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ダンジョン配信者の中で、なぜか俺だけサブスク(?)に入ってるんだが  作者: コータ


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クビってことじゃないですか?

 とある高層ビルの十一階。一見するとどこにでもあるオフィスへと、四人の探索者達がぞろぞろと入っていく。


「お! 帰ってきたかアイー! お疲れちゃん」

「……はーいただいま」


 社長自らのお出迎えだが、アイと呼ばれた女は怠そうに返事するのみだった。


 髪は金とピンクのツートンカラーをしており、瞳は切れ長で身長は175センチという、モデルのようなルックスをしている。


  ボリュームスリーブトップスとマーメイドスカートという、おおよそダンジョン帰りとは想像できない衣装を纏っていた。


 他三名が軽装の鎧などを着込んでいるため、彼女の姿は余計に浮いている。社内の人間は誰も気にしていないようだった。


 ここは株式会社【チーム袋小路】といい、現社長である袋小路道宗が立ち上げたライバー事務所である。


 ライバーとはライブ配信で稼ぐ人のことをいい、彼女達はいずれもダンジョンでのライブ配信を主な活動源としている。


 アイは社長室へと許可も取らずに入っていき、黒塗りのソファにゴロンと寝転んだ。


「あー、だっるいわぁ。リスナーの相手とかマジキツイんだけど。あ、ちょっとお茶持ってきて」

「はい」


 頼まれた探索者仲間の男は、急いでお茶を準備するために走った。すれ違い様に入ってきた道宗は、アイに気さくな笑顔を向ける。


「今回の探索も大成功だったじゃないか。ここまで来たら、トップランカー入りも時間の問題だろう。お前のおかげで、うちの事務所の業績だってぐんぐん伸びてる」

「ま……探索配信なんてこんなもんでしょ。ねえ、お茶は?」

「お待たせしました!」


 テーブルに置かれた緑茶を見るなり、アイは起き上がり男を睨みつけた。


「私紅茶頼んだんだけど?」

「え、あ、そうだったんですか。すみません」

「お前はそういうところがダメなんだよ。私に何回同じこと注意させんの? はよ紅茶持ってこい」

「は、はい」


 男の探索者は紅茶を用意するべく、そそくさと部屋から出ていった。他二名の探索者が気まずい顔をするなか、社長だけは笑っている。


「ああいう気の利かない奴はダメだな。メンバー変えようか?」

「まだ使えるほうなんで、別にいいです。で、社長? 私達を呼びつけた理由は? 探索上がりで疲れてるんですが」

「悪いな本当に。実はさ、君達にいい儲け話ができたんだよ」


 儲け話、と聞いてアイの瞳が鋭く光る。生まれ落ちて二十九年、お金の匂いには人一倍敏感である。


「みんなも見てくれよ。ビッグプロジェクトだ」


 そういい、社長は一枚の紙をテーブルの上に置いた。そこには、【チーム袋小路スペシャルライブ】というタイトルが書かれている。


 場所は日本でも最も有名な高難関ダンジョン【闇竜の魔窟】と書かれており、日付はまだ決まっていないようだった。


「闇竜の魔窟って、今もっともホットなダンジョンですよね。でも、難易度高すぎて誰も下に潜れないんでしたっけ」

「ああ、そのとおり。特にこのダンジョンは、今まで深層より奥に進めたチームが一つもないんだ。そこで、満を持してアイ……君に前人未到の記録を打ち立てて欲しいんだ。今回は会社全体で君をバックアップする」


 その時、先ほどの男が速足で部屋に入り、頭を下げながら紅茶を差し出す。アイは特に興味なさげに、ティーカップを手に取った。


「会社全体でバックアップ……ってことは、うちの事務所の精鋭も貸してくれるんですよね?」

「ん? ああ、別に構わんよ。俺がどうとでも言って引っ張ってこれるから」

「ふぅーん。じゃあやりますよ」

「決まりだな」


 道宗は顔いっぱいに喜びを浮かべていた。


「はい。じゃあここにいる三名は、今日から外してください」

「え?」

「は?」

「……はい?」


 外野状態で話を聞いていた探索者三名は、戸惑いを隠せない。しかし社長は特に気にする様子もなく、首を縦に振る。


「いいだろう。ベストメンバーを揃えておくから、お前達は新しいチームが編成されるまで、待機だ。でも、そうだなぁー。メンバーを揃えたら、まずは試運転をした方が良いな。適当なダンジョンに何度か潜ってもらって、」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 ここまで黙って聞いていた女探索者が、勇気を振り絞って前に出る。


「これって実質、クビってことじゃないですか? あたし達、これまでアイさんと一緒に頑張ってきたのに、それをいきなり——」

「いやいや、活躍してたの私だけっしょ」


 憤りと共に反論しようとした矢先、アイから予想外の言葉を投げかけられた。


「サポートしてただけなんだから、一緒に頑張ってたはなくない? ねえ社長」

「そうだぞ。口を慎め。お前達はもう席を外せ。今後のことは追って伝える」


 他の探索者仲間も、悔しさに歯噛みしたが、結局二人に逆らうことはできない。消沈しながら去っていく後ろ姿を見ても、社長と売れっ子ライバーは何とも思わなかった。


「それとだ、アイ。最近ちょっと遊んでいるよな? 程々にしておけよ。お前のイメージダウンは避けねばならん」

「分かってますよ。大丈夫、大丈夫」

「あと……言いづらいが今より、ファンサービスに力を入れてほしい。ファンイベントが今度あるから、そこに、」

「は? 何で私がファンサなんてする必要があるんです?」


 新たな仕事の相談に、途端にアイは渋った顔になる。


「最近はな。けっこう人気が出ているライバーも多いんだよ。ほら、何だっけな。最近よく出てる……葵っていう、」

「あおい?」


 この発言は地雷だった。売れっ子ライバーを脅かす存在の名前を口にしたことを、道宗は気づいていなかった。


「あんな小娘が、私を追い抜かす……と。そう言いたいんですか」

「いや、違う! そんなことは決して」

「ガキに抜かされるなんてありえないでしょ!」

「うひ!?」


 次の瞬間、アイはテーブルを蹴り上げた。社長の目前でテーブルが浮かび上がり、背後の壁に激突する。


(このバカが!)


 社長に対して思ったことは言えなかったが、顔には罵倒したい意図が丸見えであった。そのまま彼女は、鬼のような形相のまま部屋を出ていってしまう。


「何だよアイツ。めちゃくちゃ嫉妬してんじゃねえか。まあいい、どうせ俺の話は断れない。うちの会社は、これから大いに成り上がる」


 社長は一人になった部屋の中で、それでも笑っていた。


 彼にとって人の心とは、お金でどうとでもなるもの。そう考えて生きてきたし、今後もやり方を変えるつもりはなかった。


「よっしゃ。とにかく約束は取り付けたし、休憩ついでにテレビでも観るかぁ」


 余裕のできた彼は、部屋に設置されているテレビを付けると、ニュース番組が映し出される。


「ニュース番組なんてつまんねえ。……ん?」


 しかし、彼は報道内容に釘付けになる。


 それはとある大人気探索者が、ダンジョン配信中にイレギュラーに襲われてしまったという内容であった。

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― 新着の感想 ―
このシャチョサンには名前の如く袋小路で人生迷って欲しいですね
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