見物するカルドラ
(なんだ? トラブルか?)
ちょっと気になり、遠くから見物するカルドラ。
見ると、体格のいい男と、おそらく神官であろう女が揉めているようだ。
「やっと来たおれのステーキをひっくり返しやがって! どうしてくれる!」
「えーとえーとぉ…ワザとではなくてですねぇ。ちょーっと服がお皿に引っかかっちゃったーみたいな感じでしてそのぉ……。許してくれません?」
どうやら神官が男のステーキを床にぶちまけたらしい。床を見ると切り分けられた立派なステーキが散乱していた。
(あー、あれは同情するわ。あんな立派なステーキひっくり返されたんじゃおれだって怒る)
男に同情しつつ2人のやり取りを楽しむカルドラ。
「許さねえよバカヤロー! この落ちたステーキ口にねじ込んでやろうか!?」
「え!? いただけるんですか!?」
「は!?」
(なんだって???)
神官の言葉に男とカルドラが同時に驚く。
「いやー実は今一文無しでしてー。今日のご飯どうしようかと思ってたんですよー。すごくうれしいです! ありがとうございます!」
そう言いつつ床のステーキを意気揚々とお皿に盛りつけていく神官。そのあまりの神官らしからぬ行動に、男も周りの客も絶句している。
(まじかあの女…。まじであれを食う気なのか…)
カルドラも、何か見てはいけないものを見ているような不思議な気分になってくる。そしてステーキ盛り付け終わるとそのまま帰ろうとする神官。
「ありがとうございます! 貴方は私の救世主です! ではさようなら!」
「………あ! いやいやいやちょっと待ててめぇ!!!」
呆然としていた男が思考を取り戻し、神官に詰め寄る。
「あ…、やっぱり返してほしいですよね…。そうですよね…。はいどうぞ」
「そうじゃねぇよ! 弁償しろ弁償! 金を寄こせ!」
男が頭を抱えながら叫ぶ。
(…がんばれ、そいつは手ごわいぞ)
だんだん男を応援したくなってきたカルドラが心の中でエールを送る。
「弁償…ですか。さっきも言いましたが私は今無一文なのです。なにか別の方法で償うことはできませんか?」
「なんで金のねぇやつが酒場にいるんだよ…。まじで何なんだてめぇは…」
もはや怒鳴る気力もなくなってきた男。そして、別の方法ねぇ…と神官をじーっと眺めていると、ふと思い立ったかのようにニヤッと笑う。
「別の方法、あるぜ」
「ほんとですか!? どうすればいいですか!?」
(あー、なんか嫌な予感…)
カルドラがしかめっ面をしていると、周りの客も同じ顔をしているのに気づいた。
(なんだこの一体感、新鮮。いやいやいやそうじゃなくて)
カルドラが1人突っ込みをしていると男が口を開いた。
「一晩おれに付き合え」
(やっぱりなーベッタベタじゃねぇか)
カルドラがため息をつくと、周りの客もため息をついている。
何とも言えない一体感に言葉が出ない。
「? 一晩付き合えばいいんですか? いいですけど、夜に特別な用事があるんですか?」
そして首を傾げる神官。意味をよく分かっていないようだ。
「あぁ。夜におれの手伝いをしてくれればこの件はチャラにしてやるよ」
「わかりました! とりあえず手伝えば良いんですね! がんばります!」
そうして神官を酒場から連れ出そうとする男。
(くそ! せっかく応援してたのに、意味の分かってない女にその要求は最悪だ!)
居ても立ってもいられずカルドラは飛び出した。




