良く寝ました!
「………むにゃ…ん」
アイーシャの目が開く。張られた布が見える。
「んーーーーーーーーっ! 良く寝ました!」
とりあえず伸びをし、身体中に覚醒の合図を送る。
「よいしょ。……テント? あ、カルさんとサニアさんはまだ寝てるんですね…。静かにしないと…」
上体を起こし周囲を確認すると、自分がテントで寝ていたのだと理解する。そしてカルドラとサニアも一緒に寝ていたことに気づき、声を小さくする。
(サニアさん…。無事でよかった…)
サニアが小さな寝息を立てているのを確認して安心するアイーシャ。凄まじい数の魔法を連続発動した末に倒れたのだ。死んでいてもおかしくなかった。
抱き着きたい衝動をなんとか抑え、再び周囲を見渡す。
(んーー…。ここはどこ???)
周囲を見渡しながら記憶を辿ってみる。
ドラゴンブレスを耐えて…、目の前がぐにゃって…、カルドラと話して…、覚えているのはここまでだ。
「……ん……」
(…! あれ? ギルドの受付さん?)
小さな寝息が聞こえてそちらを確認すると、布に包まった受付嬢がいるのに気がついた。見えるのが顔だけだったので寝息が聞こえるまで気づかなかった。
しかしなぜここに彼女がいるのかわからなかった。
(……うん。とりあえず探索しよう!)
このまま座っていても何もわからないので、とりあえず立ち上がりテントの外に出てみる。
するとテントの入り口の横に椅子に座った兵士がいてびっくりするアイーシャ。
「うわ! びっくりした! えーと…おはようございます?」
「うん、おはよう。無事目覚めたみたいだな。身体の調子はどうだい?」
「え? はい。快調です。……あの、ここってもしかしてダンジョン前のキャンプですか?」
兵士の質問に簡単に答える。
そして見える景色から、ここがダンジョンに入る前に通ったキャンプであるとわかり、兵士に確認する。
「なんだ、覚えてないのかい? そうだよ。ここはダンジョン前のキャンプだ。ま、君たちのおかげですでにダンジョンは無くなってるけどね」
「ダンジョンが無くなってる…。そっか…、カルさんがコアを破壊して私たちが外に放り出されたんですね…」
少しずつ今の状況の詳細がわかってきた。
ドラゴンブレスを耐えているときにカルドラがコアを破壊したことで3人がここに放り出され、そのまま皆で気絶して介抱されたのだろう。
「兵士の皆さんが介抱してくれたんですよね? ありがとうございました」
「あぁ、気にするな。君たちのがんばりに報いただけだよ。それより落ち着いたらダンジョンアタックの詳細を聞きたいんだが――」
兵士がここまで話すとアイーシャの後ろから声が聞こえてきた。
「あの……、おはようございます……」
「お? おはよう。よく眠れたかい?」
「あ! おはようございます!」
アイーシャと兵士の話声で受付嬢が目を覚ましたようだ。
「番を任されたのに眠ってしまって申し訳ありませんでした…。あと…これもありがとうございます…」
小さくなりながらきれいに畳まれた布を兵士に渡す受付嬢。
兵士は笑いながらそれを受け取る。
「気にするな。人間、寝れるときにたっぷり寝ないと身体を壊すからね」
「それ、完全に同意です! 睡眠は大事ですよ!」
何となく事の流れを把握し、彼女を励ますため兵士の言葉に便乗するアイーシャ。
受付嬢は恥ずかしそうに頭を下げるのだった。
その後アイーシャと受付嬢は一緒に朝食を取り、そこでアイーシャは初めて受付嬢エルミアの名前を聞いた。
アイーシャとしてはずっと聞きたかったのだが、今まで聞くタイミングを完全に逸してしまっていたので、ここで2人で話ができたのはうれしかった。
そして数人の兵士を交えて、アイーシャはダンジョン内で経験したことを話す。
ネズミの魔物をサニアのサイクロンで蹴散らし、アイスウォールでマーキングしながら進んだこと。
2階層目からはアイーシャのプロテクションも駆使したこと。人の魔物が出たこと。
そして3階層目に龍脈の流れを堰き止めるダンジョンコアがあり、ドラゴンの魔物がいたこと。
エルミアと兵士は驚愕しつつも話を紙に書きとめ、現状でわかった情報を2人の兵士がギルドと兵舎に伝達するため走っていった。エルミアはカルドラとサニアが目覚めるのを待ち、さらに詳しい話を聞くため待機することにした。
ちなみにサニアが使ったブリザードについてはアイーシャの判断で伏せられている。サイクロンの話の時点で皆の表情が強張っていたので、ブリザードのことまで話すとサニアが危険人物判定を受けそうな気がしたからだ。
そしてアイーシャがわかる範囲の情報を全て話し終え、次はダンジョン崩壊時に吐き出された魔石の処理に向かう。
このダンジョンは龍脈の魔力を使い魔物を生み出していたため、かなりの数の魔物を内包していた。そしてダンジョンコアの破壊に伴い、その全ての魔物が魔石を残し消滅。探索中に倒された魔物の魔石も合わさり、凄まじい量の魔石が吐き出されていた。
アイーシャがダンジョンに入る前に浄化した2つの魔石の山の周りに同じような山が4つ増えていて、現在進行形で5つ目の山がせっせと作られている。
「……兵士さんたち、大変ですね」
「あれも仕事のうちさ。散らばったまま放置するわけにもいかないしな。それよりあの数の魔物を相手にしてた君たちが恐ろしいよ」
アイーシャの呟きに、案内をしてくれている兵士が笑いながら答える。
実は兵士たちの中にはネズミの群れを強引に突破して先に進むべきだと言う者もいたのだ。しかしこの魔石の量を目の当たりにし、それが如何に無謀な考えだったかを痛感させられたらしい。
ちなみにダンジョン崩壊時に吐き出されるものは、外から持ち込んだ物や人、そして魔石だけだ。
ダンジョンとの繋がりの強さが吐き出す吐き出さないの判定に関係していると考えられているそうだが、詳しいことはわかっていない。サニアがダンジョン内で生成した氷もダンジョンと共に消えている。
そして一度ダンジョンの外に出た魔物はダンジョンが消えても存在し続けることがわかっている。今回はダンジョンを破壊する前に外の魔物を一掃していたため心配はないが、本来魔物が外に出ていると確認されたダンジョンの破壊後には周囲の魔物狩りもセットで行われるのだ。
「やったのはほぼサニアさんですけどね。すごい光景でしたよ…」
兵士の言葉を聞き、サニアのサイクロンに舞い上げられ切り刻まれるネズミたちの姿が脳裏に浮かび苦笑いのアイーシャ。あれをこの兵士が見たらどんな顔をするのだろうか。
そうこう話しているうちに魔石の山の前に到着するアイーシャ。さっそく浄化を開始する。
「ピュリフィケーション!」
アイーシャは両手からぱあああ…とやさしい光を放ち、山の端からどんどん浄化していく。
それを見てエルミアの目が点になる。こんな大雑把な浄化の光景は初めて見たからだ。
兵士は同じ光景を昨日見ているので落ち着いてはいるが、やはり腑に落ちない表情をしている。一度に浄化できる量は多くても食卓のテーブルに乗るくらいまでのはずなのだ。目の前の山はそれを遥かに超過している。
そんなエルミアと兵士を余所に一山の浄化を完了させるアイーシャ。次の山へ取り掛かる。
「ピュリフィケーション!」
涼しい顔で意味不明な量の浄化を行うアイーシャ。エルミアと兵士はそれを黙って眺めることしかできなかった。




