報告終了
カルドラはほっと息を吐き、本題へ舵を切る。
「納得してくれてありがとうございます。これで"本題"に入れます」
「…ちょっと待て。本題…とはなんだ? ドラゴン以上の問題があるのか…?」
そう言うグラントの顔が引き攣っている。
そしてクロフはとうとう両手で耳を塞ぎ始めた。もうやめてくれ、と目で訴えてくる。
少し不憫に感じるが、報告しないわけにはいかないのでクロフは無視することにした。
「あのダンジョンなのですが、"魔族"が作って放置していったものらしいのです。それを教えてくれたのがヴァルクスです」
「魔族だと!!!?」
バンッ!とテーブルを叩き叫ぶグラント。隣のアイゼルは眉間に皺を寄せ、クロフは顔面蒼白でふらついている。
「どうして魔族が出てくる! ここは人族の領土だぞ!」
「グラント、落ち着け。彼らの話の途中だ」
アイゼルが口を挟み、グラントはぐぬぅと唸りながら腕を組み黙る。
「すまない、続けてくれ」
アイゼルに促され、カルドラは続きを話す。
「ヴァルクスの話では約20日前、坑道に魔族が入り"何か"をしていたそうです。そしてその場所にダンジョンが発生し、魔族は去っていった。ヴァルクスとしてはダンジョンがあるせいで魔力の流れが滞るのが迷惑だったそうで、しかし自分で破壊しようとすると坑道が潰れてしまうため、偶然彼に出会ったおれに破壊の代行を頼んだ。というのが今回の流れになります」
「ふむ…。その"何か"の詳細はわかってはいないのか?」
アイゼルが尋ねる。それについてサニアが口を開く。
「すでに報告を受けていると思いますが、ダンジョンコアが龍脈の末端に繋がっていました。ヴァルクスさんの話では、『自然発生したダンジョンのコアが龍脈に繋がる可能性は無い』そうです。つまり魔族がコアを龍脈に繋げたということになります。これについてのヴァルクスさんの見解ですが、強力な魔物を作り出す実験でもしていたのだろう、とのことでした。…それと、ドラゴンから見ると龍脈の魔力を私的利用しようとする行為は"禁忌"だそうで、ヴァルクスさんは魔族に対しだいぶご立腹でした」
ぷるぷるしながら聞くグラントのこめかみに血管が浮き出ている。人族の領土で魔族が好き勝手していたことが許せないようだ。
それを横目に見たアイゼルがふぅ…とため息をつき、カルドラたちに確認を取る。
「他に重要な報告はあるか?」
「いえ、おれたちから報告できることはこれで全てです」
「そうか。すまないがグラントがこれ以上持ちそうもない。ここからは我々3人で今後の対応を話し合う」
クロフが「え?」と目を見開いてアイゼルを見るが、アイゼルは無視して続ける。
「ダンジョンの破壊からドラゴンや魔族の情報まで、君たちには本当に助けられた。町を代表して礼を言わせてくれ。ありがとう。謝礼も考えてるから、後日またギルドに顔を出してくれるとうれしい」
さっきまでとは違う優しい表情で話すアイゼル。実質的にこの3人をまとめているのは彼のようだ。
「わかりました。後のことはよろしくお願いします。では、おれたちはこれで失礼します」
カルドラたちは3人に軽く頭を下げ、ぷるぷるするグラント、唖然とするクロフ、笑顔のアイゼルに見送られながら部屋を後にした。
「ふーーーーーっ! 緊張しましたねぇ。私、ああいう重鎮会議みたいな雰囲気苦手ですぅ」
ギルドのホールに向かって歩きながらアイーシャが零す。
「でもきれいな受け答えができてましたよ? アイーシャさんが神官なんだって実感しました♪」
「ふふん♪ 自分で言うのもなんですが、私の説教は結構評判良かったですからね!」
受け取り方によっては煽りにも聞こえるサニアの言葉を素直に受け取り上機嫌のアイーシャ。
そのやり取りを眺め、ダンジョン絡みでの自分たちの役割が無事終わりに向かっているのを実感し、カルドラはやれやれと微笑む。
そしてホールに着くと、エルミアが頭を下げながら話し始めた。
「皆様、報告にお付き合い頂きありがとうございました。おかげで滞りなく情報を伝えることができました」
「いえ、こちらこそありがとうございます。町のトップに直接ヴァルクスのことを話せて良かった」
カルドラとしては魔族の報告をする過程で、ヴァルクスと町との関係が壊れてしまうのを危惧していたのだ。しかしギルドマスターたちのあの様子なら今後も大丈夫であろう。
「サニア様が『町が大混乱になる』と言っていた理由が良くわかりました。確かにヴァルクス様の存在が公になれば町は混乱に包まれるでしょう…。ギルドと兵舎に町民が押し寄せるのが容易に想像できます。ドラゴンを倒せ…と」
少し複雑な表情で話すエルミア。おそらく彼女も実際にヴァルクスと会っていなければ町民側と同じ反応をすることを自分でわかっているのだ。
「まぁその最悪の方向へ行くのは回避できそうですし、おれたちは無事に報告の役割を全うできたことを喜びましょう」
「………ふふ、そうですね」
カルドラの言葉で、ここまで疲労や責任で表情が硬かったエルミアの顔に、少しだけ笑顔が戻った。
そして「あっ」と思い出したかのように呟いたエルミアが仕事モードで話し始めた。
「昨日の出発前に引き受けてくださった魔石の浄化依頼の件なのですが、報酬の受け渡しを少し待っていただいてよろしいでしょうか…。あの依頼にはダンジョン破壊後の魔石の浄化は含まれていないのですが、あれだけ大量に浄化していただいたので対価はお支払いしなければなりません。上に掛け合って報酬を増やせないか確認してみます」
「え? そのままで大丈夫ですよ? 浄化するのは神官として当然ですし、それほど大変でもなかったですから」
エルミアの提案をぽやっとした顔で断るアイーシャ。
「た…大変じゃなかった……??? い、いえ! そういうことではなくて! 働いた成果にはそれ相応の対価は発生するものなのです! 受け取って貰わないと困ります!」
アイーシャの発言に一瞬困惑したが、すぐに説得に切り替えるエルミア。
え~?という顔のアイーシャにカルドラが声を掛ける。
「アイーシャ、ここは素直に受け取っておこう。おれから見てもお前の浄化はすごかった。あれで報酬を受け取らなかったら、他の浄化魔法が使える人の立つ瀬が無い」
「そうです! 対価は必要なのです!」
カルドラの説得に全力で便乗するエルミア。
その必死さが伝わったのか、それとも褒められてうれしかったのか、珍しくアイーシャが折れた。
「…わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「ほっ…、良かったです。なるべく早く話をつけますね。詳細が決まったらお知らせします」
ほっと一安心のエルミア。
そんな彼女を見て、受付嬢は大変だなぁと思うカルドラだった。




