本気で集中します
思わぬと所で師匠でもある先代の森の魔導士の痕跡を発見し、サニアの心に動揺が広がる。
なぜこの人の中におばあちゃんの魔法陣が、なぜこれほどまでに複雑にする必要があったのか、様々な思いが駆け巡る。
「……あの、サニアさん…、大丈夫ですか…?」
そんなサニアの様子を心配し、アイーシャが声を掛ける。
はっとし、すぐに冷静さを取り戻す。
「ごめんなさい。ちょっと思いがけないものを見つけてしまいまして…。でも大丈夫、続けます」
そしてすぐに魔法陣に向き直る。
(ひとまずこの精巧さは置いておいて、魔法陣の状態を確認しないと)
全体を俯瞰して眺め、魔法陣の現在の状態を診る。
(…………! これは…、ちょっとまずい…ですね…)
サニアに緊張が走る。
魔法陣に刻まれている文字、そのところ所が掠れ、効力を発揮し切れていない。それどころか回転する文字の羅列が時々"ブレ"て全体を軋ませ、今にも空中分解してしまいそうだ。
さっきのカルドラの話が本当なら、これが崩壊してしまえば彼は死んでしまう…。
(文字の掠れは、今はどうしようもない。この"ブレ"を少しでも和らげないと…)
そしてカルドラに指示を出す。
「カルさん、少しの間本気で集中します。なるべく動かないようにしてください」
「え? わ、わかった」
その言葉に若干困惑しつつ、素直に従うカルドラ。
(なんだ? 思いがけないものを見つけたとか、本気で集中するとか、おれの魔法陣っていったい何なんだ??? おっと、おれも集中してじっとしていなければ…)
いろいろ出てくる疑問を頭の隅に追いやり、カルドラも集中し直す。
そして穏やかだったサニアの魔力が、さっきまでとは全く違う"質"に変化する。明らかに強く、周囲を刺すような荒々しさになったのだ。
しかし彼女はその魔力を全く乱すことなく整然と身体中に循環させ始める。まるで精密機械のようなとんでもない魔力制御能力だった。
「………すごい…」
それをみたアーシャの口から言葉が漏れる。神官として、仲間の神官たちの儀式や訓練もたくさん見てきた彼女だったが、サニアの"それ"は完全に別次元の領域だった。
そんなサニアは魔法陣と向き合う。
ブレの原因は文字の羅列を支える帯状の線の掠れ。数えきれないほどあるその掠れのうち、一番悪さをしていそうな箇所を全神経をかけて修復していく。
(…………、……………)
圧縮した強い魔力をさらに強い魔力で囲い込み、狙いを補正。その上でさらに圧縮して小さなメスのような、またはペンのような感覚で掠れた魔力の線に手を加える。
少しずつ、文字を改変しないように、線を千切らないように、乱回転する羅列軍の一点に集中し、修復。
そして…。
(………よし、これでどう?)
一部の修復を終え、魔法陣全体を俯瞰する。
まだブレはあるが、すぐに崩壊しそうだったさっきよりはだいぶマシにすることができていた。
(よかった。これならしばらくは大丈夫…)
一時凌ぎではあるが崩壊の危機を乗り切ることができほっとするサニア。
そして一旦、カルドラとの魔力の同期を解除した。
「………ふぅ」
目を開け、息をつく。極度の集中状態を維持したことで、サニアは汗だくになっていた。
そんな彼女を心配し、カルドラとアイーシャが声を掛ける。
「大丈夫ですか…? 汗すごいですよ…?」
「そんなに大変な作業だったのか…? 悪いことしたな…」
それに対し軽く首を横に振り、口を開く。
「いえ、心配させてすみませんでした。ちょっといろいろ予想外なことが多くて…。申し訳ないのですが、またテーブルに着いてもらってもよろしいですか? お茶を飲みながら話しましょう」
そう言ってサニアはキッチンへ向かう。
カルドラとアイーシャは顔を見合わせ、言われた通り椅子に腰かける。そしてお茶の入れてきたサニアも席についた。




