命のリレー
バキィィィンッ
「!???」
カルドラは後方から響いた轟音に驚く。どさっとオーガの棍棒が転がるのをみて、戦慄する。
(棍棒を投げてきたのか…!)
そしてそれを防いだであろうアイーシャのプロテクションが静かに消えた。飛んで来る棍棒に気づき、力を振り絞り、防壁を展開してくれたのだろう。
「アイーシャ…、ありがとう…。たすか――」
どさっ
アイーシャが倒れた。
「!!! アイーシャ!」
ぴくりとも動かない。
(さっき魔力欠乏の症状が出てた…! そんな状態で魔法なんか使ったら…!)
死、という文字が頭を過る。
「だめだ! アイーシャ! しっかりしろ!」
折れた両腕の痛みを無視し、アイーシャを抱き起す。
「アイーシャ!」
「……………、……………、……………」
……わずかだが呼吸している。生きている。
そしてアイーシャの手に抱かれたソラが魔力を送っているのに気づいた。
「ソラ…おまえ…!」
自分も限界が近いだろうに、それでもアイーシャに魔力を送り続けていたのだ。そのおかげでアイーシャは死なずに済んだ。
(でも、死の縁にいることには変わりない。2人におれの魔力を…!)
そしてカルドラは今送れる有りっ丈の魔力をアイーシャとソラに送った。命綱の魔法陣で制限を受けているため少量しか送れないが、それでも何もしないより遥かにマシだ。
「………ん…」
「アイーシャ…」
ほんの少し、顔色が良くなった気がする。このまま魔力を送り続ければきっとアイーシャもソラも目を覚ます。
「がああああああああ!!!」
遠くでオーガがもぞもぞ藻掻いている。両足の腱を切断されて動けないため、這ってこちらに近づいてきているようだ。
「…! なんてしつこいやつだ!」
このまま少しずつでも2人に魔力を送りたいが、ここでじっとしていてはオーガに追いつかれる。歩きながら魔力を送るなんて器用なことはカルドラにはできない。今は2人の生命力を信じて移動するしかない。
ソラをうまく頭に乗せ、両腕の痛みは無視しアイーシャを背負う。
「…よし、いくぞ」
そうしてカルドラは街道を歩き出した。
しばらく後…。
(どれくらい歩いたかな…)
カルドラはあれからひたすら歩き続けていた。オーガから逃げるため、仲間を守るため。
腕の感覚は疾うに麻痺し、背中に感じる重みだけでアイーシャがそこにいることを認識する。そしてソラの尻尾が視界でゆらゆらするのを眺めながら、カルドラはひたすら歩き続ける。
(次の町ってあとどれくらいなんだろうな…。暗くなって…明るくなって…、あれ? おれ寝たっけ? まぁいいか…、歩いてればそのうち着くだろ…)
もはや思考がまともではなくなってきており、精神的にも限界を迎えようとしていた。そして…。
(あ…)
ばたんっ
ついに歩くことが出来なくなった。
「ピ!?」
カルドラの頭から放り出されたソラが衝撃で目を覚ます。
その声をカルドラは消えゆく意識で聞き、少し安心した。
(あぁ、ソラ、目ぇ覚めたか。元気になってよか――)
ここでカルドラの意識は途切れる。
「ピ? ピーーー!???」
そして覚醒したソラは倒れるカルドラを見て驚愕する。
死んではいないが、まるで屍のような様相を呈していた。
「ピ! ピー!」
ぺしぺし、とアイーシャの頭を叩くソラ。
ソラはドラゴンとしての能力で周囲の魔力を詳細に感知することができる。その能力でアイーシャがすでに全快しているのがわかったから遠慮無しだ。
「ピー! ピー!」
ぺしぺしべしべしと、どんどん激しくなっていく。そして…。
「ふがっ!?」
アイーシャが覚醒した。
「ピー!」
「あれ? ソラちゃん? ここは? カルさんは…って、あぁ!? カルさん!?」
自分の下で屍のように眠るカルドラに驚愕し、急いで抱き起すアイーシャ。
そして腫れ上がった両腕にまた驚愕する。
「な…! こんなになって…! 待っててください! 今治してあげます!」
アイーシャがカルドラの下に彼がすっぽり収まるほど大きな魔法陣を展開する。
魔力の線からはズバァーと光が立ち上り、しかし光自体はふんわりやさしい。そんな不思議な魔法陣をどんどん組み上げていく。
「ピッ!???」
ソラはアイーシャが何をするつもりなのか気づき、顔をべしべし叩く。
しかしアイーシャは止まらない。
「ソラちゃん! 邪魔するくらいなら魔力ください! その方が建設的です!」
「ピ…、ピー!!!」
アイーシャに押され、仕方なくアイーシャの頭に乗り、魔力を送り始めるソラ。
程なくして魔法陣は完成し、アイーシャが魔法名を呟く。
「ソラちゃん、ありがとう。グレーターヒール!」
アイーシャの意識は途切れた。




