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双棍のトラベラー  作者: コルミ
後処理のあれこれ
105/119

世界の禁忌

「そういえばダンジョンの中にドラゴンの魔物がいたよ。あんたよりだいぶ小さかったけどめちゃくちゃ強かった。正直死ぬかと思ったよ」

(ほう。"穢れ"が龍族の姿を取るとは珍しいな。どんな姿だった?)


 カルドラの報告に興味津々のドラゴン。詳しい情報を求める。


「えーと、赤黒い甲殻と鱗。がっしりした四肢で前足の方が発達してて、足というより腕みたいだった。翼も身体を覆えるくらい大きくて、でも長い尻尾をゆらゆらさせて猫みたいだったな。攻撃も猫パンチみたいだったし。威力は恐ろしかったけど…」

(ふむ…。"ギガス"のやつと同類か…。血の気の多いやつであっただろうに、よく生き残れたな)

「アイーシャとサニアが来てくれなかったら間違いなく死んでたよ。運が良かった」

(くっくっくっ。運が良ければそもそも龍族の魔物なんぞに出会わぬぞ)

「ははっ、確かに。その"ギガス"ってやつはやっぱりデカいのか? ダンジョンにいたやつは――」


 まるで気の合う友人同士のように会話するカルドラとドラゴン。

 その光景にエルミアは自身の常識が崩れていくのを感じていた。

 カルドラは『話だけだとたぶん信じられない』と言いエルミアをここに連れてきた。確かに町のこんな近くに、こんな巨大な、しかも意思疎通ができるドラゴンがいるなど、話を聞いただけじゃ絶対に信じられない。

 いったい何故、いつからここにいるのか。それにここまでサイズ差があるにも関わらず何故人族と楽し気に会話しているのか。次から次へと疑問が湧いてくる。


(……そこの…エルミアだったか。いろいろ疑問があるようだな?)

「え!? え、えーと…」


 心を見透かされたかのように突然ドラゴンに思念を飛ばされ、顔が強張るエルミア。危害を加えるつもりがないのはカルドラとの会話の様子からわかったが、その視界に入り切らないほどの巨体にどうしても恐怖を感じてしまう。

 そんな彼女の震える手を、カルドラがやさしく握った。


「エルミアさん、大丈夫。こいつ…ヴァルクスは見た目と中身が全く一致してない気の良いやつだから。どうしても怖いなら目を瞑ったって良い。おれが隣にいますから」

「カ…カルドラ様…」


 エルミアはカルドラの言う通り目を瞑ってみる。ドラゴンから凄まじい存在感を感じるが、見た目ほど大きい存在感ではないことに気がつく。意図的に存在感を小さくしてくれているのかもしれないと感じた。

 そして手を握ってくれているカルドラの温かさが安心感となりエルミアを包んでいる。これなら少しは会話ができるかもしれないと思った。


「えっと…、では、いくつか質問があるのですが、よろしいでしょうか…」

(うむ! なんでも聞くがよいぞ!)


 そうしてドラゴン…ヴァルクスはウッキウキでエルミアの質問に答えた。

 遥か昔からこの地に住んでいること。人族の観察が趣味でわざわざ町の近くに住んでいること。そのために認識阻害の結界魔法まで作り出したこと。カルドラにダンジョン破壊を頼んだこと。ダンジョンは魔族が作って放置していったものだということ。エルミアが聞きたかったことは全て教えてくれた。

 途中からヴァルクスに対する恐怖心も和らいできて、今ではなんとか目を開いて話ができていた。


(さぁ! 次は何が聞きたい!? まだまだ語り足りぬぞ!)

「あ、私はもう大丈夫です。いろいろ教えていただきありがとうございました」


 丁寧にお辞儀をするエルミアの言葉を聞き(そうか…)と少し寂しそうにするヴァルクス。

 そんなヴァルクスに次はサニアが質問をぶつける。


「あの、ダンジョンについて少し気になることがあるのですが、見解を窺ってもよろしいですか?」

(む! なんだ!? 言ってみよ!)


