友人
時間を少し遡り、カルドラたちが鉱山へ走って行くのを見送ったアイーシャとサニアはエルミアと食事を取っていた。
エルミアが丁度休憩に入る時間だったのだ。
「カルさんの無茶も、こういうタイプの無茶なら安心して送り出せますね」
「でもあの距離をあのスピードで走って行くのは…。ちょっとびっくりです」
常人なら絶対にやらないであろうハイスピード登山へ向かったカルドラへの感想を話すアイーシャとサニア。
「近接戦闘職の方たちのスタミナってすごいんですね…。マスターと兵士長様も普通について行きましたし…」
エルミアも話に加わる。
グラントとアイゼルも、カルドラの「走って行きましょう」という提案に「わかった」と即答して走って行ったのだ。事務職のエルミアから見たら3人とも化け物でしかない。
「お2人とも近接戦闘職だったんですか?」
料理をもきゅもきゅ食べながらアイーシャが質問する。
「マスターは冒険者上がりらしいですよ。昔はハルバードを振り回していたとか。この町の兵士様たちの基本武装はショートソードと盾ですし、兵士長様は今も現役で現場に出ているそうなので、普段から訓練も欠かしていないでしょう」
「ハルバード…、とても想像しやすいですね…」
エルミアの説明を聞き、グラントがハルバードを持つ姿を想像するサニア。ガタイの良いグラントにハルバードが良く馴染む。
「町長さんはどんな経歴なんです? ギルドマスターさんと兵士長さんと仲が良さそうでしたけど」
次の料理をもきゅもきゅ食べながらアイーシャが質問する。
「町長様は昔ギルドの職員をされていたそうです。マスターがその職に就いた当初にギルドのあれこれを教えたのが町長様だったとか。ギルド職員は兵士様たちとも良く顔を合わせますし、兵士長様も昔から顔馴染みだったのではないでしょうか」
「なるほど。人に歴史有り、ですね」
昨日の報告時の慌てふためく町長クロフを思い浮かべながら、うんうんと頷くサニア。
「そういえば昨日お話した浄化の件ですが、無事に浄化した全ての魔石分で計算して報酬を出してくれることになりました。今坑道の兵士様が魔石の数を数えてくれているそうです」
「え? あの山を数えてるんですか?」
「それは…いくらなんでも兵士さんたちが可哀想なのでは…」
エルミアから浄化の報酬についての話が出るが、それに付随して出てきた兵士たちの現在の仕事内容に驚く。
アイーシャが浄化した魔石は、彼女の身長より高く積み上げられた小さい魔石の山が、ダンジョンに入る前に2つとダンジョン破壊後に5つ。それとは別にまとめられた大きめの魔石の山が1つ。山が計8つだ。
それを一つ一つ数えているとなると同情を禁じ得ない。
しかしすぐにエルミアが補足を入れる。
「いえ、さすがに一つ一つではないと思いますよ? ある程度数えてからそれを基準に重さで計算しているはずです。でも量が量なので時間は掛かるでしょうね…。兵士様たちにはがんばって貰わなければなりません」
エルミアも苦笑いしている。彼女も実際あの量を見ているので兵士たちに思うところもあるのだろう。
「報告の時に兵士長様が言っていた"謝礼"も浄化依頼の報酬と一緒にお渡しできるように準備してます。明日か明後日にはお渡しできると思いますよ」
「わかりました。伺うタイミングはカルさんが戻ってきたら相談してみますね」
報酬の受け取りについて話し合うエルミアとサニア。
その横で、さっきまでもきゅもきゅと料理を食べていたアイーシャの手が止まり、何かを考えている。
そして「あっ」と何かを思い出し、話始める。
「カルさんの武器の強化が終わるのも明日か明後日じゃないですか?」
「あ、そうですね。預けてから明日で7日だったはずです。明日の夕方か明後日にバルドレンさんの所に行かないと」
うまい具合に2つの受け取りが被っている。明日あたりに次の町へ行く準備を始めれば明後日には出発できるかもしれない。
「カルドラ様は武器に何か不具合があったのですか?」
素朴な疑問を口にするエルミア。サニアが今までの経緯を簡単に説明する。
「実は少し前にカルさんの武器が壊れてしまって、前の街では直せないと言われてしまったんです。でもこの町の鍛冶師さんにいろいろアドバイスをもらって武器を全て強化することになって、それで私たちはこの町に滞在してたんです。最初に受けた依頼で受け取ったタングスライト鉱石も強化に必要な物だったんですよ?」
「そうだったんですね。あ、じゃあ強化が終わるということは…」
「はい…。名残惜しいですがあと数日でお別れになります…」
「そうですか…。寂しくなりますね…」
しんみりするサニアとエルミア。
そして料理を全て食べ終わったアイーシャが話す。
「私、エルミアさんと仲良くなれて良かったです。心配して現場まで出張して来てくれる受付さんなんて他にいませんよ」
微笑むアイーシャにサニアも続く。
「私も坑道でエルミアさんを見つけた時は驚きました。ここまでしてくれる人がいるんだ…って感動しましたよ」
「アイーシャ様…、サニア様…」
エルミアの目に涙が浮かぶ。
「私も、皆さまに会えて良かったです…。受付嬢としてたくさんの方とお会いしましたが、こんなに仲良くなれたのは貴方方が初めてでした…。ありがとうございます…」
心からの感謝を告げるエルミア。
今まで彼女は受付嬢として、カウンター越しの人々とは明確にラインを引いて付き合ってきた。しかしこの3人のパーティーはいつの間にかそのラインの内側にいたのだ。
いつのタイミングかはわからない。謝罪して逆に慰められた時か、それともちまちまと情報を聞きに来た時か。とにかく何回もこのパーティーの対応をしていたらいつの間にか心配で心配で堪らなくなっていたのだ。
その結果が坑道への出張と、一緒に食事をしている現在の休憩だ。
もう彼らをカウンター越しの人々として見るのは不可能になっている。
「またこの町に来たら絶対会いに来ますね!」
「えぇ。絶対会いに来ます」
未来への約束を口にする2人。しかしそれは果たされる保証の無い約束だ。
世界は広い。徒歩で旅をしている彼らが再びこの地に戻るのはいつになるか。おそらく気の遠くなるほど先のことだろう。
しかしそんなことはどうでもいいのだ。また会う約束を交わしたことが重要なのだ。その事実があれば、離れていても心は繋がっているはずだから。
「はい。いつでもお待ちしております。ギルドのカウンターから皆様の無事を祈っております」
ギルドの受付嬢として、彼らの友人として、彼女なりのエールを送った。
そしてここで彼女の脳内に聞いておかなければならないことが唐突に浮かび上がる。
彼女自身何故このタイミングで…と思ったが、今聞かなければ次はいつになるかわからない。
意を決して聞いてみることにした。
「あの…、このタイミングで大変恐縮なのですが…、何故"あのパーティー名"になったのかを聞いてもよろしいですか? 気になって気になって仕方がありません」
「あ! あのパーティー名はですね! 実は――」
こうしてアイーシャから語られる特に中身のない理由に、サニアとエルミアは苦笑いするのであった。




