カルドラの中の魔法陣
「ごちそうさま。すごくおいしかったよ」
「しあわせですぅ…」
「ふふふ。お粗末様でした♪」
雑談しながらの穏やかな食事が終わり大満足の2人。
その2人を、これまた満足そうに眺めるサニア。
そして食休みもそこそこにサニアが食器を片付け始める。
「あ、手伝います!」
「おれも」
ここに招かれてから接待されっぱなしだ。少しでも厚意を返したい。
手伝おうと立ち上がると…。
「ありがとうございます。でもここのキッチン、たぶん3人入れないので…。どちらか1人にお願いできますか?」
「はい! 私やります! 掃除と片付けは得意です!」
サニアの説明に素早く反応したアイーシャが元気に動き出す。
掃除と片付けが得意らしい、自信満々だ。
「ふふ。じゃあアイーシャさん、一緒にがんばりましょ♪」
「おまかせです!」
取り残されたカルドラは少し周りを見渡し、テーブルに残されている食器を運び易いようにまとめ始める。
まとめながら空の食器を見ているとそこに盛り付けてあった料理が思い出され、自然と感想が漏れる。
「しかし、サニアは料理うまいんだな。干しキノコをあそこまでバリエーション豊かに料理出来るなんて…。普通に店だせるんじゃないか?」
「ほんとですよ。あぁ…思い出すと顔がにやけちゃう…」
アイーシャのぽやっとした顔がいつも以上にぽやぽやしている。しかし気持ちも分かる。出てくる料理の全てが今まで味わったことのないような絶品だったのだ。
キノコと干し肉のとろみのあるスープ、キノコと野菜の炒め物、その他いろいろ。そしてそれらを薬草やハーブなどで絶妙な香りに仕上げてくるのだ。その味を思い出すとカルドラの頬も緩む。
「ありがとうございます。料理は私の趣味なんです。昔、おばあちゃんに褒めてもらえるのがうれしくていろいろ作ってたらハマっちゃって…。でもさすがに本職の方には敵いませんよ? 私のは自己満足の範囲ですから」
謙遜するサニア。そしてアイーシャと2人でテキパキと食器を片付けていく。
食器をまとめ終え、できることが無くなってしまったカルドラはその光景を眺め、少し悪い気もしながら椅子に腰を下ろす。
するとサニアが思い出したかのように聞いてきた。
「そういえばカルさんの中に魔法陣があるみたいですが、それはどういったモノなんですか?」
「!」
カルドラは驚いた。そのような話は全くしなかったのに、彼女は彼の命を繋いでいる魔法陣の存在に気が付いたのだ。さすが魔導士といったところだろうか。
自分から言うことはないが、別に隠しているわけでもないので簡単に説明する。
「あぁ、これはおれが赤ん坊の頃に通りすがりの魔術士が仕込んでくれたモノらしいんだ。おれ魔力路に障害を持ってて、それで死にかけてた所を助けてもらったんだってさ」
「あ、ごめんなさい…。私ったら興味本位で…」
サニアがすぐに謝罪してくる。本当によくできた人だなぁと思いながら続ける。
「大丈夫だよ、気にしないでくれ。ちょっと魔法の出力で困ることはあるけど、それ以外は問題なく生きてられるんだ。元々は終わっていたはずの命をこうして引き延ばして貰えてる。その魔術士には感謝しかない」
「カルさん…」
神妙な面持ちになるサニア。そしてある提案をしてくる。
「お詫び…と言ってはなんですが、その魔法陣の今の状態を確認させて貰ってもいいですか? そこまで昔に組まれた物だとしたら、もしかしたら綻びが出ているかもしれません。魔法の出力でお困りのようですし、それが原因かも…。簡単な綻びなら私でも直せると思います」
「え? いいのか?」
「はい。組み上げてからの年数を考えるとちょっと気になりますし」
思いがけない話だった。今まで魔法の出力に関しては"そういうものだ"と考えていた。それが改善できるかもしれない。断る理由がない。
「ぜひお願いするよ。よろしく頼む」
「わかりました。片付けが終わったら視てみましょう」
そう言うとあっという間に片付けを終わらせるサニアとアイーシャ。
「お待たせしました」と言いながらテーブルまで歩いてくる。
「ではカルさん。そこに立ってください」
指示通りにテーブル横の少しスペースのある場所に立つと、サニアがカルドラの真正面に立つ。
(! 近くで見るとほんとに美人だなこの人…)
サニアは森でアイーシャが天使と見間違えるほどの美人だ。
そんな彼女がすぐ目の前に立ったことで少し緊張する。
「魔力を同期させますので、ちょっと手を失礼しますね」
そう言い、サニアがカルドラの両手をやさしく包む。
(………まずい、すごく緊張する…)
目の前に絶世の美女がいてしかも手を握られるという状況に、未だかつてないほど緊張するカルドラ。
そんなカルドラを余所に、サニアは目を瞑り、静かに集中している。魔力が操作しているのか、絹のような銀髪がほんの少しさわさわと揺れ、触れる手がほんのり光り、温かさが伝わる。
(……よし、考えるのをやめよう。無心だ)
カルドラは思考を捨て目を閉じた。
(うん、魔力の同期完了。このまま意識をカルさんの奥へ潜らせて行って…)
一方のサニアは静かに、カルドラの中にある魔法陣を目指し、意識を潜らせていく。
(……! 視えた。温かい光…、この魔法陣を組んだ人の想いがよく分かる)
遠くに温かい光を感じ、少しずつ近づくサニア。
そして魔法陣の全容が確認できるほどに近づいた時、驚きで額に汗が滲んだ。
(普通の魔法陣じゃない…。球形…、しかも何層にも重ねられて…、なんて複雑さ…)
その球形の魔法陣はカルドラの魔力核を中心に据え、表面には複雑な記号の列が所狭しと並び、あらゆる方向にくるくると、何層にも重ねられ乱回転していた。とてもじゃないが簡単に手を加えられるものではない。恐ろしいほどに精巧な代物だった。
しかしサニアはその精巧さ以外にも驚いたことがあった。
(この文字の形と繋げ方…。これ…! この魔法陣作ったの…おばあちゃんだ!)




