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第5話 私と付き合ってください! そして振ってください!



 僕は混乱する桜田さんをなんとか落ち着かせて、彼女から詳しい話を聞くことにした。桜田さんは僕の隣に腰掛けると、なんとか笑顔を取り繕いながらも、やっぱりなんだか落ち着かないという様子で、僕から若干目を逸らして話し始める。

 

 「砂川君は、いつも星歌さんに体を揺さぶられてますよね?」

 「あ、うん」

 「揺さぶり症候群は大丈夫ですか?」

 「いつかは首がもげるかもしれないけど、今は大丈夫」

 「早く首が座ると良いですね」

 「もう十年以上前に座ってるはずなんだけどね」


 僕ってこの子からそんな認識のされ方だったんだ。多分星歌がいなかったら、桜田さんは目の前の席にいる僕の名前も覚えていなかったかもしれない。


 そして桜田さんは未だに僕に目を合わせようとしないまま、消え入りそうな小さな声で言った。


 「そ、それで、その……砂川君の推理通り、私がりんりんごです。まさか歌声を少し聴いただけで気づいちゃうなんて、私の動画を聴いてくれてるんですか?」

 「うん、いつも聴いてるよ」


 すごい、まさかりんりんご本人と出会えるなんて。クラスの男子達は絶対りんりんごは美少女だなんて浮かれた話をしていたけれど、彼らが知ったらより興奮するだろう。〝微笑みのメドゥーサ〟なんて半ば畏怖も込められた彼女の異名が、明日から急〝微笑みのりんりんご〟に変わってしまうかもしれない。


 「かわいい系の曲だけじゃなくて、色んなジャンルの曲を完璧に歌い上げるりんりんごを尊敬してるんだ。もっと聴きたいぐらいだよ」

 

 いわば推しとも言える存在と出会えたことに僕が感動して褒め称えていると、桜田さんは恥ずかしいのか照れているのか、耳まで真っ赤にしてモジモジしながら口を開いた。


 「そ、そんなに褒めてもらえるなんて嬉しいです。でも恥ずかしいので、私の正体については、皆に内緒にしてもらえませんか?」

 「ど、どうして?」


 桜田さんはさっき僕に土下座までして秘密にしてくれと頼んできたけれど、何度聞いても僕は驚きのあまり混乱してしまう。僕が聞き返すと、桜田さんは真っ赤になった顔を隠すように両手で顔を覆ってしまった。


 「え、えっと、その……学校の皆には、りんりんごとしての私じゃなくて、桜田鈴音としての私を見てもらいたいから、ですかね。それに私、人見知りというか、上がり症なところもあって、人前に出るのがちょっと怖いんです」


 いつも皆に笑顔という魔法をかけている微笑みのメドゥーサが、人前に出るのが苦手だなんて正直びっくりだ。動画だと、顔出しこそしていないけれど、あんな堂々とした歌いっぷりなのに。


 「正直、ここに来てくれたのが砂川君で良かったです。まだ知ってる寄りの人だったので。

  殆ど話したことのない方だったら、どうコミュニケーションをとればいいのか、考えるだけで怖くて怖くて……」


 ……まさか、あの石化の魔法は誰かと喋るのを防ぐためってこと? 手段が手荒すぎない?

 でも、桜田さんの中で僕が『知ってる寄り』の人としてカウントされてて良かった。一応知人って扱いだったのかなぁ、挨拶ぐらいしか交わしたことないのに。


 「わ、わかった。じゃありんりんごのことは秘密にするよ」

 「あ、ありがとうございます」

 「でも何だか勿体ないよ。ウチのクラス、いや学校全体でもりんりんごは人気だから、知ってもらえた方がもっと褒めてもらえるんじゃない?」

 「そ、そんなの、恥ずかしいですよぉ……」


 桜田さんはまた照れてしまったようで、今度はその綺麗な銀色の髪で顔を隠して悶絶しているようだった。

 やめてよ、そんな可愛い反応。意外と照れ屋さんなんだね、桜田さん。



 そんな彼女の姿も可愛らしく見えるけれど、確かにりんりんご程の有名人だと色々大変なこともあるだろう。インターネット上で活動しているなら尚更だ。

 柊真は結構秘密は大事にするけれど、星歌は本人にその気がなくても簡単にボロを出しそうだから、彼女の正体については僕の心の中に留めておこう。


 するとようやく落ち着いたらしい桜田さんは、意を決した様子で僕の方を向いて口を開いた。


 「えっと、砂川君。その……私、夢があるんです」


 桜田さん、いやりんりんごの夢ってなんだろう。それこそ歌ってみた動画を投稿してるぐらいだし、プロの歌手になるとかじゃないだろうか。


 「おこがましいかもしれませんが、私のお願い、聞いてくれませんか?」

 「え? 良いよ、全然」


 僕にお願い事? いや、もしかしてこれは……桜田さんの正体を秘密にする代わりにお付き合いを始めるみたいなラブコメ展開が!? 



 いや別に、僕はそんなことされなくても普通に秘密にするし、そんなラブコメもないか。

 と、僕が一人冷静になっている中、桜田さんは顔を真っ赤にしながら、とうとう決心した様子で口を開く。





 「砂川君……その、私と、私と……!」





 いや、待って。

 これは、本当にそういう展開?

 青春とは無縁だと思っていた日陰者に、とうとう青春が……!?

 そんな、バカな……!?


 そして桜田鈴音は、制服のスカートをギュッと掴んで、顔を耳まで真っ赤にして、隣に座る僕と目を合わせて、大きく口を開いた。





 「私と、付き合ってください!」





 ……え、ええええええええええええええええええっ!?

 僕は驚きのあまり叫んでしまいそうになったけれど、それはグッと堪えた。



 ぼ、僕、告白された? しかも、僕の大好きな歌い手、りんりんごから!?

 それに加えて、まるでお姫様のように上品で可愛らしい女の子から!?



 ……来てしまったのか。日陰者の僕にも、青春というものが!? ラブコメが!? 夢いっぱいの学園生活が!? 今、始まろうとしているのか!?

 正直、私とお友達になってくださいって言われるかと思ったけれど、僕は今、確かに告白されたぞぉ!?

 


 え? でも何で僕は告白されたの? 今までろくに会話もしたことないのに? 一目惚れって線もありえなくない?



 興奮の最中、ふと冷静になってそんな疑問が僕の頭をよぎったけれど、突然の告白というイベントに僕が混乱している中、桜田さんは顔を真っ赤にしたまま、そのまま僕に向かって勢いよく顔を下げた。





 「──そして、私を振ってください!」





 ……って、えぇ?

 告白してきたのに、振ってくださいって……ど、どういうこと!?



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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