#2
部屋の押し入れなんて、入るのは久方ぶりだ。
ましてや子供のように、全身を入れて中のもので隠れるなんて尚更。
この材木の香りが強い空間は、異様な安心感を与えてくれる。
スマホの画面を静かに閉じ、外の音に耳を傾ける。
暫くして、ガラスの割れる音と、一つの足音が聞こえた。
「何か」を探し回っているような足音は、私のいる押し入れのすぐ近くを通りすぎていった。
息を殺し、存在を悟られぬようにする。
跳ねる心臓、巡る緊張。
体が、心が。今、この瞬間さえ拒絶する。
すぐにでも吐いてしまいそうだ。
足音が突然小さくなる。
木々の揺れる音さえ恐ろしい。
スマホに突然、通知が来た。
確かに、私は電源を切ったはずだった。胸元のポケットが震え、乾いた電子音が沈黙を切り裂いた。
通知欄には「明日の月は綺麗でしょうね」とだけ表示されていた。
足音がこちらに向かってくる。
戸の前で止まる。
指先が戸をなぞるように滑り、そして──ゆっくりと、軋む音とともに、戸が開いた。
彼女の足元には、私が壊したカメラの残骸が落ちていた。
「…み~つけたぁ…」