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第31話 Not Equal



 僕の家から歩いて十分ぐらいの場所に佇む教会は、今日も相変わらず人気が無く、廃墟とか心霊スポットのようにも思える雰囲気を漂わせている。


 放課後、僕は一旦帰宅した後にギターケースを携えて教会を訪れていた。するとステンドグラスから光が差し込む教会の中で、桜田さんが僕のことを待ってくれていた。


 「こ、これが砂川君のギターなんですね」


 僕が椅子の上に置いたケースからエレキギターを取り出すと、桜田さんは何故か興奮した様子で僕のギターを見つめていた。そんなに楽しみだったのかな。


 「この前ちょっと話した、七万とか八万円のギターだよ。中古でそれぐらいだから、新品だと十万円超えるかな」

 「ちなみに購入の決め手は?」

 「メーカーと見た目」


 エレキギターは国内外色んなメーカーがあるけれど、やっぱり最大手みたいな歴史ある有名なメーカーがあって、僕もそれに憧れて中古ショップを巡ってこのギターを探し当てた。多少は音にもこだわりはあるけれど、これを買った頃はまだまだ見た目重視だったと思う。


 「じゃあ、早速コードの練習しようか」

 「え!? 私がこのギターを持つんですか!?」

 「じゃあ僕は何のためにここにギターを持ってきたの!?」


 この間のデート中、桜田さんとフラッと立ち寄った楽器店で、今度機会があったら僕のギターを使って練習しようという約束をして、そして今日早速桜田さんの方からこの教会で練習しようという話になったのだけれど……緊張しているのか、桜田さんは中々僕が愛用しているギターを握ろうとはしてくれない。


 「もしかして、ギターの持ち方わからない?」

 「あ、いえ……こんな高価なものを壊してしまったらどうしようかと思って……」

 

 このエレキギターは中古で七、八万円。新品で十万円以上の価値がある、人気メーカーのものだ。僕ら高校生にとっては中々の価格のものだし、それに人の物だからと桜田さんは遠慮している、というか怯えているのだろう。


 「いや、そう簡単には壊れないから大丈夫だよ。ほら、ネックを持ってみて」

 「は、はいぃ……」


 僕はササッとアンプやエフェクターもセッティングして、桜田さんが持ちやすいようにギターストラップを彼女の首からかけたけれど、不意に接近してしまったためちょっとドギマギしてしまっていた。

 

 「お、おぉ……」


 そしてギターを構えた桜田さんは、自分が持つギターを感動した様子で眺めながら、僕が渡したピックでジャジャーンと弦を弾いて奏でると、さっきまで緊張していた様子の表情が緩んで、今度は僕にドヤ顔を見せた。


 「すごい! 何だか弾けそうな気がしてきました!」

 「あ、そう? なら良かった、じゃあまずは基本的なコードから……」


 意外と桜田さんが乗り気になってくれたため、僕は簡単なコードから桜田さんに教えて、繰り返し練習をさせてみた──。




 ◇




 「私なんかにギターは弾けないんです……」


 どうしてこうなっちゃったんだろう。


 さっきまでの興奮はどこに行ってしまったのか、桜田さんはギターを置いて教会の椅子に力なく座り込んでしまったのだった。


 「ま、まぁ一日で全部覚えることじゃないよ。毎日コツコツと練習していけば、きっと桜田さんの好きな曲も弾けるようになるから!」

 「そうでしょうか……」

 「そうだよ! 僕も昔は毎日練習してたし」

 

 僕はギターを弾くことでしか生きていることを実感できなかったからね。僕の命そのものだったんだよ。


 「ちなみに、砂川君が自分の好きな曲をギターで弾けるようになるまで、どのくらいかかりましたか?」

 「えっと……ある程度満足に弾けるようになったのは、初めてギターを握ってから半年ぐらいかなぁ。弾けたと言っても簡単な曲だけど」

 「は、半年ですか……」

 「それは個人差だから、早い人はもっと早いよ」

 「私は十年ぐらいかかるかもしれません……」

 「そんなに!?」


 桜田さんはすっかり気落ちしてしまったみたいだけど、簡単なコード一つ一つなら弾くことは出来ていた。でもちょっとずつランクを上げていくとどうも混乱してしまうようで、きっとTAB譜なんて見せたら頭がパンクしてしまうだろう。


 「大丈夫だよ桜田さん。そんな今日初めて触ってこれだけ弾けたんだから、練習すればいけるよ」

 「そ、そうでしょうか……あ、そういえば私、砂川君がギターを弾いているところ、まだ見せてもらってませんよ! 砂川君が弾いているところを見せてもらえたら、もしかしたら励みになるかもしれません」

 「え? そ、そうなの? じゃあ何か弾いてみるよ」


 確かに、まずは手本を見せるのも大事だったね。

 僕は桜田さんが手放してしまったギターを握って、教会の椅子に座って構えた。


 「何を弾こうか? そういえば桜田さんがギターで弾きたい曲って何なの?」

 「えっと、色々あるんですけど……砂川君は、Not Equal(ノットイコール)というバンドをご存知ですか?」

 

 Not Equal。

 そのバンドは僕も知っている。メジャーデビューもしていないインディーズバンド、そして今はもう活動していない、伝説の五人組を。


 「うん、知ってるよ。もしかして……」

 「や、『やがて消えゆく星の光へ』をリクエストしたいです」


 僕は桜田さんがノットイコールというバンドを知っていることに驚いていたけれど、偶然にも僕も知っている曲だったため、彼女のリクエスト通り、『やがて消えゆく星の光へ』を弾き始めた。



 お読みくださってありがとうございますm(_ _)m

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