思い掛けない窮地
アルスたちと別れ旅立ったカルドラとアイーシャ。
そよ風を感じながら街道を歩き、見つけた小さな川で魚釣りを満喫。
さらに街道を歩き、ちょっとした高台から周辺の景色を楽しむ。
気の荒い動物や凶暴な魔物に遭遇することもなく、順調に街道を進む。
そんなこんなで4日間歩き続け、2人は前の町より大きい街に到着した。
「わー! 着きましたねカルさん!」
「おー! 着いたなアイーシャ!」
「ピー!」
カルドラの頭の上の小さな白いドラゴン、ソラも元気に声を上げる。
しかし声を上げるとすぐにパタパタとどこかへ飛んで行ってしまった。彼はとても自由だ。
その後ろ姿を2人で見送る。
(…まぁそのうち戻って来るだろ)
気を取り直して2人は街での行動について話し合う。
「さてと、まずは宿の確保と物資の調達だな。どっちから行く?」
「あ、それなら二手に分かれましょう! さっさと用事を済ませておいしいもの巡りしましょう!」
カルドラの質問に速やかに返答するアイーシャ。よく突拍子もない行動を取るが、彼女は基本的に頭は良い。
「うん、じゃあ宿の確保任せていいか? おれは物資を集めつつ特産品とか聞いてみるよ。そうだな…、アルスの話だとこの街にもギルドの支部があるはずだから、そこで落ち合おう」
「了解です! 任せてください! そちらもお願いします!」
役割分担が完了し、カルドラとアイーシャは二手に分かれた。
「さてさて~、宿はどこですかね~? あ、発見! 幸先ばっちりじゃないですかぁ♪」
カルドラと別れてからさっそく宿を見つけるアイーシャ。部屋を確保すべく突入する。
「こんにちはー。部屋は空いてますか?」
「あーいらっしゃい。空いてるよ。すぐ入るかい?」
「あ、ギルドに行かないといけないので…。確保だけしてもらっていいですか? お金はお支払いしていきますので」
「わかったよ、行っといで。銀貨1枚ね」
「あれ? 安いんですね! 助かります!」
「ん? そうかい? 普通だと思うけど…。まぁ喜んでもらえるなら良かったよ」
「わーい♪ じゃまた来ますね! 行ってきます!」
「気を付けるんだよー」
と、このようなやり取りをしてアイーシャはギルドへ向かう。
途中、宿でギルドの場所を聞けばよかった、と反省するも、実はそれ以上の失敗をしていることにアイーシャはまだ気づいていない…。
「さてと…、物資調達なら…とりあえず雑貨屋かな。お、あそこにあるな。お邪魔させてもらいましょうかね」
アイーシャと別れたカルドラもさっそく目当ての店を発見。物資を確保すべく突入する。
「こんにちはー。ちょっと見せて貰うよ」
「おーいらっしゃい。ゆっくり見ていきな」
カルドラが店に入ると体格の良い店主が快く迎えてくれる。
(雰囲気良いね。この店は"当たり"かもしれん)
店主の雰囲気から人の良さを感じ取り、期待に胸が膨らむ。
そしてゆっくり歩きながら商品を物色していると珍しいものを見つける。
「へ~、ポーションか。珍しいもの置いてるんですね」
ポーションとは滋養強壮に効く飲み物である。その大部分は王都で生産され、その他の地域では生産者が少ないため滅多にお目にかかれない。
ちなみにメイがガブ飲みしていた"マナポーション"は生産流通を王都が完全に管理しており、一般では手に入らない超貴重品である。
「おう。あんた運が良いぞ。それは"森の魔導士様"が納品してくれてる品でな。いつもあっという間に売り切れちまうんだ。たぶん今日の午後には無くなってるだろうな」
「森の魔導士様?」
気になったので聞いてみた。
「あぁ。この街のとなりの広大な森に住んでる魔導士だよ。しっかりとした良い子でな。この街じゃ有名人さ」
「? その言い方だとかなり若いんですか?」
「あぁ若いな。たぶんお前さんと同じくらいじゃないか? ま、今の魔導士様は2代目で、前の魔導士様は婆さんだったけどな。いろいろ伝説が残ってるぜ」
くくく、と笑いながら教えてくれる店主。前の魔導士様はだいぶ暴れていたようだ…。
「なるほど。じゃ、せっかくだから2本貰っていきますか。あとは…、これとこれとこれとこれと…」
とりあえずポーションを2本持ち、その他物資も確保した。
その後カルドラとアイーシャはギルドで合流。そのまま街へおいしいもの巡りへ繰り出す。
街の特産品を見て食べて、通りの屋台も食べ歩き、存分に街を満喫した。
その途中でも何回か"森の魔導士"の噂を耳にし、本当に有名人なんだなぁ、という感想を胸に、2人はアイーシャが確保した宿へ向かった。しかし…。
「アイーシャさん…? どういうことですか…?」
「ははははは……。ごめんなさい…」
2人は1人用の小さな部屋にいた。
そう。アイーシャは泊まる人数を伝えていなかったのだ。しかも宿に戻ったときには確保した一部屋以外は埋まってしまっていて、仕方なく2人で一部屋を使うことになってしまった。
「……………」
「……………」
微妙な沈黙が空間を支配する。
眼前に広がるのは小さなベッド1つと簡易テーブル1つという、まさに1人専用の部屋。この空間に男女が2人で泊まるのはさすがに気まずい。
(さすがのアイーシャもかなり緊張してるな…。これじゃ気が休まらん)
ちらっとアイーシャを見ると冷汗をだらだら掻いていて、このままでは胃に穴が開いてしまうのではないかと心配になる。
「…ふぅ、仕方ない」
そう言って部屋を出ようとするカルドラ。
「? どこいくんですか?」
アイーシャが聞くとカルドラは頬を掻ながら答える。
「さすがにこの空間に男女2人はまずいだろ。おれは街周辺で野宿してくるから、ここはアイーシャが使ってくれ」
そう言ってドアに手を掛ける。
「ま、待ってください!」
「ぅお!?」
アイーシャが手を引っ張ってきた。
「どうした?」
「……と、泊ま、泊まりましょう。ふ、2人で…」
明らかに動揺した目と声で提案してくるアイーシャ。
「声と手が震えまくってるぞ? 無理するな」
「だ! 大丈夫です! こ、これは武者震いみたいな、そ、そんな感じです!」
(お前は何と戦うつもりだ…)
アイーシャの混乱した言い回しに心の中で突っ込みを入れると、アイーシャが止めの一言を放つ。
「わ、私、カルさんのこと信じてますから!」
「ぅ……」
そこまで言われると出ていくのも彼女を傷つける気がしてくる。
ふぅ…とため息をつき、覚悟を決めた。
「わかった、残るよ。ただし、おれは床で寝るぞ?」
「そ、それも許しません!」
「はい!???」
意味不明な主張をするアイーシャに困惑するカルドラ。
「わ、私は神官です! 神官が人より良い場所を使うのは…、な、なんか違う気がします!」
「おまえ…」
おそらくこうなったアイーシャは絶対に折れない。今までの付き合いでその確信があった。
はぁぁ…とさらに深いため息をつき、さらに深い覚悟を決めた。
「わかったよ。この窮地、2人で乗り越えよう」
「は、はい!」




