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双棍のトラベラー  作者: コルミ
旅は道連れ
3/82

決闘の儀(腕相撲)

「ちょっと待ったそこの神官! あんた意味ちゃんと分かってるか!?」

「ほえ?」


 カルドラの質問にぽやっとした顔で振り返る神官。きっと分かってない。


「あのな、そいつは…、ちょっと耳貸せ」

「はい?」


 神官に耳打ちで意味を教えてやる。するとみるみる顔が赤くなっていく。


「な、ななななななななな」


 真っ赤になってしゃべることもできなくなってしまった。


「おい小僧、邪魔すんじゃねぇよ」


 当然のように男が突っかかってきた。いや、突っかかったのはカルドラか?

 しかしそんなことはもはやどうでもいい。


「まったく、おれはさっきまであんたを応援してたんだぜ? あのステーキはおれでも怒るからな。でもさっきの要求は行き過ぎだ。だから介入させてもらう」


 おー、やら、パチパチパチ、やら、酒場中が盛り上がり始める。


「ふん。で、おまえはどうする気なんだ? おまえが弁償してくれるのか?」

「いや、おれは第三者…。さっきみたいな要求をするくらいだ。おれが金払ってもあんた納得しないだろ?」

「当然だ。おれとこいつの問題だからな」


 男が神官を見ながら答える。神官はまだ真っ赤だ。

 ふぅ…と息を吐き、カルドラは近くの客に尋ねる。


「なぁ、このステーキっていくらだ?」

「え? たしか…銅貨10枚だったかな」

「なるほど。じゃあこの銀貨1枚を…ここに置く」


 カルドラは自分の銀貨を1枚取り出しテーブルの上に置いた。

 ちなみに銀貨1枚は銅貨100枚と同じ価値、ステーキ10皿分だ。


「? なんのつもりだ?」


 男が眉を顰める。そんな男にカルドラが答える。


「この銀貨を賭けてあんたに"腕相撲"を挑む!」

「腕相撲だと!? 本気か!?」

「本気だ。むしろ"こういう"揉め事でやってこそだろ? そして、おれが勝ったら弁償の件は水に流してもらう」


 腕相撲。それは古代から続くとされる由緒正しい決闘の儀だ。互いに神官の前で賭けるモノを宣言し合い、勝った者は相手が賭けたものを受け取ることができる。腕相撲での決着は神に捧げられた結果として、如何なる理由であっても覆すことは許されない。


「くくく、いいのか? その細腕でおれに勝てるとでも?」

「難しいだろうな。でも不可能じゃない。あんた見たところ冒険者(アドベンチャラー)だろ? おれみたいなただのトラベラーに負けて恥ずかしい思いをしたくなかったら全力で来るんだな」


 カルドラの挑発に、ぶちっと聞こえそうなほど男の血管が浮き出た。


「いいだろう! その腕へし折ってやるから覚悟しろよ!?」


 その瞬間、酒場中から歓声が上がった。


「うおーがんばれ兄ちゃん!」

「おい冒険者! トラベラーなんかに負けんな!」

「女の敵を潰せ!」

「ここに丁度いい樽があるぜ! 今そっちに持って行ってやる!」


 酒場はもはやお祭り会場だ。盛り上がった客たちがあっという間に腕相撲の舞台を用意してくれた。

 そしてここでやっと、固まっていた神官が動き始める。


「ちょ、ちょっと貴方! 何考えてるんですか! あんなゴツイ人に勝てるわけないじゃないですか! まだ間に合います! やめてください!」


 神官のゴツイ発言でさらに男の血管が浮き出た。

(かわいそうに…)


「あのな。そもそもあんたが一文無しで酒場にくるのが問題なんだからな? その辺わかってるか?」

「あー、えーと…。少ーし何か分けて貰えないかなーという一縷の望みがあったと言いますかなんというか…」


 もごもごと言い訳をする神官。はぁ…とため息をつき右手で頭を抱えるカルドラ。


「このままじゃあんたはあれの玩具だぞ? いいのか?」

「それはちょっとご遠慮させていただきたい感じではあるんですけどぉ…」


 もじもじする神官。

(やれやれ)


「ならおれにまかせろ。勝ってみせる。見届け人役頼むぞ。神官なんだから丁度いいだろ」

「え? あ、はい」


 ぽけっとしている神官をおいて樽の前に立つ。樽の向こうには気合が入りまくった男が待っていた。


「小僧、おれは"身体強化"が使える。全力で来いと言ったのはお前だ。遠慮なく使わせてもらうぜ!」


 そう言うと、男の身体からぶわぁっと魔力が迸り、筋肉がぐぐっ膨張する。

 身体強化とは、その名の通り身体を強化する魔法である。皮膚を硬く、筋肉を強く、骨を頑丈にすることができる。近接戦闘職御用達の便利な魔法だ。


「たぶん使えるだろうとは思ってたよ。でもその強化幅は予想外だ、やるねあんた。じゃ、おれも使わせてもらう」


 そう言うとカルドラも身体強化を発動。身体からシュバァと魔力が迸り、筋肉が膨張する。

 それを見た男の表情が引き締まる。


「ふん、おれに挑んでくるだけはあるってことか。おい神官! さっさと始めろ!」

「は、はい!」


 呼ばれた神官は、てててーっと2人の間に立ち、神への言葉を紡ぐ。


「今、決闘の儀の執行が認可されました。神官アイーシャの名において、決闘者の(めい)を受諾します。さぁ決闘者よ、(めい)を捧げなさい」


 さっきまでとは別人のような雰囲気で言葉を発する神官。彼女の名前はアイーシャというらしい。

 まぁ今はそれは置いておくとして、"(めい)を捧げる"とは"賭けるモノを宣言せよ"、という意味だ。


「おれは銀貨1枚を賭ける」

「おれは弁償の件を水に流すことを賭ける」


 互いに賭けるモノを宣言し、神官が受ける。


「受諾されました。決闘者たちよ、構えなさい」


 そしてカルドラと男が樽に肘をつき、手を組む。

 視線が交差し、緊張が高まる。そして…。


「はじめなさい!!!」


 決闘の儀(腕相撲)が始まった。

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