第42話 やさぐれたハシビロコウの妹
「は、はじめまして、桜田鈴音ですっ。お、お兄さんとお付き合いをさせていただいております!」
「どーも、このやさぐれたハシビロコウみたいな人の妹、砂川小春です~。高校一年になりました。鈴音ちゃんってお呼びしても?」
「あ、はい、良いですよ」
「私のことは小春なりハルちゃんなり、どうぞお好きにお呼びくださいな~」
小春は桜田さんと握手をして、そして彼女の手を掴んだままブンブンと元気よく腕を振っている。
「この間、近くの学校にアイドルみたいな人が転校してきたって噂で聞きましたけど、まさかにーにの彼女だったなんて……大丈夫ですか? うちのにーに、結構ノンデリだと思いますけど、ストレス溜まってませんか?」
「だ、大丈夫ですよっ。多分」
ねぇ、桜田さん。今、多分って言った? 言ったよね? 僕にノンデリな部分あったの?
それはともかく、妹の小春がフレンドリーな対応してくれて助かる。やさぐれたハシビロコウっていうのは何?
「小春さんは、何か部活をされてるんですか?」
「陸上やってます。短距離が得意です!」
「は、速そう……」
「中学の時、小春は全国三位だったよ」
「メチャクチャ速いじゃないですか!?」
「それほどでも~」
僕は運動することはあまり好きじゃないけれど、小春はとにかく体を動かすのが好きだ。確か今日は部活が休みのはずだけど、こうして自主トレしているのだろう。
「ちなみに鈴音ちゃんは何か部活やってます?」
「こ、今度軽音楽部に入ることになりました」
「へー、軽音楽部に……って、軽音楽部!?」
軽音楽部、と聞いて驚いた小春は、すかさず僕の方を向いた。
小春が驚くのも無理はない。僕と小春は違う学校に通っているけれど、ウチの軽音楽部が、いや、僕達が前に組んでいたバンドが解散した経緯を知っているからだ。
「にーに、バンド組むの?」
「うん」
「……明日、隕石が降ってきて世界が滅んだりしないかな、大丈夫かな」
「そんなに意外!?」
前に解散してから半年以上経ってるからね。小春の前ではギターを弾いてるところなんて見せていないし。
小春は半ば心配しているみたいだけれど、そんな小春に桜田さんが声をかける。
「だ、大丈夫ですよ。私も頑張りますからっ」
「鈴音ちゃんもバンドに入るんですか? もしかしてドラム?」
「いえ、ボーカルです」
「ボーカル!?」
そしてまた小春は驚いた表情で僕を見る。まさか自分の彼女だからって桜田さんをボーカルに据えたんじゃ、とか考えてそう。
「私、結構音楽にはうるさいですよ~。普段ランニングしながら色んな曲を聴いてますから。私はアイドルのおっかけしてますけど、単純な歌唱力ならりんりんごとかも中々……」
「り、りんりんごも?」
「そりゃー、もうアイドルと言っても過言じゃないですよ! 鈴音ちゃんもりんりんごみたいに歌えるって期待してますよ~」
小春、小春。目の前にその御本人がいるんだよ。小春にとってはとても信じられないだろうけど、りんりんごが僕の彼女なんだ。
まぁ、失恋前提だけど!
「え、えへへぇ……」
一方、まるでアイドルのようだと評された桜田さんは、照れくさそうに笑っていた。
いや、何をそんなデレデレしているんだい君は。可愛いから良いけど。
その後、桜田さんと小春は趣味だとかファッションだとか色々話をした後、最終的に連絡先を交換していた。
「今度、にーにの取説送りますね。5ギガぐらいありますけど容量足りますか?」
「だ、大丈夫だと思います」
何その取説、なんでそんな容量あるの。桜田さんも受け取ろうとしないでよ。
僕が知らぬ間に小春が桜田さんに変なことを言わないか若干不安ではあるけれど、親睦を深めてくれたようで何よりだ。
すると小春は桜田さんから離れると、僕の腕を引っ張って教会の敷地の壁の裏に隠れて僕に囁いた。
「にーにって結構ストライクゾーン広いんだね」
「は? 桜田さんに何か文句でも?」
「あぁいや、鈴音ちゃんの何かが悪いってわけじゃなくて、にーにがああいう人を選ぶって意外だった」
そりゃ僕だって桜田さんから告白された時は驚きだったけれど、失恋前提とはいえアイドルみたいな美少女とお付き合いできるなら、それにりんりんごのお手伝いが出来るなら喜んでって感じだ。
「今日はお赤飯を炊かないとねっ」
「また炊くの? そんなしょっちゅう炊くものじゃないでしょ」
「なにを~。こういうおめでたいことを一つ一つ喜んで祝えるぐらいの人間じゃないと、鈴音ちゃんみたいな人とは付き合えないよ!」
まぁ確かに、日常に起きる些細な吉事も幸せに思えないとつまらない人間になってしまいそうだ。
「ね、にーにがまたバンドを組むのは、やっぱりNot Equalへの憧れ?」
僕や桜田さんの人生に大きな影響を与えたバンド、Not Equal。僕と一緒に十年前のライブを見た小春も知っている。
「それとも……」
と、小春は何かを言いかけた後、首をブンブンと横に振って、僕に笑顔を向けて言う。
「ま、ともかくおめでと、にーに」
そう言って、小春は僕の脇腹をえいえいと小突くのであった。
お読みくださってありがとうございますm(_ _)m
評価・ブクマ・感想などいただけると、とても嬉しいです




