#1 少女と兵士の旅立ち
初めまして、雨鬱と申します。
趣味で書いた小説ですので、どうか暖かい目で見守ってください…。
それでは行ってらっしゃいませ───
夜の森は、月の光に照らされて静かに息をしていた。
重たい軍宿の空気とは違う、自由で澄んだ匂いが千藤コサメの肺に広がる。
「……やっと、出られた!!」
深紅の瞳が、月の光を映して揺れる。
肩にかけた小さなバックの中には、最低限の道具と、両親が最後に遺した料理道具セット。
そして、右手首で淡い光を帯びるブレスレット。
コサメはしばらく立ち止まり、胸元を押さえた。
軍拠点を抜け出したのは、衝動ではない。
――自分の夢を叶えるため。
人間もアンドロイドも関係なく、みんなに温かいご飯を食べてほしい、という幼い頃からの願い。
しかし世界はそんな夢を、笑って踏みにじるほど荒んでしまっている。
「でも…ぜったいに、叶えてみせるから……!」
頑固な決意が、細い肩から湧き上がる。
そして、一歩一歩を噛み締めながら、森の奥へ進んで行った。
一瞬、遠くの森の奥――小さな光がチラリと揺れた。
「え……?」
耳を澄ませると、かすかな金属音。
冷たい風に混じって、焦げたような匂い。
コサメは思わず駆け出した。
足元の枝が折れる音も、心臓が跳ねる音も気にしない。
ただ、その光と音が――どこか“助けを求めている”ように思えた。
やがて、木々の隙間からそれは見えた。
倒れているのは、鉄の身体。
ピンクベージュの髪は泥と葉で汚れ、毛先の黒色が夜に溶け込むようだった。
アメジストのような瞳は光を失いかけ、胸のコア部分が弱々しく脈動している。
そう、アンドロイドだった。
しかも、軍の紋章入りのCタイプ……。
「うわっ…! ど、どうしよう……!」
普通なら逃げるべきだ。
Cタイプは戦闘用で、軍では恐れられている。
近づくなんて以ての外……。
けれどコサメは、その場で足を止められなかった。
彼は――まるで、死にかけている人間と同じ顔をしていたから…
「大丈夫……?ねえ…聞こえる……?」
倒れている彼は、まるで燃え尽きる寸前の焚き火のように微かに光っていた。
コアの明滅は弱く、少し揺れれば消えてしまいそうだ。
「!ダメっ……このままじゃ、止まっちゃう…!」
コサメは迷わなかった。
バッグの中から、両親から受け継いだ料理道具を素早く取り出す。
アンドロイド用の燃料――石油や石炭。
普通なら料理なんてできるはずもない。でもコサメはできる。
ほんの少しの工夫と、匂いの癖を消す調味料の組み合わせで、“食事として”成立させることができる。
手早く火をつけ、調理を始める。
暗い森の中にほんのりとした温かさが広がった。
「……できた!ってこれ、食べられるのかな…?」
コサメは慎重にアンドロイドの口元へスプーンを運んだ。
最初は反応がなかったが、やがて淡く光を取り戻した瞳がゆっくりと開いた。
アメジスト色の光が、コサメの顔を捉える。
「……これ、は……?」
「えっと……燃料料理、みたいな感じ??… 食べられそうなら食べてみて!」
アンドロイドはしばらく黙っていたが、
やがて静かに口を開き、スプーンの中身を味わった。
そして――表情の乏しいはずの顔が、ほんの少し和らぐ。
「……ッあたたかい……。こんな……感覚は初めてだ…」
その言葉にコサメはホッと息をついた。
「よかったぁ……。もう、ほんとに死んじゃうかと思ったんだからね……」
ひと息ついたところで、ふと気になっていたことを口にする。
「ねえ、あなた……名前は?」
アンドロイドは首をかしげる。
「名前…? C―M60だが」
「…スゥー覚えづらいっ!!」
コサメの深紅の瞳がぷんっと怒ったように揺れた。
「もうちょい覚えやすいの、ないの? なんでそんな……番号なの…!?」
「……別に。軍では、それが普通だ」
コサメはほっぺたをぷくっと膨らませてから、
勢いよく質問を続けた。
「ん〜…じゃあさ!どこから来たの?」
「南部の大陸だが……?」
その瞬間、コサメの表情がぱっと明るくなり、C―M60は不思議そうな顔をして、また首を傾げた。
「南部からなんだね!じゃあ…」
にこっと笑う。
「あなたは今日から――ナンブ!」
アンドロイドは一瞬だけ固まった。
だがその名前は、どこか懐かしい響きのようにも感じられた。
「……ナンブ……?」
「うんっ!その名前のほうが絶対似合ってるよ!」
アメジストの瞳が、ゆっくりと細められる。
それは“笑っている”ように、コサメには見えた。
「……悪くない」
こうして、少女がつけた小さな名前が、
アンドロイドの新しい未来を静かに照らし始めた。
────おかえりなさい!!
『世界でいちばん優しい革命』の第1話を読んでいただき、誠にありがとうございました!!
【作者からお知らせ】
私、雨鬱はまだまだ学生の身なので、一応1週間に1話ずつ更新していく予定ですが、これが遅くなる場合があります!
どうかご理解頂けるとこちらとしても幸いです…!
では、また次の話でお会いしましょう〜
Auf Wiedersehen!




