戦友と飲む酒はうまい
夜の町。昼間の喧騒とは打って変わり、静かな空気が漂う。
しかし酒場周りだけは例外で、昼間、仕事に精を出した者たちが、酒に飲まれわいわい騒ぐ。
そんな酒場の一画で静かに酒を飲みながら話をする3人の若者。その中の1人が金貨の入った小袋をテーブルに出す。
「カル、これが今回の報酬だ。受け取ってくれ」
「ありがとう…って、こんなに!? 聞いてた金額よりかなり多くないか!?」
小袋の中身を見て、おそらく3倍以上に増えているであろう報酬に驚くカルドラ。
アルスがそれについて補足する。
「今回の仕事は明らかに当初の想定難易度を超えていたからね。本当ならそれのさらに2倍は渡したかったんだけど、ギルドの経理がごねてその金額になってしまった。ギルドマスターから頭を下げられたのは初めてだったよ。彼も大変だね」
どうやらアルスがいろいろ手を回してくれていたらしい。ギルドでどんなやり取りがあったかはわからないが、ギルドマスターがストレスの多い役職だというのはわかった。
「金じゃねぇけど、魔石なら近いうちに大量に手に入るぞ。昨日放置してきた魔石はギルドが"魔石拾いの依頼"として貼り出して、周辺調査のついでに回収してくれてる。明日辺りに俺らのところに回ってくるだろうから、その5分の2をカルたちに渡す。それも合わせればしばらく金には困らねぇだろ」
ダンテが酒を煽りながら説明してくれる。確かにあの大量の魔石があればかなり懐は温かくなる。素直にうれしい。
しかしさっき気になる言葉が聞こえた。それについて聞いてみる。
「周辺調査…ってことは…、やっぱりあの辺、何かあるのか?」
「まだわからない。僕は最初、あの近くにダンジョンが生まれていて、そこから大量のオークが湧き出してきたのでは、と考えていたが、今日の先遣隊の報告ではそのようなものは無かったらしい。つまりあれは淀んだ魔力から自然発生した魔物、ということになる。しかしあの量だ。そこまで大量の淀んだ魔力が集まるとも考え難い」
言いながらアルスは目を瞑り、静かに酒に口を付ける。
「つまり原因不明ってことか…」
カルドラも少し酒を口に含む。
(おれもダンジョンの線を考えてたけど、それが無いんじゃ本当に意味がわからんな)
ダンジョン。それはこの世界では魔物同様、淀んだ魔力の集まる場所で自然発生する。
魔力の淀み方に応じた性質の空間を生成し、その内部では大量の魔石と魔物が生まれる。ダンジョンで生まれた魔物は普通外には出ないが、稀にダンジョン内に収まり切れない量が生まれ、外に溢れ出してくるのだ。
しかしその場合でも群れを作るのは5~6体、そして各群れが別々に行動するため、今回のような大きさの群れになることはない。
ダンジョンの有無に関わらず、今回の件は異常なのだ。
「ま、あとはギルドに任せようぜ。俺らが考えてもどうにもなんねぇよ」
「そうだね。切り替えも大事だ」
そう言って2人は同時に酒を煽る。カルドラも真似して酒を煽る。
「ふふふ。しかし、君たちには本当に驚かされたよ。カルは1人でどこかへ行ったかと思えば親玉と戦闘、アイーシャは1人でグレーターヒールを使う。本当に"一介のトラベラー"なのかい?」
アルスが心底楽しそうに話す。
(本当にスパッと切り替えやがった。すごいな)
アルスの切り替えの早さに驚きつつ、カルドラが話す。
「アイーシャの"思い切りの良さ"はおれも怖いんだけどな。それに何回か助けられてる身としてはあまり強くも言えん…」
「メイがあんなに慌てふためくのは初めて見たよ。ふふふ」
アルスに聞いた話だと、メイはアイーシャが魔法陣を組み上げている途中で、複数人使用前提の大魔法を使おうとしているのに気づき、止めようと声をあげた瞬間に魔法が発動。直後アイーシャが倒れたため、悲鳴をあげてマナポーションをアイーシャの口に流し込んだのだという。
(メイには改めて謝罪した方がいいかもしれない…)
そう思っていると話の矛先がカルドラに向く。
「カルよ。他人事みたいに言ってるが、おまえも人の事言えねぇからな?」
「んぐっ!」
酒を少し吹き出してしまった。
「オークに限らず、普通あの大量の魔物の中に飛び込んだらあっという間に袋叩きだ。防壁の外へ出てくのを見てどんだけ心配したと思ってやがる」
「申し訳ございません…」
素直に謝っておく。
しかしダンテが心配という言葉を使ったのが少し意外に感じた。ぶっきらぼうで事務的だと思っていたが、実は熱い男なのかもしれない。そう思った。
「そうだよね。いくら見切りがうまいと言っても、あの大群の中を駆け回り、片足の腱を断っていく…、はっきり言ってバカのやることだ」
「ぐぐっ…!」
ボロボロに言われるが何も言い返せない。だってその通りだから。
ふふふ、と笑いながらアルスが続ける。
「でも、そのおかげで僕たちは今、こうして酒を飲み交わせている。そのバカのやることを生きて遂行し切った君のお手柄だよ」
「…そうだな。おまえの功績だ」
「アルス…、ダンテ…」
一転して褒められ、少し困惑しつつ、心が温かくなる。
そしてアルスはまた軽く酒に口を付け、カルドラの目を見て話し始めた。
「カル。提案があるんだが聞いてくれるか」
「? どうした? 改まって…」
不思議に思って聞き返すカルドラに、アルスは真剣な口調で切り出した。
「僕たちと一緒に来ないか?」