 聞かれた途端にウキウキし出すヴァルクス。本当に見た目と中身のギャップがすごい。


「魔族があの場所にダンジョンを作った理由が気になりまして…。実はダンジョンコアが龍脈の末端に繋がっていたんです。魔族は――」


 それを聞いた途端楽しそうだったヴァルクスの雰囲気が一変し、びりびりと威圧感が漏れ始めた。


「…っ!!! ヴァルクス!? どうした!?」

(………いや、すまぬ。少し取り乱した)


 ヴァルクスがそう思念を飛ばすと、すぐに威圧感が消え、先ほどまでの穏やかなヴァルクスに戻る。


「…あ、あの…、なにか気に障ることを言ってしまったでしょうか…。申し訳ありません…」


 サニアが青い顔をして謝罪している。そんなサニアにヴァルクスはやさしく語り掛ける。


(サニアといったか。すまなかった。其方にはむしろ感謝したい。先ほどの話には我ら龍族にとって重大な情報が含まれていたのでな)

「…コアと龍脈のところ…ですか…?」


 サニアが質問すると、ふんっ…と鼻から息を吐き、ヴァルクスが答える。


(龍脈と呼ばれる大地の魔力(マナ)の大流は、我ら龍族の母である星の命そのものだ。それに手を出すということは全ての龍族の逆鱗に触れるに等しい行為なのだ。…やれやれ、ダンジョンに龍族の魔物がおったのも納得よ)


 ヴァルクスは心底呆れているようだ。


(…おっと、質問に答えてやらねばな。自然発生したダンジョンのコアが龍脈に繋がる可能性は"無い"。つまりコアが龍脈に繋がっていたのならば、間違いなくそれをやった不届き者がいる。大方、強力な魔物を作り出す実験でもしていたのだろうよ、"穢れ"の制御などできるはずなかろうに…嘆かわしいことだ)

「……。ありがとうございます。すっきりしました」


 先ほどのサニアの質問は途中で途切れていたのだが、ヴァルクスはその流れを読み取りサニアが欲しい情報を的確に渡してくれたようだ。すっきりしたと言いつつ、その表情には少し畏怖が混じる。

 その流れを受け、今度はアイーシャが質問をする。


「魔族がそんなに失礼なことをしたということは、もしかしてヴァルクスさんが殴り込みに行ったりするんですか?」


 その言葉を横で聞いていたカルドラは、町に巨大ドラゴンが襲来する光景を想像してしまい表情が引き攣る。


(そうしたいのは山々なのだがな。そのくらいではまだ我は動けん。こう見えて我は龍族の中でも上位の存在なのでな。同族同士での取り決めも多いのだ。…そうだな。我が動くのならば、それは"世界が壊れ始めた時"だ)

「ひぇぇぇ…。そうなんですね…」


 ぽやっとした顔で恐れおののくアイーシャ。緊張感があるのかないのか…。

 そしてカルドラは気を引き締めていた。

 そもそもヴァルクスは最初自分でダンジョンを破壊しようとしていたのだ。しかし坑道が壊れてしまうということでカルドラが代行した。つまりダンジョンの破壊はヴァルクスにとって"動く"の範疇外。きっと庭を整えるような感覚なのだろう。

 そんな彼が、今回の魔族の行動に対し"動けない"と言った。彼の"動く"は、いったいどんな規模なのか。想像するだけで冷や汗が出る。


「……あ。カルさん、そろそろ戻らないと…」

「ん?」


 サニアが日を眺めながら言う。

 カルドラも確認する。丁度お昼を過ぎたあたりだろうか。確かにそろそろ移動を開始しないと町に着く頃には暗くなってしまう。今は事務職のエルミアも一緒なのだ。彼女の歩く速さも計算にいれなければならない。


「うん、そうだな。そろそろ戻ろう」

(む? もう行くのか? 少し早いのではないか?)


 露骨に寂しそうにするヴァルクス。先ほどまでの威厳はどこへ行ったのだろうか。

 そんな彼にサニアが話し掛ける。


「すみませんヴァルクスさん。暗くなる前に町に戻りたくて…。またここへ来てよろしいでしょうか。私、昔のお話とかすごく興味があります。ぜひ聞かせてください」

(む!? そうか! また来るが良い! 存分に語り合おうぞ!)

「はい。楽しみにしてます」


 サニアの言葉にウキウキし出し、嬉しさが抑えきれない様子のヴァルクス。サニアも気を使っているわけではなく、純粋に彼の知識に興味があるようだ。おそらく時間さえあればいつまでも語り合うことだろう。

 そうして4人は鉱山のドラゴン、ヴァルクスと別れ、町への帰路に発った。

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