第39話 おめでと、瀬那
お昼休み。僕は軽音楽部再興のために軽音楽部の部室に向かったのだけれど、僕に訝しげな視線を送る星歌と、僕を睨みつける桜田鈴音と、そして苦笑いを浮かべる桜田さんの三人に出迎えられた。
成る程、今日が僕の命日というわけか。最後の晩餐は卵焼きが良いです。桜田さんが作った卵焼きを食べたいです。
「はい、じゃあ裁判始めるよ」
僕は軽音楽部の部室に来たはずなんだけどなぁ。裁判ってこんな軽いノリで始まるんだ。なんだかテーブルとか椅子もそれっぽい配置になってるし。
「まずは……えっと、裁判ってどう進むの?」
この裁判長、もしかして無能か? 小学生の時に模擬裁判やったの覚えてないのか。
すると、検察役らしい妹の方の桜田さんがスッと手を挙げる。
「裁判長、私から良いですか」
「あ、んじゃあ朱音ちゃん」
するとパイプ椅子に座っていた妹の方の桜田さんが立ち上がり、僕の罪状を読み上げる。
「被告人、砂川瀬那は、まだこの学校に転校して間もないお姉ちゃんを誑かして、無理矢理恋人になるよう迫りました」
「裁判長! 異議あり!」
「認めない」
「嘘でしょ」
「ましてや、被告人は純朴なお姉ちゃんを洗脳して、さもお姉ちゃんが砂川君に一目惚れしたかのように捏造しました。
純粋な乙女心を踏みにじるような行為は、万死に値します。よって死刑を求刑します」
「嘘でしょ」
何だかすごいスピード感で死刑を求刑されたんだけど。今すぐにでも死刑が廃止された国に逃亡しようかな。いや、亡命の方が良いのかな。
「じゃあ被告人。火あぶりと磔刑のどっちが良い?」
「待って、死刑確定なの!? 僕への弁護は!? 桜田さんが弁護人なんじゃないの!?」
「いや、お姉ちゃんは被害者だから」
「魔女裁判より酷くない!?」
「砂川君が炎に耐性を持っていると信じています……」
「桜田さん、諦めないで!?」
さようなら。どうやら僕はここまでらしい……。
「まぁ、瀬那の処刑はまた今度にするとして」
ひとまず僕を断罪するための裁判が終わってせっかくお弁当を用意したというのに、星歌は箸を掴もうともせずに腕を組んでいた。
また今度って、僕、いつかは処刑されるってこと?
「いや、確かに怪しいとは思ってたんだよ。なんだか急に瀬那と鈴音ちゃんの距離が縮まったように感じたし、私が誘ってもいつも一人で帰ってる瀬那が何故か鈴音ちゃんとは一緒に帰ってるし、私をハブって二人でお昼ごはん食べたりしてるし……」
なんか状況証拠は全部出揃ってる気がするけどね。逆になんでそこまで気づいてたのに、星歌は僕らの関係に気づくことが出来なかったのか。
「でもワンチャン、瀬那が鈴音ちゃんの飼い犬になった線もあったし……」
「いやどういう線!?」
「ワンチャンだけにね」
「あぁ?」
「砂川君は犬というよりか、やさぐれたフクロウさんっぽいですよね」
「フクロウってよりかはハシビロコウっぽい」
「桜田さん達は何の話をしているの!?」
召使いとか飼い犬って、一体僕達のどこをどう見たらそう見えたのだろうか。
「でもね、二人のことはちょっとだけ噂になってたんだよ。前に二人が一緒に帰ってるのを見た子がさ、瀬那が鈴音ちゃんの家来になったんじゃないかって言ってたもん」
「家来!?」
「あるいは執事とか召使いとか小姓とか」
どちらにしろ、お仕えする側の立場じゃないか。
いや、でもそうやって噂していた人達の気持ちが僕にはわかる。
何も取り柄のない僕と、アイドル的存在である桜田さんが、カップルとして釣り合うわけがない。
だから、僕の方を下に見てそんな噂が流れていたに違いない。
「んで、どっちが告ったのん?」
「わ、私です」
「鈴音ちゃんが!?」
僕と桜田さんの本当の関係は明らかに出来ないけれど、やっぱり桜田さんが僕に一目惚れしたという設定は無理があると思う。
「ど、どこで告ったのん?」
「えっと……きょ、教会です」
「教会!? じゃあ誓いのキスとかしたの!?」
「いや、落ち着いて星歌。場所がたまたま教会ってだけだから」
「じゃあ、鈴音ちゃんは瀬那のどこを好きになったの?」
「え、えっと……私の歌を、褒めてくれたからです」
僕が桜田朱音に殺されそうになってた時も、桜田さんはそう言ってたっけ。そんな桜田さんの隣に座る朱音は、やっぱり納得がいかないという表情をしている。
僕でさえ「そうなの?」って聞きたくなってしまう理由だけど、僕は何も口出ししないでおこう。ここは桜田さんなりのストーリーを構築してもらう。
一応、僕達の関係を星歌に明かすかどうかは予め桜田さんと相談して、桜田さんの正体だけは本人の希望で秘密にすることにした。正体を知っている朱音にもそう話は通している。
まぁ僕が思っていた通り、僕と桜田さんの交際に星歌は納得いってないようだけど。
「待って。そういえば瀬那、鈴音ちゃんの歌を聞いたことがあるんだよね? 前にカラオケ行ってたし」
「うん」
「どうだったの?」
「涙が止まらなかった」
「鈴音ちゃんの歌は催涙歌ってこと?」
怖すぎるでしょ、そんな歌。
そして、桜田さんの妹である桜田朱音も援護に入る。
「星歌ちゃん、お姉ちゃんの歌唱力は保証するよ。人前で歌えるかどうかは別として」
「それが不安要素なんだけどなぁ」
「桜田さんの歌唱力は僕も保証する」
「うーん、まぁ瀬那がそこまで言うなら……」
〝微笑みのメドゥーサ〟たる桜田さんが上がり症というのはあまり知られていないけれど、彼女と親しい星歌は桜田さんのそんな側面をなんとなく知っているらしい。
だからこそ、桜田さんを新しいバンドのボーカルにする、というのは悩みどころである。正直、それは僕も半信半疑ではあるけれど。この前、一緒にカラオケ行ったときのことも鑑みるに。
「わ、私、頑張りますから!」
ただ、これも桜田さんの、いやりんりんごの成長に繋がるかもしれない。
それに……僕もそのバンドで、ギターを弾いてみたいのだ。
「じゃあ鈴音ちゃん。今日の放課後、一緒にカラオケ行こ」
「せ、星歌さんが目隠ししてくれるなら」
「何それ、どういうプレイ? 私、なんか怖いことされる?」
「星歌ちゃん、それも鈴音ちゃんの歌声を聴くためだと思って我慢して。私も慣れたから」
ちょっと待って、妹の方の桜田さんも普段は目隠しして桜田さんの歌を聴かされているの?
家族相手でそれだと、本当にステージに立てるのか不安になってくるなぁ……僕がそんな心配をしている中、星歌は僕の方を向いて、グッとサムズアップして言った。
「おめでと、瀬那」
そう言って、星歌はようやく箸を掴んだのだった。
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