あたしちょっと、酔っちゃったかも
霧雨玲奈との縁は、大学に入ったばっかの頃に遡る。
まあきっかけは些細なことで、その些細なことが原因で四年も何かしらいじられているわけで。
今回もいきなり「飲もーぜ」と来やがった。
ああ、俺が忙しい身だったら行かないのにな、と思いながらもお金に余裕ができたので行っちゃう。
だがその前に、一度ギルドに寄って探索者カードの更新をした。これは所属とか関係なしに、どこのギルドでもやっているので助かる。
なんかギルドの人達がざわついてたけど、俺なんか変なことしたかな?
気まずい感じになったので、そそくさと抜けて居酒屋に来たんだけど。
今回も普通の居酒屋っぽいなぁ……と思って入ってみると、落ち着いた雰囲気が漂ってる。店員がやってきて個室へ連れられる俺。意外と高そうな店?
引き戸を開けた先にはいつもの金髪ギャルがいやがったんだが、あれ?
「よー! 虎、こっちこっち」
「あれ? 他のメンツは?」
「いないよ」
「え? マジ?」
なんていうか、大学では友達みんなで飲むことはあったけど、玲奈と二人っていうのは久しぶりだった。
「何? あたしと二人じゃ嫌なわけ?」
「いや、別にそんなことないけど。珍しい格好してんな」
なんていうか、まさにOLって格好してる。こういう姿を見たのは何気に初かもしれん。
「仕事帰り! ってかさぁ、ちょっと聞いてよ」
「え?」
この後、俺はやっぱ来るんじゃなかったと思ってしまう。その後は仕事の愚痴トークが延々と炸裂した。
ちなみに上司のおっさんの目が最近やばいらしい。どことは言わないが、これだけ立派なものがあれば、まあそういう目で見ちゃう奴もいるだろう。
俺も最初の頃は目のやり場に困ったわ。
「っていう感じなんだけどさー……ね、聞いてる?」
「ああ、聞いてる。そういう上司ってやだよな」
「うん。……ってかあたしの話ばっかしちゃってるけど、虎はどうなの?」
「俺? ああ、俺はまだぷーだけど」
ついさっきがっぽりお金が入ったせいか、プー太郎状態が継続していてもあんまり危機感がなくなってる。
「ヤバくない? 大丈夫なの?」
「ま、まあ大丈夫」
「絶対やばいやーつ。で、ダンジョンのほうはどう?」
「ダンジョンか……まあ、ぼちぼちやってるよ」
その後はなぜかダンジョン探索の話に変わっていった。話しているうちに分かったんだけど、玲奈もけっこうダンジョンには潜っているらしい。
しかも、ギルドにも入っているみたいで、仕事のストレスは大体ダンジョンで発散しているとか。
「あたし魔法が得意っぽいんだよね。なんか物理でやるの苦手でさ。ね? ステータス見る?」
「え、別にいいよ」
「なんで? 別にいいじゃん減るもんじゃないんだし。あたしが見せるんだから、ね?」
こっちが見せるターンがくると、すげー負けてそうでなんか怖い。と警戒している間もなく、玲奈は普通に探索者カードを見せてきた。
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名前:霧雨玲奈
探索者レアリティ:S
レベル:32
体力:99/329
魔力:157/498
力:117
速さ:435
頑丈さ:137
器用さ:506
運:322
使える魔法:
ファイアボール、フリーズ、サンダー、オフェンスダウン、ディフェンスダウン、グラビトン、ブラスト、フレア
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「すげー! 魔法めっちゃ覚えてるじゃん」
俺はカードを見るなり、驚いて飛び上がりそうになる。でもよくよく見ると、なんか他は俺のほうが強いっぽい?
