戦いの終わりは緩やかに
「アークフレイム!」
ボアアアアアアア
「「「ピギ、ピギィィィ!」」」
草原側のオークがだいたい片付いてきたため、メイは魔法の出力を落としていた。いくらマナポーションで魔力を回復できるとはいえ、魔法使用による疲労は蓄積するのだ。そしてここまで数を減らせば、後は省エネでじっくり対応できる。
「……はぁ……はぁ…、さすがに…、きついわね…、でも…もう少し…! アークフレイム!」
ボアアアアアアア
「「「ピギィィ、ピギィィィ!」」」
じっくり焼かれていくオークを眺めつつ、ちらっとアイーシャを見る。
彼女はずっと静かに集中して防壁を維持し続けている。
(戦闘が始まってからずっとこの大規模の防壁を維持してる。魔力…大丈夫かしら)
防御魔法は専門外なので詳しくは知らないが、すごく大変なことをしているのは分かる。一応声を掛けた方がいいかもしれない。
「ねぇアイーシャ? 貴方魔力は大丈夫なの?」
「…………………」
返事がない。すごい集中力だ。だがそれでは尚の事心配になる。
「ピー!」
「あ、白いの」
白いのがアイーシャの頭に乗り、そして魔力を流し始めた。
「…なるほど? 心配するなって言いたいわけね。じゃあわたしはこっちに集中させてもらうわ。アークフレイム!」
ボアアアアアアア
「「「ピギュィィ、ピギィィィィ!」」」
「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! 終わったか…?」
ダンテは魔石が所狭しと散らばる空間を見渡す。
防壁内のオークはすべて片付けた。後方のメイも魔法のペースを落としている。後は外で変な動きをしている動きの鈍いオークを1匹ずつ処理していくだけだ。
「アルスは……、どうなった……」
遠くを見るが大きなオークの姿はない。無事に倒したようだ。
「…ふぅ! よし、防壁周りの残りを早く片付けちまおう。そうすれば防壁を解除できる」
そして疲れた身体に鞭を打ち、ダンテは防壁の外周を走る。
それから数分後、ダンテとメイが防壁周りのオークを一掃し、アイーシャはプロテクションを解除した。
「……はぁ………はぁ………」
プロテクションを解除した途端に凄まじい疲労感に襲われるアイーシャ。魔力も残りわずか、何より長時間の集中で精神疲労も蓄積していた。
「お疲れ様アイーシャ。このマナポーション飲んで。疲労はどうにもならないけど、魔力が回復すれば少しはマシになるわ」
「あ…ありがとうございます…」
メイからマナポーションを受け取り、一気に飲み干す。
「……んぐっ、ぷはっ。…あの、みなさんは…?」
「……飲むの早…。あ、皆ね? ダンテは森側のオークの残りを片付けに。あとの2人は…、ダンテに聞いた話になるけど、カルは戦闘が始まって早々に防壁の外に飛び出してオークたちを引っ掻き回してたみたい。しばらくたった後にアルスがカルを加勢しに防壁外に走ってったらしいわよ。2人とも安否確認はできてないから、まだ安心はできないわね」
「…そうですか」
アイーシャは考える。カルドラがそういう行動を取る時はきっと怪我をして帰って来る…と。ならば準備はしておいた方がいい…と。
「メイさん。マナポーション、あと何本持ってます?」
「ふんっ」
ザン
「ピギャ!」
ダンテは片足の腱を切られたオークを黙々と処理し続け、やっと粗方片付いた。
途中でカルドラを背負ったアルスに会った。しかしカルドラが重傷、アルスもかなり無理をして歩行するのがやっと。これ以上の戦闘は難しいため、後処理の全てをダンテが行なった。
最後に周りを見渡してみる。
「……魔石だらけだな。回収しきれねぇよ…」
デカ物の魔石だけはアルスが回収したようなので、残りはギルドに頼んで、"魔石回収依頼"みたいな形で対応した方がいいのかもしれない。
「…しっかし、すげぇ数だったな」
どかっと腰を下ろす。
「魔物は淀んだ魔力から生まれる…、どこでも自然発生する可能性はある…、小動物サイズの小物以外群れることはほとんどない…、たとえ群れても通常は5~6体…」
つらつらと魔物の知識を思い出し、並べていく。
「今回が特殊な例だったってのは疑いようはねぇが、あまりにも…、だよなぁ」
なにか、自分たちの知らないところでおかしなことが起こっているのでは…。
そんな予感をしてしまうダンテだった。
カルドラを背負って後方へ歩き続けたアルスは、やっとの思いでメイとアイーシャのところへ到着した。
「メイ! アイーシャ! 無事かい!?」
「わたしたちは無事よ。アルスたちは?」
お互いの安否を確認し合い、アルスが緊急事項を伝える。
「カルが重傷だ。応急処置的に回復魔法は掛けたが、おそらくそんなんじゃ回復しきれないダメージを受けてる。アイーシャ、魔力は大丈夫かい? 大丈夫ならすぐに彼を――」
「安心してくださいアルスさん。きっと怪我して帰ってくると予想して準備はばっちりです!」
「…え?」
自信満々のアイーシャに少し困惑するアルス。メイを見るが、彼女も困惑しているようだ。
「アルスさん。カルさんをそこに寝かせてください。ついでなのでアルスさんも寝てください」
「え? 僕も?」
「怪我を隠してるのなんてすぐわかるんですから早く寝てください」
「…はい」
押しの強いアイーシャに負け、カルドラと並んで寝転がるアルス。その珍しい光景にメイが少し笑っている。
「ではいきますよ!」
そう言うとアイーシャは、2人の下に彼らがすっぽり収まるほど大きな魔法陣を展開する。魔力の線からはズバァーと光が立ち上り、しかし光自体はふんわりやさしい。そんな不思議な魔法陣をどんどん組み上げていく。
アイーシャの頭の上には諦めた顔のソラが乗っており、アイーシャに魔力を送っている。
そんな光景を、ん?という表情で見ていたメイが、突然驚愕の表情を浮かべ叫び出す。
「ちょっとアイーシャ!!! これってまさか!!!」
叫ぶと同時に魔法陣は完成し、アイーシャが魔法名を紡ぐ。
「グレーターヒール!」
アイーシャの意識は途切れた。




