森の一軒家
しばらくサニアたちについていくと、さっきまでの森とは打って変わり拓けた場所に出た。
よく見ると一面薬草や野菜の畑が広がっていて、その中心に森に似つかわしくない一軒の家がある。
「さ、こちらです」
サニアが丁寧に案内してくれる。
畑の合間を歩いていくと、薬草の匂いや野菜の香りがそよ風に乗ってカルドラとアイーシャの鼻を擽る。家をよく見ると、その外壁にはコケやツタが張り、やさしく自然に溶け込んでいる印象を受ける。
そして畑を通り抜け家に到着。サニアがドアを開けるとこちらを見て…。
「どうぞ中へ」
そう言ってまた丁寧に案内してくれる。
(なんだろう。容姿といい、所作といい、性格といい、すべてが美しいぞ。この人は本当に人間なのか?)
まだ若干混乱しているカルドラは素直にサニアの案内に従う。
「そこのテーブルに着いて寛いでてください。ぱぱっと料理しちゃいますから」
「ありがとうございます! 失礼します!」
「……ありがとう」
椅子に座り、窓から外を見ると、ジークがすごい速さで森に走っていくのが見えた。
「なぁ。ジーク?が走ってったぞ?」
一応報告してみる。
「あぁ、大丈夫ですよ。元々滅多に人の前に出てこない子なんです。案内が終わったから帰ったんだと思います」
「…なるほど」
その人の前に現れない主様がなぜ自分たちの前に?という疑問が浮かぶが、それを聞こうとしたらアイーシャのポーチがもぞもぞ動き出す。
「…ピ?」
中で寝ていたソラが出てきた。
「あ、おはようソラちゃん。よく眠れた?」
「ピ♪」
ソラの頬を擽るアイーシャにスリスリ甘えている。すると…。
「ドラゴンですか? すごいですね」
サニアがソラを見て驚いている。そして何か納得したような顔をして話す。
「なるほど。だからジーク以外の子が貴方たちに近づかなかったんですね…」
「?」
顔を見合わせるカルドラとアイーシャ。
「なんの話だ?」
聞くと、少し申し訳なさそうな顔で答えてくれた。
「この森には、森の警護をしてくれている動物たちがいるんです。本来なら誰かが森に侵入した時点でその子たちが出口まで誘導するので、森で迷う人はほとんどいません。でも貴方たちはそのドラゴンを連れていた。ドラゴンは龍脈の化身、とても格の高い生き物なんです。普通の動物はドラゴンの気配を感じたら近づきません」
「……つまり?」
「警護の子たちはドラゴンの存在を恐れて、数日間道案内ができなかった。それを見かねてジークが私に知らせに来た、ということじゃないかと…」
「何という……」
「ピ?」
(小さい時からソラと家族のように過ごしてきたが…。確かにソラといる時、他の動物と会ったことがないかもしれない。会うのは決まってソラがふらっとどこかへ行っているとき…。森で最初に出会った鳥もどきですら、もしかしたらソラをドラゴンと認識したから引いた可能性があるってことか…)
カルドラがいろいろ考えていると、横で不思議そうな顔をしているソラの頬をアイーシャが撫でる。
「ピ♪」
「そういう事情なら仕方ないですよね。そもそも私たちが近道しようと森に入ったのが原因ですし」
「ピー♪」
その言葉と、ソラと戯れるアイーシャを見てサニアは微笑む。
「…あのジークが率先して貴方たちを助けようとした理由がよく分かります。きれいな心をお持ちですね」
どこかうれしそうなサニア。
しかしちょっと引っかかる言い方だったのでそれについて聞いてみる。
「あのジーク…っていうのは、どういう意味だ?」
「ジークは悪意に敏感なんです。あの子が滅多に人の前に現れないのそういう理由です。ちなみに私が貴方たちを家に招いたのはジークのお墨付きだったからですよ? もし他の警護の子たちからの知らせだったらそのまま出口へお帰り頂いてました」
「なるほど。いろいろ納得」
不思議に思っていたのだ。初対面の人物を普通に家に招き食事を振る舞うというのを。混乱する頭で罠の可能性も考えていたくらいだ。
「サニアさんって森の動物たちと家族みたいな関係なんですね。すごく素敵だと思います」
アイーシャが微笑みながら言う。
「ふふ、ありがとうございます。…えーと……」
「あ! 私はアイーシャといいます! よろしくお願いします!」
自己紹介をし忘れていたことに気づきすぐに自己紹介するアイーシャ。カルドラもそれに続く。
「おれはカルドラ。皆"カル"って呼ぶからそう呼んでくれ。今更だけど助けてくれてありがとう、サニア。」
「ありがとうございます!」
「よろしくお願いしますね、アイーシャさん、カルさん。道案内に関してはどうかお気になさらず。しばらく気づかなかったこちらの落ち度もありますので…。さ、そんなことより料理の1品目完成です! どうぞ召し上がれ♪」
そう言いつつ完成した料理を運んで来るサニア。
程よく効いた香辛料の香りを振り撒くその家庭味溢れる料理に、先ほどまで精神をすり減らしていた2人の心は一気に溶かされていくのであった。




