お話はまた今度
兵舎へ向かうアルスたち。
アルスは内心わくわくしていた。魔物の状態、そしてここまでで聞いた話、おぼろげながら浮かんできた人物像の答え合わせを早くしたかった。
願わくば軽く手合わせもしてみたい。オーガ相手に生き残りつつあの見事な傷跡を残していく腕前だ。きっと心躍る試合になる。
そんなことを考えていると後方から声が掛かる。
「ねー…。わたし先に宿に行ってきていい? はやく浴場を探したい…」
いつも元気なメイが少ししょぼしょぼになっていた。余程汗を流したいのだろう。
町には着いたのだ。これ以上付き合わせるのは酷な気がしてきた。
「いいよ。行っておいで。この町にはギルドの支部があったはずだから、そこで落ち合おう」
「ぃいやっほーう!!! さすがアルス! 話がわかる! じゃまたねー!」
そう言ってすごい速さで町に消えていくメイ。
やれやれと思いつつ微笑みながらそれを見送り、ダンテにも一応声を掛ける。
「ダンテはいいのかい? 酒場に行ってきてもいいよ?」
いつも町に着くと酒場に直行する男だ。今回もそうなのかと思ったら、ダンテは意外な返答をする。
「いや、おれも報告者に興味がある。一緒に行くよ」
「へぇ、珍しいね」
たまにはな、と言い兵舎を見据えるダンテ。傷跡のインパクトが相当強かったと見える。
ふふふ、と笑いつつ、2人で兵舎に入る。入口の兵士に軽く事情を説明するとすんなり報告者のところへ案内してくれた。
「この部屋で寝てる。静かにな」
「ありがとうございます」
案内してくれた兵士にお礼を言い、いざ部屋の扉を開ける。
そこにはベッドで眠る青年と彼に寄り添う白い塊、そしてそれを見守る神官の女性が座っていた。
「……!」
部屋に入ると神官の女性がこちらに気づく。すぐに自己紹介するアルス。
「失礼します、神官様。我々は騎士団の特殊部隊の者です。オーガの魔物の目撃報告をしたという人物に興味があり、ここへ参りました。彼が…?」
寝ている青年に視線を向け尋ねる。
「あ、敬語は結構ですよ? 私は下っ端神官で、しかも追放されてる身なので。どうか畏まらないでください」
「………なるほど???」
追放…という言葉が聞こえた気がするが、あまり突っ込まない方がいいだろうと考える。
そして神官が続ける。
「オーガの報告をしたのは彼で間違いありません。……でも今はこの通り眠っています。私も仲間として彼の戦いを近くで見ていましたので、彼の心労は痛いほどわかります。ですので、どうか自然に目覚めるまでこのまま……」
「………」
苦しそうな表情で語る神官。余程の死線を潜ったのだろうと想像する。今は素直に引いた方がいいだろう。
「…わかった。じゃあ失礼するね。彼が目覚めたらぜひ伝えてほしい。"騎士のアルス"が話をしたいってね。僕らはしばらくこの町に滞在する。たぶんギルドに来てもらえれば会えると思う。…ではこれにて」
「わかりました。伝えておきますね」
そうして部屋を出て、兵舎を後にする。
「…若かったな」
「そうだね。あそこまで若いとは思ってなかった」
2人で報告者を見た感想を共有する。
アルスは頭の中で、20代半ばから30代半ばくらいの人物だろうと想像していた。しかし居たのはどう見ても10代後半の青年。
「もしあの若さであの傷をやったのだとしたら、おそらくお前レベルの天才だぞ、アルス」
「……ダンテ、僕は自分を天才だと思ったことは一度もないよ。それに君だってそこまで歳は変わらないだろ?」
「おれはただ力が強いだけの凡人だよ」
「よく言うよ」
そのような会話をしつつ、2人はギルドへ向かう。