あと気になったんだけど、体力と魔力だいぶ削れてないか。仕事でだいぶ消耗してるんだろうか。
「ま! あたしもめっちゃ潜ってたからね。大学から暇さえあれば潜ってたし!」
へへん、という分かりやすいアピールをされた。
「す、すげえじゃん。ありがとよ」
見せてくれたことにお礼を言いつつ、カードを返したところ、今度はニヤニヤしてくる玲奈。
「じゃあ次はあたしの番だよね?」
「え、何が?」
「何って、あたし見せたじゃん。見せてよ?」
うわ、やっぱりか。
「いやいや、いいって俺のは」
「だめ! だーめ! はい、はい見せる」
なんだかんだ粘られてしまい、結局は探索者カードを見せることに。
「……へ?」
すると、しばらく固まってしまう。なんだこの気まずい時間。
「ウッソおおお!? なんでこんなにメチャ強くなってんの!?」
「うわ! ビックリしたぁ!」
しばらくして、いきなり叫ばれてビビる俺。
「マジで何があったの? あたし、こんなに強いステ初めて見たんだけど!」
「いやいや、それは違うって。お前はあれだよ、まだ探索界隈を知らないんだよ」
「もしかして、あのサブスクとかってやつで強くなった感じ?」
「ああ、まあ……でもAIが言うには、俺なんてまだ全然らしい」
俺よりもレベル低い人に言うのも失礼だった気がしたが、もう口に出ちゃったのでどうしようもない。でも、そういうところを玲奈はあんま気にしない。
「そのサブスクやっぱおかしいよ! ってか、そのゴーグルっていうのも気になる」
「あ、ゴーグルは今持ってきてるんだ」
酒飲みに行こうとバッグに色々詰めているうちに、間違って持ってきちゃってた。とりあえず出して見せてみると、金髪ギャルはパッと手に取って調べ始めた。
「んー? なんかちょっと、古風なデザインだよね。見た感じは、そんなに変でもないけど。ねえこれ、電源どこ?」
「そこ」
「……? 付かないよ」
あれ? 電池切れかな。その後はサブスクなんておかしい! とかいろいろと話が進み、ダンジョンの話もひと段落したところで、けっこういい時間になっていた。
「そろそろ終電じゃね?」
とりあえず帰る準備始めないと、と思ってたんだが、玲奈はなんだか動きが鈍い。
「あたしちょっと、酔っちゃったかも」
「うん、めっちゃ酔ってるから。気をつけて帰れよ」
「何それ、冷たくない?」
とか言いながら腹をこづいてくる。今日はやたらと叩かれたりしてるんだが。
「ってか、家まで遠いんだよねー。虎の家ってこっから近いよね?」
「ああ。電車でちょっとだ」
「じゃ、じゃーさー。その……今日は虎の家——」
と話をしていたところで、何かが上から降ってきた。え、大根?
「痛! な、何!?」
そういえばこういうアイテムあった!
ちょうど玲奈の頭上に、ヒール大根という回復アイテムが落下したみたい。これにはマジでビックリ。
『本日のログインボーナスです』
「え!? ゴーグルが喋った!」
「この声がAIミリアなんだ。ってか、なんで今ログボが落ちてきたんだ?」
『本日から新人応援ログインボーナスがスタートしています』
ログインボーナスの種類、また増えたのか。もう俺の頭じゃ覚えられないや。
「もー。なんなんだよログボって。っていうかさ、今日虎の家に泊ま、」
『本日のログインボーナスです』
「痛ったぃ!? ちょ、なんでまた落ちてくんの?」
今度は魔力回復ニンジンが落下してきた。玲奈の頭上に。たんこぶできそう!
「もー! っていうかこの現象何!?」
「いや、説明すると長いから。とにかく今日は帰ろうぜ」
完全に調子が狂った玲奈を駅まで連れて行き、その日のよく分からない飲み会は終了した。
そういえば最後に「一緒にダンフェスやろー!」とか言われたっけ。あんまり分かってないけど、まあ誘われてからにはやってみようかな。
俺はこの頃、だんだんと就活より、ダンジョンのことを考えるようになっていた。




