第27話 お願いだから軽音楽部へ!
きっかけは人それぞれだけれど、特にギターだったりドラムに触った経験のある人は、三年間しかない高校生活のどこかでバンドを組んでみたいと思うだろう。その目的も、人それぞれだけれど。
僕もその一人だった。実際、この学校に入学して早々にバンドを組んだし。
でももう、この学校に軽音楽部は存在しないようなものなのだ。
「部員、足りてないんですか?」
お弁当をつつくのも忘れて星歌の熱弁を聞いていた桜田さんが恐る恐るという様子で星歌に言う。
しかし、星歌は未だに僕が発した言葉のナイフが突き刺さっていて喋られそうにないので、代わりに僕が答える。
「軽音楽部の部員、三人しかいないんだよ。ウチの学校の規定だと、部員が五人以上所属していないと部活として正式に認められないんだ。本当はこうやって部室すら持つことも許されてないんだけど、星歌は生徒会にコネを持ってて、部屋が余ってるって理由でなんとか許されてる」
「あ、ここって軽音楽部の部室だったんですね」
「そ。殆ど星歌が私的利用してるだけなんだけど。もちろん予算とか何も貰えてないからね」
星歌の従兄が生徒会長だからなんとか口利きしてもらって、ほぼ星歌のワガママで軽音楽部は存在を許されている。
でも今現在、部員が増える見込みはない。だってこの間の新入生向けのオリエンテーションで、新入生の勧誘にも失敗しているのだから。活動しているかも怪しい軽音楽部の門戸を叩くような、熱血的な後輩がいたようにも思えないし。
「軽音楽部ってそんなに人気ないんですか? この学校、生徒の数も結構多くて、楽器を触ってる人も多そうなのに」
するとようやく復活したらしい星歌が、項垂れながら桜田さんの質問に答える。
「ウチは運動部が結構強豪だし、吹奏楽部とか合唱部も全国のコンクールで優勝するぐらい強いんだよねぇ。おかげでそっち目当てで入る人が多くて、バンドメンバーが全然集まらないんだよぉ……」
星歌達が復活させるまでは休部状態にあったぐらいで、生徒数は九百人ぐらいいる大きな学校なのに、そもそも存在を知っている人が少ないのかもしれない。
「ちなみに三人の部員って、星歌さんと後は誰なんですか?」
「瀬那と柊真」
「柊真は幼馴染のよしみで野球部と兼部してくれてるけど、僕も含めて幽霊部員だよ。だから実質星歌のワンマン」
「ぐぬぬぅ……」
「じゃあスリーピースバンドを組むにしても、全部星歌さんがやらないといけないんですね……」
「弾き語りとかあまり得意じゃないんだよねぇ」
「いや、ドラム叩きながらギターを弾くほうが難しいでしょ」
本当は、五人揃っていたはずなのだ。
でも去年の夏に、軽音楽部はほぼ廃部状態となった。部員が揃わなくなってしまったからだ。
現在は星歌が軽音楽部の部室を私的に使っているぐらいだけど、星歌はまだ軽音楽部の復活を夢見ているらしい。
「私だってね、できることなら新入生向けのオリエンで弾き語りとかしたかったけれど、私はあまりギター弾くの得意じゃないし、かといってただ歌うだけじゃ物足りないなぁって思って……私、結局何したんだっけ?」
「自分が好きな歌手とかバンドをひたすら語ってるだけだったでしょ」
「あ、そうだったそうだった。多分りんりんごの話ばっかだったと思うけど。私もりんりんごみたいに歌えたら、かわいい後輩達の前でリサイタル出来たかもしれないのになぁ……」
楽器弾いてなかったら何の部活かわからないだろうけどね。ただの音楽同好会だよ。
「でも、星歌はそんな謙遜する程じゃないでしょ。りんりんごとは声が合う曲が違うってだけで、星歌だって歌は上手いじゃないか」
僕がそうフォローしても、星歌は大きく溜息をついて言う。
「ちっちっち。わかってないねゼリーボーイは」
「チェリーだよ。いや僕はチェリーじゃないけど」
「私の歌なんてどうでも良いんだよ。それより私は、鈴音ちゃんの歌声も聞いてみたいけどな~」
「わ、私の歌声を聞いたら地獄に落ちちゃいますよっ」
「鈴音ちゃんはセイレーンなの?」
星歌。君はきっと普段から桜田さんの歌声を聞いているはずだよ。いつ気づくかわからないけれど、この調子だと二人が一緒にカラオケに行くのは当分先のことになりそうだ。
「と・に・か・く! 私は皆にチヤホヤされたいから……じゃなかった、皆を感動させたいから、軽音楽部でバンド活動を頑張りたいの!」
そして星歌は正面に座る桜田さんの手をいきなり掴んで、必死な眼差しで言う。なんか本音がダダ漏れだった気がするけど。
「ねぇ鈴音ちゃん、軽音楽部に入らない? 別に歌や楽器は出来なくても、トライアングルとかカスタネットとかマラカスを持ってるだけでも良いから」
「ま、マラカス……?」
「やめなよ星歌。無理矢理桜田さんを誘おうとするんじゃない」
「オタマトーンでも良いなら」
「桜田さんものらないの」
しかし、桜田さんの正体は、あの歌姫りんりんごなのだ。その事実が広まったら、それを聞きつけて何人かバンドメンバーは集まりそうだけれど、下心たっぷりな連中が集まりそうで怖い。いや、僕も割と下心たっぷりな人間の一人だけど。
だが、桜田さんは星歌の提案に少々狼狽えながらも口を開いた。
「じゃあ、もし私と朱音ちゃんが加わったら、部員は揃うってことですか?」
桜田さんの双子の妹である桜田朱音も加わるのなら、一応正式に部活として認められる人数は揃うことになる。柊真は楽器とか全然演奏できないから、テキトーに踊らせることしか出来ないけど。
「も、もしかして、二人共入ってくれるってこと……?」
「私は何も出来ないですけど、朱音ちゃんはピアノ弾けますよ」
「じゃあキーボードもいける!?」
「はい、弾いてたことありました」
「鈴音ちゃんは何が良い? ウチ、ドラマーいないからドラマーやってみない?」
「ドラム缶に隠れてて良いなら」
案外トントン拍子で軽音楽部再興の話が進んでいるところで、星歌は俄然やる気がみなぎってきたのか、彼女は嬉しそうに満面の笑みで僕に言う。
「瀬那! 今度ギター持ってきてね!」
「嫌だよ。面倒くさい」
「ちぇ~。瀬那はいつもそーじゃん」
軽音楽部の再興、か。
そんなの、考えたこと無かったな……。
失恋前提とはいえ、桜田さんと付き合っている僕が言うのもなんだけれど、桜田さん達とバンドを組むだなんて、僕にとっては夢物語のようだった。
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