓の外を確認するアイーシャ。


「わぁ、気持ちよさそうですねー。…でもサイズ差がすごい。ジークちゃんっておっきいですよね…」

「ふふ、ほんとはもっと大きいんですよ?」

「え??? どういうことです?」


 "ほんとはもっと大きい"、という言葉に疑問が止まらない。


「身体が大きく成長する動物の一部は"ミニマル"という魔法を自然に覚えるんです。それで自分の過ごしやすいサイズまで小さくなるみたい。ジークの場合はあの大きさが一番森を走りやすいんじゃないかと。本当の大きさは私も見たのは一度切りなんですけど、たしかあの3倍くらい大きかったと思います」

「へぇー…、そうなんですね…」


 その説明を聞き、再びカルドラとジークを見る。


(あの3倍…)


 自然界において人間とはちっぽけな存在なんだなぁ…と、しみじみ思うアイーシャだった。

 一方のサニアは複数の紙に書かれた文字の羅列と睨めっこしていた。それに気づき、アイーシャもまたそちらに集中する。


「それにしても…。本当にすごいですね…、この魔法陣…」

「えぇ…。私、おばあちゃんからいろいろ教わりましたけど、おばあちゃんがこんなとんでもないものを作り出していたなんて全く知りませんでした…」


 2人が見ているのはカルドラの中にある魔法陣を平面に複写したものである。

 サニアは再びカルドラの深部へ潜り、観ているものを複写できる魔法で魔法陣の情報自体はすべて紙へ書き出すことに成功していた。

 普通の平面的な魔法陣なら後は文字がどんな作用をしているかを調べるだけだったのだが…。今回の対象は立体物、しかも多層構造という非常に複雑なもの。それを平面に書き出しているため、文字の解読、立体への復元、他層への影響など、確認しなければならないことがとにかく多い。

 そして解析が終わったとしても、この複雑怪奇なものをサニアが正確に"組み上げられるのか"という最大の問題が立ちはだかる。


(ただでさえ展開が困難な球体魔法陣…。それを"5層"…。しかもそのすべてが互いに作用し合ってるから、一つ組み方を間違えただけで、おそらく崩壊する…)


 軽く親指を噛むサニア。


(できるの…? 私に…。この芸術品みたいな魔法陣の再現なんて…)


 まさに、今は亡き師匠からの挑戦状にも等しいものだった。しかもその送り主は"世界を救った"世界最高峰の魔導士だ。


(やるしかない。おそらく世界でこの魔法陣を再現できるのは、おばあちゃん…いえ、"師匠"の師事を受けた私だけ。できなければカルさんが死んでしまう)


 サニアは決意を新たに魔法陣へ挑む。


(………すごいなぁ)


 そんなサニアをささやかなサポートをしつつ眺めるアイーシャ。お茶を出したり、掠れた文字を復元したり…。多くはないが、できることは全てやりたかった。

 そしてサニアは紙を眺めながら、手のひらの上で小さな球体を組んでは崩壊させ、組んでは崩壊させを繰り返す。この3日間で文字の繋がりはだいぶ見えてきたらしく、今は1層目を崩壊させずに組み上げるにはどうすればいいか、をひたすら検証しているそうだ。


(魔法陣の勉強はいっぱいしたけど、サニアさんがやってることはすごく繊細で、私には絶対に真似できない…)


 魔法陣を組み上げる速さも正確さも、サニアは他の魔法使いたちを圧倒していた。おそらくそれは天賦の才と絶え間ぬ努力によって築き上げられた途方もない魔力制御能力によるもの。しかしそれを以てしても難しい球体魔法陣の展開。


(サニアさんのおばあちゃん、本当にすごい人だったんだなぁ…)


 サニアの向こう側に見える先代の森の魔導士の影。その影に挑み続けるサニアがすごくかっこよく見えた。


(がんばってサニアさん。きっとできるよ)


 今、アイーシャにできるとは少ない。でも精一杯の応援し続けようと心に誓う。

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